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最終魔戦
緑の怪物
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ニオンは緑色の体毛に覆われた狐の怪物を見据えると、穏やかな表情のまま腰に携えている刀を抜いた。脱力して両手で柄を優しく握る。
彼の目の前にいるのは今まで見たこともない未知の魔物、なめてかかっていい相手ではないだろう。
「ぐふふふ、ワチキはミドリコンコン。ワチキは偉大なる力によって作られし、超強い魔物ぞ!」
そう言う身長三メートル程ある二足歩行の緑色の狐の股間部にはモジャモジャした物体がある。
だが、陰毛ではないようだ。一本一本が意思を持ったように蠢いているのだ。
それは、細い触手の集まりであった。
「……偉大なる力。そうか、お前達はあれによって創造されたと言うわけか」
ミドリコンコンの「偉大なる力」という、言葉を聞いたニオンは囁くように言った。
「魔王の出現を司り、魔王軍が神と崇める存在。私達、人類側には秘匿された超常の者」
「なっ! ……貴様なぜ、それを? いやバカな! 我々の神を知る人間がいてたまるか!」
ニオンの発言に、ミドリコンコンは驚愕の表情を見せる。
声を荒げる緑の狐に切っ先を向け、またニオンは穏やかに口を開く。
「この世界には二つの神がいた。創造の女神リズエルと、もう一つは……」
「ええい! だまれっ! そんなバカな……」
ニオンの言葉を遮るように巨人は怒鳴る。
「なぜだ! なぜ我らの神を。人間である、お前ごときが我らの神の存在を知るなどありえん。人間どもが知るはずがないのに!」
ミドリコンコンは認めたくないように声を荒げることしかできなかった。
「……『発達した科学は神との接触を実現させ、進化しすぎた超科学は理を干渉せずに奇跡や神業を可能とする』……私に、もう一つの神の存在を教えてくれた人が言っていた言葉だ。詳しい意味は分からないが、おそらく高度なテクノロジーを用いれば超常の存在との対話も可能と言うことではなかろうかね。やはり、祈るだけでも、崇拝するだけでも、それだけでは神を理解できるまでには至らないのだろう」
ニオンのその言葉に、ミドリコンコンの血の気が引いていく。
……高度なテクノロジーで神との接触?
言っていることが、うまく理解できない。理解はできないが、異常であるのはたしか。
あきらかに人が踏みいってはいけない領域を語っている。
「お前、危険すぎる。……お前のような危険な思考を持つものは、ここで殺さなければ。この世界や神に、どんな影響を及ぼすか……」
ミドリコンコンの股間部の触手の動きが激しくなった。
それにあわせて、ニオンも刀を構えなおす。
「我が珍技を受けてみぃ! 珍技・下毛百腕」
ミドリコンコンが叫ぶと、股間部の触手の集まりから二本の触手が伸び肥大化した。
大きくなった触手は、勢いよくニオンに向かう。
緑色の触手がニオンを殴り飛ばそうと彼の間合いに入った瞬間、高速の斬撃を放たれた。
二つの触手は抵抗もなく切り飛ばされる。
「げっ! ワチキの触手が……。ええい、次だ!」
ミドリコンコンは自分の触手が容易く切り裂かれたことに驚くが、すぐに気を取り直した。
今度は六つの触手がくりだされた。
しかし、恐れた様子もなくニオンは駆け出した。
向かってくる触手を正確に見切り、最小限の動きで四つの触手をかわし、二つの触手を切り落とした。切断部から紫色の体液が噴出する。
「はぁっ!」
一気に接近したニオンは、ミドリコンコンの脇腹めがけ回し蹴りをはなつ。
普通の人間がニオンの蹴りを食らえば、骨が砕けて内臓が潰れる。
魔物と言えども軽傷ではすまされない。それだけニオンの脚力は強靭なのだ。
「なんの! 珍技・陰嚢緩和袋!」
ミドリコンコンがそう叫ぶと、いきなりニオンの前面にパンパンに膨らんだ袋が出現した。
ニオンの蹴りは、その緩和袋にぶつかり衝撃を吸収される。
しかし完全に衝撃を緩和できた訳ではないようだ。
「……おっとっとっ」
ニオンの蹴りが強力だったためか、吸収しきれなかった衝撃によりミドリコンコンは後ろに倒れそうになった。
「んっ、その袋は……」
ニオンは、いきなり展開された緩和袋がなんなのか理解できた。
それは空気でパンパンに満たされた陰嚢であった。それを盾にすることで強烈な蹴りを耐えたのであろう。
「ぐーひっひっ、ワチキの陰嚢は柔軟で強靭。こうやって膨らませれば、どんな打撃も吸収してしまうのだ」
難攻不落に見えたが、打撃にのみ有効な陰嚢であったようだ。
パァン! と、いきなり凄まじい破裂音が響いた。
「んぎぃぃぃ! ワチキの陰嚢があぁ!」
風船のように膨らんでいた緩和袋を刀で突かれたのだ。
打撃には有効だが、刃物には無意味であったようだ。ましてやニオンの持つ血統刃は超高純度のマガトクロムの刀。
通常物質なら難なく切断できる鋭さである。
パンパンだった陰嚢は空気が抜け、萎んでしまった。
「なぬぬぬ……まだだ! こうなれば力で勝負だ! 珍技・御陰毛捕縛」
ミドリコンコンはそう言うと、股間部から拡大せず細い十本の触手を伸ばしてきた。細いので視認は難しい。
それらがニオンの両腕に巻き付く。
「今度は、何をしようと言うのかね?」
触手がきつく両腕にまとわりついてきても、ニオンは冷静な口調で言う。
「両腕を縛られては刃物は振れまい。さあ、こっちに来るのだ!」
ミドリコンコンはニオンに巻き付いた触手を、綱引きでもするかのように勢いよく引っ張りこんだ。
「でへへへ! 触手は一度に十本までしか操作できん。だが、お前も刀は振れんだろう。あとは触手ではなく、本来の手で殴り殺す!」
とは言うが、ミドリコンコンはここで異常なことに気づいた。
さっきから本気で触手を引っ張っているのだが、ビクともしないのだ。
ニオンを引っ張り寄せることができないのだ。
「あっれぇー? おかしいなぁ?」
ミドリコンコンは少し考えこむと、悪寒を走らせた。気づいたのだ、力負けしていることに。
「ちょっ、まて! おかしいだろう。魔術で肉体も強化していない人間がなんで、こんな力を持っているんだ?」
人間と魔物の肉体的能力の差は歴然である。
魔術で肉体を強化すれば、魔物以上の筋力を発揮することはできるだろう。
しかしニオンは魔術など一切用いていない。と言うよりも魔力さえもっていない。
つまりこの男は、生身の力だけで魔物を凌駕していることを意味していた。
「残念ながら、この程度の力では隊長殿の足下にも及ばない」
そう言うと、今度はニオンが触手を引っ張り始めた。人間の力ではなかった。
「ぎゃひぃ!」
いきなり引かれたためミドリコンコンは転倒した。
そのまま三メートルにもなる巨人がズルズルと引きづられていく。
「こうなれば、やけよ!」
そしてニオンの足下近くまで引き寄せられると、ミドリコンコンは急に立ち上がり殴りかかった。
だが見切っていたらしくニオンは、その攻撃をあせることなくかわし、懐に潜り込み胴体に刀を突き刺した。
「ごはぁ!」
血を吐き崩れ落ちるミドリコンコン。
膝をついたためか、目線はニオンと同じぐらいになった。
ミドリコンコンはそのまま、ニオンの瞳を覗きこんだ。
青年の目は美しくも、その奥には凍土のような冷血さも見えた。
そしてミドリコンコンは、また血を吐くと笑みを見せた。
「……ぐふぅ……これで終わったと思うなよ。我々魔王軍には、まだ魔王様と災魔神様がおられる。……必ず貴様達を地獄に……」
「……災魔神? それが、お前達を作った神の名かね? 哀れなものだ、それはとんでもない偽名だ。生みの親の本当の名を教えてもらえないなど」
「えっ? ……偽名だと?」
ニオンの言葉に巨人は、凄まじい動揺を見せた。
「何をバカな……災魔神様は我を作りし神……必ずワチキの無念を……」
「信じたくなければ、それでもいい。そのほうが迷わずに逝けるだろう」
ニオンは動揺を隠せないミドリコンコンに一閃を放った。
高速の一刀でミドリコンコンの首が断たれ、胴体から噴水のごとく体液が吹き出し周囲を汚す。
しばらくしてから、残された胴体がズシリと倒れこんだ。
「……なんのために、英雄と魔族の戦いを継続しているのか」
ニオンは、一人で静かに呟くのであった。
彼の目の前にいるのは今まで見たこともない未知の魔物、なめてかかっていい相手ではないだろう。
「ぐふふふ、ワチキはミドリコンコン。ワチキは偉大なる力によって作られし、超強い魔物ぞ!」
そう言う身長三メートル程ある二足歩行の緑色の狐の股間部にはモジャモジャした物体がある。
だが、陰毛ではないようだ。一本一本が意思を持ったように蠢いているのだ。
それは、細い触手の集まりであった。
「……偉大なる力。そうか、お前達はあれによって創造されたと言うわけか」
ミドリコンコンの「偉大なる力」という、言葉を聞いたニオンは囁くように言った。
「魔王の出現を司り、魔王軍が神と崇める存在。私達、人類側には秘匿された超常の者」
「なっ! ……貴様なぜ、それを? いやバカな! 我々の神を知る人間がいてたまるか!」
ニオンの発言に、ミドリコンコンは驚愕の表情を見せる。
声を荒げる緑の狐に切っ先を向け、またニオンは穏やかに口を開く。
「この世界には二つの神がいた。創造の女神リズエルと、もう一つは……」
「ええい! だまれっ! そんなバカな……」
ニオンの言葉を遮るように巨人は怒鳴る。
「なぜだ! なぜ我らの神を。人間である、お前ごときが我らの神の存在を知るなどありえん。人間どもが知るはずがないのに!」
ミドリコンコンは認めたくないように声を荒げることしかできなかった。
「……『発達した科学は神との接触を実現させ、進化しすぎた超科学は理を干渉せずに奇跡や神業を可能とする』……私に、もう一つの神の存在を教えてくれた人が言っていた言葉だ。詳しい意味は分からないが、おそらく高度なテクノロジーを用いれば超常の存在との対話も可能と言うことではなかろうかね。やはり、祈るだけでも、崇拝するだけでも、それだけでは神を理解できるまでには至らないのだろう」
ニオンのその言葉に、ミドリコンコンの血の気が引いていく。
……高度なテクノロジーで神との接触?
言っていることが、うまく理解できない。理解はできないが、異常であるのはたしか。
あきらかに人が踏みいってはいけない領域を語っている。
「お前、危険すぎる。……お前のような危険な思考を持つものは、ここで殺さなければ。この世界や神に、どんな影響を及ぼすか……」
ミドリコンコンの股間部の触手の動きが激しくなった。
それにあわせて、ニオンも刀を構えなおす。
「我が珍技を受けてみぃ! 珍技・下毛百腕」
ミドリコンコンが叫ぶと、股間部の触手の集まりから二本の触手が伸び肥大化した。
大きくなった触手は、勢いよくニオンに向かう。
緑色の触手がニオンを殴り飛ばそうと彼の間合いに入った瞬間、高速の斬撃を放たれた。
二つの触手は抵抗もなく切り飛ばされる。
「げっ! ワチキの触手が……。ええい、次だ!」
ミドリコンコンは自分の触手が容易く切り裂かれたことに驚くが、すぐに気を取り直した。
今度は六つの触手がくりだされた。
しかし、恐れた様子もなくニオンは駆け出した。
向かってくる触手を正確に見切り、最小限の動きで四つの触手をかわし、二つの触手を切り落とした。切断部から紫色の体液が噴出する。
「はぁっ!」
一気に接近したニオンは、ミドリコンコンの脇腹めがけ回し蹴りをはなつ。
普通の人間がニオンの蹴りを食らえば、骨が砕けて内臓が潰れる。
魔物と言えども軽傷ではすまされない。それだけニオンの脚力は強靭なのだ。
「なんの! 珍技・陰嚢緩和袋!」
ミドリコンコンがそう叫ぶと、いきなりニオンの前面にパンパンに膨らんだ袋が出現した。
ニオンの蹴りは、その緩和袋にぶつかり衝撃を吸収される。
しかし完全に衝撃を緩和できた訳ではないようだ。
「……おっとっとっ」
ニオンの蹴りが強力だったためか、吸収しきれなかった衝撃によりミドリコンコンは後ろに倒れそうになった。
「んっ、その袋は……」
ニオンは、いきなり展開された緩和袋がなんなのか理解できた。
それは空気でパンパンに満たされた陰嚢であった。それを盾にすることで強烈な蹴りを耐えたのであろう。
「ぐーひっひっ、ワチキの陰嚢は柔軟で強靭。こうやって膨らませれば、どんな打撃も吸収してしまうのだ」
難攻不落に見えたが、打撃にのみ有効な陰嚢であったようだ。
パァン! と、いきなり凄まじい破裂音が響いた。
「んぎぃぃぃ! ワチキの陰嚢があぁ!」
風船のように膨らんでいた緩和袋を刀で突かれたのだ。
打撃には有効だが、刃物には無意味であったようだ。ましてやニオンの持つ血統刃は超高純度のマガトクロムの刀。
通常物質なら難なく切断できる鋭さである。
パンパンだった陰嚢は空気が抜け、萎んでしまった。
「なぬぬぬ……まだだ! こうなれば力で勝負だ! 珍技・御陰毛捕縛」
ミドリコンコンはそう言うと、股間部から拡大せず細い十本の触手を伸ばしてきた。細いので視認は難しい。
それらがニオンの両腕に巻き付く。
「今度は、何をしようと言うのかね?」
触手がきつく両腕にまとわりついてきても、ニオンは冷静な口調で言う。
「両腕を縛られては刃物は振れまい。さあ、こっちに来るのだ!」
ミドリコンコンはニオンに巻き付いた触手を、綱引きでもするかのように勢いよく引っ張りこんだ。
「でへへへ! 触手は一度に十本までしか操作できん。だが、お前も刀は振れんだろう。あとは触手ではなく、本来の手で殴り殺す!」
とは言うが、ミドリコンコンはここで異常なことに気づいた。
さっきから本気で触手を引っ張っているのだが、ビクともしないのだ。
ニオンを引っ張り寄せることができないのだ。
「あっれぇー? おかしいなぁ?」
ミドリコンコンは少し考えこむと、悪寒を走らせた。気づいたのだ、力負けしていることに。
「ちょっ、まて! おかしいだろう。魔術で肉体も強化していない人間がなんで、こんな力を持っているんだ?」
人間と魔物の肉体的能力の差は歴然である。
魔術で肉体を強化すれば、魔物以上の筋力を発揮することはできるだろう。
しかしニオンは魔術など一切用いていない。と言うよりも魔力さえもっていない。
つまりこの男は、生身の力だけで魔物を凌駕していることを意味していた。
「残念ながら、この程度の力では隊長殿の足下にも及ばない」
そう言うと、今度はニオンが触手を引っ張り始めた。人間の力ではなかった。
「ぎゃひぃ!」
いきなり引かれたためミドリコンコンは転倒した。
そのまま三メートルにもなる巨人がズルズルと引きづられていく。
「こうなれば、やけよ!」
そしてニオンの足下近くまで引き寄せられると、ミドリコンコンは急に立ち上がり殴りかかった。
だが見切っていたらしくニオンは、その攻撃をあせることなくかわし、懐に潜り込み胴体に刀を突き刺した。
「ごはぁ!」
血を吐き崩れ落ちるミドリコンコン。
膝をついたためか、目線はニオンと同じぐらいになった。
ミドリコンコンはそのまま、ニオンの瞳を覗きこんだ。
青年の目は美しくも、その奥には凍土のような冷血さも見えた。
そしてミドリコンコンは、また血を吐くと笑みを見せた。
「……ぐふぅ……これで終わったと思うなよ。我々魔王軍には、まだ魔王様と災魔神様がおられる。……必ず貴様達を地獄に……」
「……災魔神? それが、お前達を作った神の名かね? 哀れなものだ、それはとんでもない偽名だ。生みの親の本当の名を教えてもらえないなど」
「えっ? ……偽名だと?」
ニオンの言葉に巨人は、凄まじい動揺を見せた。
「何をバカな……災魔神様は我を作りし神……必ずワチキの無念を……」
「信じたくなければ、それでもいい。そのほうが迷わずに逝けるだろう」
ニオンは動揺を隠せないミドリコンコンに一閃を放った。
高速の一刀でミドリコンコンの首が断たれ、胴体から噴水のごとく体液が吹き出し周囲を汚す。
しばらくしてから、残された胴体がズシリと倒れこんだ。
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