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最終魔戦

魔王軍幹部

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 それは、メルガロスの最南端に存在する。
 植物が枯れはてた荒れ地、魔族達が占領している領域だ。
 その領域の中央には巨大なみやこがあった。そして都の真ん中には城がそびえ立っている。
 魔族達の王都である。
 その城内の玉座で笑みを浮かべる一人の少女がいた。彼女の頭には角、そして背中には翼があった。
 そう、少女は全魔族達の頂点たる魔王なのだ。
 
「うふふふ、勝てるわ。今の私は全能、この世の全てを自由自在に操作できるんだから」

 少女は手にする水晶を覗きこむ。そこにはメルガロスを制圧し、多くの人々が自分にひれ伏す光景が映っていた。

(おお、我が愛しき魔王よ。ことは上手く、はこんでいるようだな)

 すると突如玉座に声が響いた。しかし、その場に魔王と呼ばれた少女以外に姿はない。

「これは、これは、災魔神さいまじん様。すべて、あなた様のおかげです。あなた様が授けてくれた全能の力があってこそ。今の私には不可能などありません」

(うむ。お前は、前世であれほど苦しんだのだ。この世界では幸せに生きなくてはならん)

「いえ、災魔神様。私一人だけ理想の中を生きても意味がありません。私と同じく前世で苦しんだ人達にも幸福を与えます。そして、この世界の人々とも共存できるように」

(見事な心持ちだ、魔王ルキナよ。お前のためなら、我はいつでも助言しよう。全てが成功したとき、お前は真の魔王となり、この世界を未来永劫に守れる存在になるだろう)

 その言葉に、魔王ルキナは笑顔で頷いた。
 彼女の今の夢は前世で不条理な目にあった人々を幸福にし、この世界の住民達と共生すること。
 とても悪しき魔王とは呼べぬ志しを持っていた。
 しかし、その時であった。

「きゃあっ!」

 突如、ルキナの手にしていた水晶が粉々に砕け散ったのだ。
 砕けた水晶は床に散らばった。破片で傷を負ったのか彼女の手から血が流れ落ちる。

「……私が作った未来映しの水晶が壊れた? どうして?」

 全能の力で作成した神秘の道具がいきなり壊れたのだ。
 あの水晶は未来を映し出す神秘の道具である。
 そこにはメルガロスを降伏させ、この国を支配下にする自分の未来像が映しだされていたのだが、どう言うわけか壊れてしまったのだ。
 ……いったい何が?
 
(……ルキナよ、用心せい。我でも知り得ぬ、何か得体の知れないものを感じるぞ) 

「得体の知れないもの?」

(さよう……お前は我に愛され、そしてこの世界の理を自由に操れる力がある、だがその者の世界にお前の力が通用するかは分からん)

「……意味は良く分かりませんが、そんなもの倒してみせます。必ず私が転生者である魔族達を自力で守ってみせます。……彼等は、この世界で魔族として幸せに生きてもらいたいから」

 魔王ルキナは、そう宣言したあと決心するように頷いた。
 これから、メルガロスと激しい戦いになると考えたのだ。




 ドワーフの集落から丘を挟んだ地点。
 そこには異形の一団があった。その数は約五百と言ったところだろう。
 異形とは言え、その姿は人間にちかしく、そして美しい。
 彼等はオーガと言う魔物である。
 元々は、みな醜い姿であったが魔王の力によって、今の姿にされたのだ。
 その変貌は凄まじいものだった。
 巨体で異臭を放つ巨大な鬼は筋肉質の美男美女になり、膨大な魔力も与えられ、強く美しい鬼へと変わったのだ。
 そして、その一団を従える魔族の姿もある。

「エルスくん、大丈夫かな? まだ新米なのに」

 心配そうに丘の方を眺めるピンク髪の少女、彼女には角とコウモリのような翼がある。
 そして同じく角と翼を持つ豊満な身体つきをした美女が、豪華な椅子に腰をかけ片手にティーカップを持っていた。 

「うふふ、大丈夫よ。エルスくん、まだ可愛い新人くんだけど、魔王様からの力もあるから。私達は、ことが終わるまでティータイムでもしてましょうか。ハルちゃんも一緒に、お茶しない?」

 美女は甘やかな声で、ハルと呼んだピンク髪の少女にティータイムを勧めるのであった。

「もう! リリアナお姉さまったら。可愛い新米が一人で敵陣地に向かったんですよ、もう心配で心配で」

 ハルは小さな胸の前で両手を組んで、リリアナへと目を向けた。
 エルスは魔王軍幹部に入ったばかりの可愛らしい少年。そのため戦闘経験が少ない。
 彼女は、そんな可愛い後輩の無事を祈っているのだ。

「あらあら、でもハルちゃんもそんな時があったでしょ。一人で戦いに出向いて、それで勝利して。だったらエルスくんも大丈夫よ。あの子も魔王様から固有の力を授かってるから安心よ」
「んもー! お姉様は呑気すぎです」

 そんな彼女達のやり取りに、鬼達が笑い声をあげた。
 そして一匹の鬼が口を開いた。

「ハル様、エルス様のことなら大丈夫ですよ。仮にいざとなれば我々が出陣しますゆえ」
「みんな……」

 そんな部下達の思いやりのある発言に、ハルは笑顔を見せた。
 すると突如、幹部二人の頭の中に声が飛び込んできた。

(リリアナ、ハル! 二人とも聞こえる?)

(どうされました魔王様。あなたとも、あろうお方がそんなに慌てて?)
(そんなに声を荒げなくても聞こえてますよ)

 魔王が思念で城から二人に語りかけてきたのだ。
 しかし感情が高ぶり、落ち着きがない様子である。

(二人とも、聞きなさい。さきほど、得体の知りえないものを感じると言う神託があったわ。……なにがあるか分からないから無理は……)
「お二人とも! 空を見てください!」
「あれは!」

 魔王の語りを遮ったのは、鬼達の叫び声だった。
 それに反応してリリアナとハルは自分達の上空を見上げた。

「あれは!」
「転移の魔法陣?」

 だが、おかしい。
 魔法陣が出現しているのは、自分達の真上で高度約二千メートルの場所。
 なぜ、そんな位置に魔法陣を形成したのか。
 もし浮遊や飛行できない者が転移してきたら、落下して死んでしまう。 
 彼女達は訝しく思うばかりで、その場を離れようとしなかった。
 そして、それは間違った行動だった。
 魔王軍の一団が巨大な影に覆われると、轟音と衝撃に包まれた。




 その震動は、ドワーフの集落までに到達した。
 直立などできない程の激震、その威力で倒壊した建物があった。
 そして強烈な突風が押し寄せる。
 それだけにとどまらず、震動が発生したと思われる場所から飛ばされてきた土砂が降り注いだ。
 とても目など開けていられない。
 事態がおさまると、伏せていたオボロは起き上がり、丘の先で巨大な土煙が立ち込めているのを確認する。

「……や、やったか?」
「やりすぎですよ! 何をしたんですか師匠!」

 口の中に砂利が入ったらしく、それをペッペッと吐き出しロランも起き上がる。
 彼はオボロが何をしたのか理解できなかった。ただ物凄い質量を持った何かが落下したことは分かる。

「魔王軍の頭の上に、もう一人の仲間を落としてやっただけだ」

 ロランの問いに、オボロは事も無げな表情で返答した。

「……な、何をしたんですか! あそこには僕の仲間が……」

 悲鳴のような声を響かせたのは魔王軍幹部のエルス。
 彼も余波に巻き込まれたため、身体中が土だらけだった。

「くたばれぇ!」
「うわぁ!」

 オボロは、また問答無用にエルスに殴りかかった、彼が取り乱してるのもお構いなしに。
 しかし、どうしたことか。
 オボロの拳がエルスに触れた瞬間、彼の体を素通りしたのだ。
 まるで気体を殴りつけているようだった。
 エルスは素早く、オボロから距離を離す。

「これが魔王様からもらい受けた僕の力です。あなたは、僕に触れることはできない」
「へっ! おもしれぇ能力だな。魔王の力がねぇと戦えない腑抜けがぁ。本当の強さってえのを、その体に刻みつけてやる」

 指の関節をゴキゴキと鳴らすと、オボロの肉体が膨張を始めた。
 戦闘準備が完了した合図だ。
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