大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

魔軍全滅

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 魔王から授かった力、それは世界の理に干渉することで超常の力を発現させる能力。
 それゆえに反則としか言いようがないことが可能なのだ。
 この力の前では、誰も敵わなかった。
 ……しかし、はたしてその力は別の世界に通用するだろうか?
 例えば、神秘も奇跡も存在しえない世界などに……。


× × ×


 マエラさんの言っていた干渉不可能とは、この事だったのだろう。
 俺と怪獣こいつは、別の世界の存在のため、この世界の固有能力が通用しないと言うことなのだ。
 だからこそ、魔族達が行使したであろう超常の力は俺に作用しなかったのだろう。 

「俺は別の世界から来た者でな。超能力だの魔法だの、そんな都合の良い力が存在しない世界から来たんだ。だからこそ、それらの類いは俺に通用しないのだろう」

 マエラさんから多元宇宙に関することの発言は禁止されているが、こいつはもう死ぬ。冥土の土産として教えてやるなら問題ないだろう。せめての情けとして。
 そして彼女をしとめるため、俺は触角を前方に向けて彼女の胸に照準をつけた。

「……お前も……転生者なのか?……まって、話せば分かる! 私も転生者なんだ、同胞じゃないか」

 ……転生者?
 彼女から思いもよらない言葉が返ってきた。
 つまり彼女も俺達と同じく別の世界の存在と言うわけか? 肉体ではなく意識が。
 転生者と言うことは、彼女は別の世界で死にはて、この世界で生まれ変わったと言うことなのか。
 何が、どう言うことなんだ?
 マエラさんは、別の世界から何かを呼び寄せる技術など現時点ではないと言ったはず。それに、それが可能と思われる神も、今はいない。
 ……何が起きてるんだ?
 いや、今はそんなことを考えていても仕方ない。今やるべきは任務を成し遂げること。
 魔族達の駆除、それがオボロ隊長の指示。

「転生者など同胞など、今の俺には関係ないことだ。俺の任務は、てめえら魔族の殲滅。それだけだ」
「……お願い……やめて、話を聞いて」  

 ギロリと目を向けると、少女は震えた声をあげた。恐怖のあまりか、瞳孔が拡大し心拍数が上昇していることが察知できる。怪獣の超感覚によるものだろう。

「終わりだ、拠り所の能力が通用しない以上は」
「いやぁ……いやだ死にたくないよう。……せっかく転生したのに。……やりたいことがあるのに……お願い助けて」

 彼女は大粒の涙がこぼしながら、俺に懇願してくる。
 しかし、聞き入れることはできない。

「魔族は世界と共存できないそうだ。だから殺すしかないんだ」

 そう告げて、俺は右の触覚から光線を照射した。

「……ぐふぅっ!」

 寸分狂うことなく光線は少女の胸に巨大な穴を穿った。そして少女は吐血し、きりもみ回転しながら落ちていく。

「魔族は世界を破滅させる毒。隊長がそう言っていたぜ」

 空中から落下して鮮血をぶちまけた彼女の亡骸に、俺はそう吐き捨てた。


× × × 


 エルスは震えながら見ていることしかできなかった。丘の向こうに佇む巨体を、そして落下していくハルの姿を。
 いくら魔族とは言え、あの高さから落ちたら助からない。いや、もう彼女は死んだから落ちたのだろう。
 おそらく、リリアナも部下のオーガ達も全員、あの巨大な怪物に殺されてしまった。
 エルスは、そう悟った。
 ……もう自分一人しかいない。
 
「そ……そんな、みんなが」
「おい! 戦ってる最中によそ見するんじゃねぇ。オレを舐めてるのか?」

 震えるエルスの後方から大きな声をあげたのはオボロであった。魔王の力によってダメージを負っていないエルスとは真逆にオボロは全身が血で汚れている。
 よほど激しい戦闘をしていたのだろう。しかし血で濡れたオボロは息もきらさず平然とした様子である。

「オレにまともにダメージもあたえていねぇのに、よそ見する余裕があるのか」

 なぜオボロは全身血で汚れているのか?
 それは幾度も魔術を食らったからだ。しかし、それは異常なことなのだ。

「なあ、なんで魔術を食らって平気なんだ?」
「つうか……生身で受ける奴などいるか、普通」
「何回……攻撃を食らったと思ってるんだ」

 集落の住民達はオボロの異常性に驚きを隠せなかった。
 普通なら攻撃魔術は防御魔術で弾くか、回避するもの。生身で受けようなど、ありえないことなのだ。
 しかも魔王軍幹部の魔術ともなれば、まともに食らえば耐えられるものではない。
 ……だがしかし、オボロはそれを真っ向から浴び続けたにも関わらず、致命傷とは程遠い傷しか負っていないのだ。

「くそ! よくも……」

 エルスは仲間を殺された怒りに任せて、別の超常の力を発揮させた。
 彼の背中から無数の黒い腕が出現したのだ。
 エルスは、その腕のパワーを誇示するがごとく近くに生えていた樹木の幹を握り潰して見せた。

「あなたの体も、こんなふうにしてあげます」

 エルスが、そう言うと無数の黒き魔手がオボロの身体中に掴みかかる。
 この魔手の力にかかれば、オボロの肉体を潰すも抉るも自由。そう考えてエルスは、魔手達に力を込めさせた。
 ミチミチとオボロの肉が軋む音がなる。
 ……しかし。

「どうした? 潰すなり、ちぎり取るなりしろよ」
「……どうして? 引き裂けない」

 樹木をも潰す魔手に掴まれてるにも関わらずオボロは何事もないかのように言葉を口にする。
 エルスは、そのありさまに冷や汗を流した。
 魔王から授かった能力が、まるで通用していない。それほどまでにオボロの体が強靭としか言いようがない。

「これっぱかしの膂力ちからで、オレの体が参るとでも思ったか」

 そう言うとオボロは逆に魔手達に掴みかかり、まとめて引きちぎった。
 エルスは後退り、怯えた声をあげた。

「……そんな、僕の力が」
「所詮はガキか、能力に頼りすぎだ」

 その瞬間、オボロは駆け出しエルスの右腕を掴んだ。魔手の力を行使しているため、さきほどの敵の攻撃をすり抜ける能力は解かれていた。
 能力にもよるが、一度に複数の力は制御しきれないのだ。
 そしてエルスの小枝のように細い腕は、オボロの怪力によって肩口からもぎ取られた。

「あ゛あ゛あ゛あぁ!!」

 エルスの絶叫が響き渡る。皮膚が裂け、赤い肉と、白い骨が剥き出しになった。
 そして間入れず、オボロはそのちぎり取った腕でエルスを殴り飛ばした。

「がぁはっ!」

 エルスは血を吹き出しながら転げ回った。少女のような顔が鮮血と土で汚れていく。

「……ここまでだ」
「そうね……」

 魔王軍幹部の体がちぎり取られる光景にロランとルナは戦慄した。
 魔王軍が敵であるのは分かってる。しかし目の前のこれは、戦いではなく、一方的な虐殺ではないか。魔族達に少しばかり同情を覚える、それほどまでに惨い戦いだったのだ。
 瞬く間だった。オボロ達が来て、魔王軍の大軍を全滅させたのは。

「ゔああぁ!」
「後方でくたばった仲間達の骸と一緒に、ようくかき混ぜてから焼却してやる」

 鮮血をまきながらのたうつ少年に、オボロは躊躇わずとどめをさそうと詰め寄る。

「し、師匠待ってください! 敵に戦意は、もうありません。これまでです」
「これ以上は、さすがに……」

 たまらずロランとルナが二人の間に割り込んだ。
 敵とは言え、ここまで攻撃すれば十分。いやっ、やりすぎである。
 魔王軍の生き残りはエルス一人だけ。それに、もう彼に戦う力はない。あとは捕虜にして、城に差し出すだけで良いはずだ。

「どけ」

 オボロの冷たい一言に、二人は耳を疑った。

「し、師匠……なにを?」
「……もうこの魔族は動けません……このようになった者を攻撃するなど……いくらなんでも。それに戦闘能力を失った魔族を殺害するなど、この国では法に触れます」

 メルガロスでは、戦闘能力を剥奪された魔族や民間魔族の殺害は法的に禁止されている。
 しかしオボロはそれを聞いても止める様子を見せず、二人を鋭い目付きで見下ろした。

「魔族は、いかなる理由があろうと殺す。そいつだけじゃねぇ、この国にいる魔族は全て根絶やしにしなくちゃならねぇ」
「……師匠、何を言うんです。いくら敵とは言え、そんな非人道的なことは……」
「そいつは人じゃねぇ。ロラン、言っただろう。オレ達のやり方に口を挟むなと」

 オボロは二人に一歩一歩重く距離を詰めてくる。
 その隙であった。

「……い、いやだぁ! 助けて魔王様! ……助けてください魔王様!」

 最後の力を振り絞って、エルスは飛び上がったのだ。腕がないため不安定な飛行である。
 しかし地上からの攻撃が届かないまでの高度には達している。
 だが、障害物がない空中こそ危険な場合もある。

「逃がすな! ムラト、撃ち落とせ!」

 オボロが叫んだ瞬間、空中に細い閃光が一瞬走った。それは長距離からの光線だった。
 光線は正確にエルスの残された体の部位と翼を切り裂いた。
 そして左腕、両脚、両翼が切断されたエルスは地面に叩きつけられた。

「……ぐぅ……うがぁぁ!」

 エルスの醜い呻き声が響き渡る。そして芋虫のように転げ回った。

「師匠! もうやめてください!」
「こんなこと許されません!」

 ロランとルナが、オボロに食って掛かった。

「……お前ら、なにも知らんのか。この世界に魔族はいてはならない存在だ。そいつらは、いるだけで世界を滅ぼすんだ」
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