大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

英雄の国からの使者

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 俺を崇拝していた人達が王都の中に戻って、少しした時ぐらいだろうか。
 王都の正門から見覚えのある乗り物が現れたのだ。

「……これは頭魔住とうます

 まぎれもない。先日ゲン・ドラゴンに蛮竜用迎撃兵器を届けてくれた電動駆動貨物車。
 相変わらず前面には人のニヤケ顔がある人面車両である。
 その奇妙な乗り物が、俺の足元近くで停車した。
 ……まあ、だいたい誰が乗ってるかは分かる。

「いやあ、ムラトくん。ひひっ……奇遇だね、こんなところであうなんて」
「……マエラさん」

 ぼさぼさした髪の毛に、気だるそうな見た目、にも関わらずグラマスなスタイル。スチームジャガーの発明家で科学者で所員であるマエラさんだ。
 彼女も作業員として王都に来ているのだろうか?

「早速だがムラトくん。君に重要な話があるんだ。周囲にもれるとちょっと不味いから、頭の上に乗せてくれたまえ」

 そう言ってマエラさんは俺を見上げてきた。
 重要な話? たしかに俺の頭の上で会話すれば、あまり周りには聞こえないだろう。
 しかし一対一での話など、それほどまでに大切な内容なのか?
 マエラさんの瞳には、どこか好奇心に駆られたような輝きがある。

「重要だけど聞く内容はとても簡単だよ。君は、どんな世界からやって来たのだろうね」
「……知っていたのですか」

 思いもよらない内容だった。俺が別の世界から来た存在であることを知っていようとわ。
 この人は、いったいどこまでのことを知っているのだろうか。
 この際だ、マエラさんだけには全てを伝えておこう。


× × ×


 力加減してノックするオボロ。
 その途端、部屋の中でガタガタ音がなり響き、女性の声が聞こえてきた。

「むぐっ! ……ちょっ、ちょっと待つのだ」
 
 オボロがノックしたのは女王メガエラの読書部屋である。
 そしてガチャガチャと部屋の中でメガエラが何かを片付けているような音がする。食器同士がぶつかりあってるような音だ。
 しばらくして入室の許しが出た。

「ぐむぅ……入ってよいぞ」
「失礼しますぜ。……んっ!」

 オボロが巨体を屈めて扉を潜ると、最初に目に入ったのはリスのように頬を膨らませて口をモニュモニュ動かす金髪の美少女であった。
 おまけに口の周りにクリームが付着している。

「……メガエラ様、甘い物の取りすぎは体に毒だぜ」
「……しゅまにゅ(すまぬ)……お前が暮らす土地の菓子が絶品過ぎるゆえについついな」

 しっかり咀嚼し、飲み込んで語り出す女王。
 王都での事件以来から領地ペトロワとの関係が深くなったため、あらゆる物が王都に持ち込まれているのだ。
 スイーツのレシピも例外ではなかったようだ。
 メガエラの最近の楽しみは、クリームを添えたシフォンケーキを味わいながら書物を読むことであった。
 ふと何かに気づいたのか、彼女はオボロを見上げた。

「……お前、前回会ったときよりも大きくなったのではないか?」

 メガエラの言うとおり、オボロの背は伸びてそれに合わせて筋肉量も増大している。
 以前は推定三五〇センチだった身の丈は、今や三七〇を越えているだろう。

「極限の状態にいたると肉体が急成長する特異体質でな、今だに巨大化が止まっていない」
「……そうか」

 小さく返答するメガエラ。
 オボロが言う極限の状態がなんなのかは分かっていた。魔物討伐のような依頼ではなく、人同士が殺し合う戦場のこと。
 言うまでもなく、サンダウロと王都での戦闘のことである。
 その経験によってオボロは成長したのだろう。

「それで、メガエラ様。オレ達に用事とは? 城に招くぐらいだから何かとんでもない要件だろう」

 早速オボロは要件を聞き出した。
 すると、メガエラの表情が曇りだしたのだ。

「……少々言いにくいのだがな」

 彼女は椅子に腰掛けて巨漢を見据えた。
 言いにくいのも当然であった。

「実は隣国から援軍の頼みがきているのだ」
  
 先程の会話の中にも出てきた極限の場。そこに戦闘員を出してほしいと言う願い出の内容だった。

「……メガエラ様、オレ達がどんな集団かは分かってるはずだが」 

 援軍要請と聞いてオボロの目付きが鋭くなる。
 石カブトを指揮する自分に援軍の話をすると言うことは、石カブトに要請を承諾してほしいということだろうか。
 彼女は知らないが石カブトの本質は宇宙から飛来する脅威に対抗するための戦力。
 つまり石カブトが戦闘に参加すると言うことは、対宇宙生物用の強大な武力を人間同士の戦いに持ち込むことになる。
 しかし、そんなこと断じて許されるはずがない。

「……すまんな、オボロ。どうしても、お前達でなければならないと、使者が言うのだ」
「使者?」
「入ってくるのだ」

 部屋のドアが開いて、閉まる音が聞こえた。
 オボロは振り返り、ドアの前に佇む存在に目を凝らす。 
 それは犬の毛玉人。そして美しい銀色の体毛の少年で、革鎧を纏い、腰には小振りな剣が二つ。
 そしてオボロは、その少年のことを知っていた。

「……お前、まさか……ロランなのか?」
「お久し振りです師匠!」

 ロランと呼ばれた犬の少年は尻尾を振りながら駆け出しオボロに飛び付いた。
 まるで感動の再会のようだった。

「久しぶりだな、ロラン! お前ちっちゃくなったんじゃねぇのか?」
「何を言ってるんです、師匠が大きくなりすぎなんですよ!」

 オボロは抱き付いてきた少年を片手で掴み上げ、子供をあやすように揺さぶった。その体格の差は凄まじい。
 やや乱暴げに振られる少年は楽しげに笑い声をあげた。

「聞きたいのだが、お前達どう言う関係なのだ?」 

 再会ムードの二人に、メガエラが問いかける。

「ああ、まだオレが傭兵をやっていた頃、こいつが冒険者になりたいって言うから、少しのあいだ鍛えてやったんだ」
「あっはは……師匠の稽古は地獄でした」

 ロランの頭の中に、きつい鍛練や稽古の記憶が走りめぐった。実際、何回か死にかけたことがある。

「オボロよ、使者とはその子なのだ。話を聞いてやってはくれないか?」
「えっ! ロランが?」

 彼女の発言に、オボロは仰天の声をあげると再び手の中の少年を見つめる。
 驚いたのには理由がある。それはロランが住んでる国が英雄の国と言われる場所だからだ。

「ロランは、メルガロスの冒険者だぜ。それがなぜ……まさか、あの英雄の国が他国と戦争を始めたとでも?」

 そもそもメルガロスは世界共通の脅威である魔王を倒すために英力えいりきを持った者達が建国した国。
 そんな絶大な国が他国に侵攻したり、また攻撃を受けるとは思えない。……ゆえに援軍を要請するなどあり得ないはずだが。
 その言葉にメガエラは返答する。

「ふむ。、妾わらわも最初はそう思ったのだが、どうやら違うようでな。ロランが城にやって来たとき、いち早くお前の名を口にしたから、ひとまず話だけは聞こうと思ったのだ。お前の名を知っているし、ましてや力を貸してほしいと言うくらいだ。メルガロスでとんでもないことが起きてるのは確かだろう」

 メガエラは石カブトの戦力がいかほどか、だいたい理解はできている。
 オボロ、ニオン、ムラト。この二人と一匹は少なく見積もっても単独で一国に匹敵、あるいは凌駕するだろうと。
 その戦力を貸してほしいと言うのだから、ただ事ではないはず。人の範疇を越えた事がおきているのだろう。
 
「……分かった。話だけは聞いてやろう。何があったんだ?」

 オボロは少年を床に置き、聞く耳をたてた。

「……はい。本当のところを言うと、ボクの独断で師匠に助力のお願いに来たんです」
「なに、国からの命令じゃねぇのか?」
「……今メルガロスは全く機能していない状態です。原因は現魔王が国そのものに結界を張り巡らせたことにあります」
「魔王だと? けっ! いつまで魔族を駆逐できねぇでいるんだ、あの国は」

 オボロは舌打ちすると、荒い口調で声を漏らす。
 ロランは、その発言に何か違和感があったのか一瞬口が止まったが、気を取り直し話を再開した。

「……そのため戦力温存と言うお題目で国の精鋭達は王都にとじ込もってしまいまして。今は人間以外の住民達が懸命に魔王軍を迎え撃ってるんです。今回現れた魔王は、今までにない程に強大です。……師匠、ボク達に力を貸してください。国が動いてくれないのです!」

 メルガロスが極めて悲惨な状況であるのはよく分かった。
 するとオボロは目を閉じゆっくり何かを考え込むと、ギッと目を見開いた。

「分かった、援軍に向かう。もし要請の内容が国家間の戦いなら断るつもりでいたが、魔族が相手なら別だ。あれは人ではないからな」

 オボロは濁った声で告げたのだ。 
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