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最終魔戦
迫る魔族
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サハク王国の西方には大きな国家あった。
英雄の国と呼ばれるメルガロス。
英力という神秘の異能を持った人間達が建国した国であり、メルガロスの南方の領域を根城にしている魔王や魔族達と古来より戦い続けている。
英力とは、創造の女神リズエルの死、そして魔族の出現、と同時に一部の人間達に突如目覚めた能力であった。
その二つの関係性から英力は魔族に対抗するために女神が残した遺宝ではないかと伝えられているのだ。
魔族達は魔王を筆頭にメルガロスに幾度も戦いをしかけたが、ことごとく英力を持つ英雄達によって退けられてきた。
そのため英力を持つ者は唯一魔王軍と渡り合える存在であり、また女神に認められし者として崇拝されている。
しかし、そんな強力な英雄達を保有する強大な国が窮地に立たされていようとは誰も思っていなかった。
そこはメルガロスに存在するエルフ達の里。そんな広大な森に包まれた彼等の里から火があがっている。
建物が燃え盛り、闇夜を照らしていた。
里は魔王軍の襲撃を受けたのだ。
魔王軍は、幹部である五人の魔族とそれらに従える魔物達によって構成されている。
そして、エルフ達の里を焼いたのは二足歩行する狼型の魔物であった。しかも相手は、たったの三匹、にも関わらずエルフ達は敗れたのだ。
「くそう! なぜだ? なぜ人狼ごときに……」
「リマ! もうもたない! 我々も撤退しよう!」
尖った耳、雪のように白い肌、金色の髪が特徴のエルフ族の戦士であるリマと呼ばれる女性が悔しそうに大声をあげる。
彼女の他にも戦士はいるが、ケガしてもう戦える状態ではない。
幸いに里の住民達の避難はすんでいるため、今のところ犠牲者などはいない。
ひとかたまりに身を寄せ会うエルフの戦士達に、狼達が嫌らしくにじりよる。
「聞けエルフ達よ! 我々魔王軍に服従するのだ! さすれば命まではとらん」
「ふざけるな! 誰が魔王軍にくだるか!」
狼達の降伏を促す言葉を聞くと、リマは矢をつがえ狼に狙いをつける。
しかし、それを見ても狼はただ笑うだけであった。
「ふふふ、無駄なことを。そんな物が通用しないことなど分かりきっているだろ」
悔しいことだが、狼の言う通りである。
今に至るまで、エルフ達の攻撃も魔術も通用しなかったのだ。
人狼はそこまで強い魔物ではないが、なぜかこの場にいる三匹は矢を物ともしない強靭な肉体をしており、そして攻撃魔術を遮断してしまう力を持っていたのだ。
なぜ、それほどの力を持っているのか?
「今の我々は、もはや人狼ではない。狼超人とでも呼んでもらおうか。これは全て魔王様が授けてくれた加護によるもの」
「魔王の加護だと……どう言うことだ?」
リマの問いに、敵でありながらも狼超人は気前良さそうに答えた。
「この度の魔王様は、歴代魔王の中でも格別に優れた力を持っている。その御力で雑兵である我々にも力を授けてくれたのだ。なんと幸せなことか。もはや我々は弱き存在ではないぞ」
「……そんな話は、知らんぞ」
リマは青ざめた。
魔王軍が今までにないほどの勢力を誇り、各地をことごとく占拠していると言う話は国から聞いていたが、雑兵までに魔王の力が及んでいるなど聞かされていなかった。
「ぎゃーはっはっ! 哀れだな。国から何も聞かされておらんのか?」
豪快な笑い声とともに狼超人達の後方からやって来たのは、赤い体毛をした狸のごとき怪物であった。
身長は四メートル近くあり、股間部には二つの鉄球が存在している。
「賢きエルフ達に問うぞ、これの名を言ってみろ!」
赤い狸は自身の股間部にある鉄球を指差して、腰を振るう。それにより二つの球がぶつかり合いゴンゴンという音が響いた。
「……アカマダ様。こんな時に、そんなことを聞かんでください」
エルフ達に品のない問いをかける赤狸を見て、狼達は頭を抱えた。
しかし、アカマダを見たリマは息を飲む。
その理由は、目の前にいる赤狸が今までに見たこともない魔物だったからだ。
「……なんだ貴様は? 新種の魔物なのか」
「さよう、さよう。ワシは偉大なる力によって生み出されし魔物ぞ」
「偉大なる力だと? それも魔王のことか」
すると、アカマダは奇妙な笑い声をあげる。
「ぴゃーほっほっ! それは、ひ・み・つ。ワシを生み出した存在については、みだりに口にしてはならぬからのぉ」
魔王は倒されても、いずれまた新な魔王が現れ戦いが起きる。千年間も、そのサイクルを繰り返してきた。
毎回のこと魔王と魔王軍は強大な敵であった。しかし今回の魔王と魔王軍は、あまりにも異常だ。
雑兵にも力を与え、新種の魔物の発生など、そんなこと今までにないことだった。
「くっ……せめて国が力を貸してくれれば」
リマは祈りたい気持ちだが、そんな都合良く国は動いてくれない。
ここは英雄の国。英力を持つのは人間だけであり、それゆえに人間至上の社会がしかれているのだ。そのため人間以外の種族にたいして偏見が強い。
他にも多数の種族がこの国には存在するが、おそらくメルガロスの女王や人間達は、自分達のことなど下等な種族としか思っていないだろう。
ゆえにエルフである自分達に都合よく力を貸してくれるとはとても思えないし、国自身も魔王軍の相手に手一杯だろう。
絶望的である。
「うきょきょきょ! 国は力を貸してくれぬぞ。御自慢の英力も今や役にはたたんのだから」
「なに!」
笑うアカマダの話を聞いて、リマは顔をあげた。
「なんだ、なにも知らんのか? さすがに可哀想だな」
狼超人が哀れむように説明を始めた。
魔王軍に同情され、あまりの情けなさのあまりエルフ達は頭を垂れた。
「今この国は魔王様の結界で包み込まれ、英力が行使できないようになっているんだ。……うむ。どうやらお前達は国から何も聞かされてないのだな」
エルフ達の呆然とする様子を見て、狼は頭を抱えて呆れ返る様子を見せた。
「今や魔王軍と戦っているのは英力も持たぬ、お前達のような人間以外の種族だけだ。王都にいる兵士や正位剣士や勇者は、とじ込もっているらしいぞ。女王は戦力の温存とか言っているらしいが、どうして良いのか分からず混乱しているんだろう。英力がなければ脆いものだ」
説明を聞いたエルフ達は、膝をつくことしかできなかった。
国は英力が使えない者達と籠り、まったく行動していない状態。しかも、そんなことになっているなど一切聞かされていない。
裏切られた気分だ。自分達は里だけでなく国のためにも戦っているのに。
やはり自分達のことなど駒としか思っていなかったのだ。
その様子を見ていた狼超人達が息を吐いた。
「情けなくて、見てられねぇ。英雄でもない連中がこれほど、血を流していると言うのに……」
「我々に降伏したほうが身のためだぞ。そんな国にしがみついていると苦しむだけだ。現魔王様は、とてもお優しいお方だ。お前達との共存も考えているのだ。魔王軍の傘下につけばいつも通りの生活は保証しよう。そもそも交渉のために、お前達を生かしておいたのだ」
話から分かる通り、魔王軍に降伏するのもけして悪いものではないだろう。むしろメルガロスにつくよりは、はるかにましである。
だが、すぐに返答できる状態ではない。
ここにいるのは戦士だけだし、それに加え国がまったく動いていないという事実を聞かされては、とても落ち着いて判断できる状態ではない。
「……仕方ねぇ。お前達は、ここから去れ。どのみちここから少し離れたドワーフ達の集落に撤退するんだろ? いずれそこにも進軍する、それまでに決めとくと良い。落ち着いて話し合える時間をやろう」
エルフ達がすぐに判断できるとは、魔王軍も思っていなかったようだ。
そのため彼等は、エルフ達が話し合える有余をあたえることにする。
それを聞いたエルフの戦士達は、脱け殻のように里を後にしたのであった。
国に見捨てられ、魔王軍に同情される。これほど情けないことがあるだろうか。
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そして、エルフ達の里を焼いたのは二足歩行する狼型の魔物であった。しかも相手は、たったの三匹、にも関わらずエルフ達は敗れたのだ。
「くそう! なぜだ? なぜ人狼ごときに……」
「リマ! もうもたない! 我々も撤退しよう!」
尖った耳、雪のように白い肌、金色の髪が特徴のエルフ族の戦士であるリマと呼ばれる女性が悔しそうに大声をあげる。
彼女の他にも戦士はいるが、ケガしてもう戦える状態ではない。
幸いに里の住民達の避難はすんでいるため、今のところ犠牲者などはいない。
ひとかたまりに身を寄せ会うエルフの戦士達に、狼達が嫌らしくにじりよる。
「聞けエルフ達よ! 我々魔王軍に服従するのだ! さすれば命まではとらん」
「ふざけるな! 誰が魔王軍にくだるか!」
狼達の降伏を促す言葉を聞くと、リマは矢をつがえ狼に狙いをつける。
しかし、それを見ても狼はただ笑うだけであった。
「ふふふ、無駄なことを。そんな物が通用しないことなど分かりきっているだろ」
悔しいことだが、狼の言う通りである。
今に至るまで、エルフ達の攻撃も魔術も通用しなかったのだ。
人狼はそこまで強い魔物ではないが、なぜかこの場にいる三匹は矢を物ともしない強靭な肉体をしており、そして攻撃魔術を遮断してしまう力を持っていたのだ。
なぜ、それほどの力を持っているのか?
「今の我々は、もはや人狼ではない。狼超人とでも呼んでもらおうか。これは全て魔王様が授けてくれた加護によるもの」
「魔王の加護だと……どう言うことだ?」
リマの問いに、敵でありながらも狼超人は気前良さそうに答えた。
「この度の魔王様は、歴代魔王の中でも格別に優れた力を持っている。その御力で雑兵である我々にも力を授けてくれたのだ。なんと幸せなことか。もはや我々は弱き存在ではないぞ」
「……そんな話は、知らんぞ」
リマは青ざめた。
魔王軍が今までにないほどの勢力を誇り、各地をことごとく占拠していると言う話は国から聞いていたが、雑兵までに魔王の力が及んでいるなど聞かされていなかった。
「ぎゃーはっはっ! 哀れだな。国から何も聞かされておらんのか?」
豪快な笑い声とともに狼超人達の後方からやって来たのは、赤い体毛をした狸のごとき怪物であった。
身長は四メートル近くあり、股間部には二つの鉄球が存在している。
「賢きエルフ達に問うぞ、これの名を言ってみろ!」
赤い狸は自身の股間部にある鉄球を指差して、腰を振るう。それにより二つの球がぶつかり合いゴンゴンという音が響いた。
「……アカマダ様。こんな時に、そんなことを聞かんでください」
エルフ達に品のない問いをかける赤狸を見て、狼達は頭を抱えた。
しかし、アカマダを見たリマは息を飲む。
その理由は、目の前にいる赤狸が今までに見たこともない魔物だったからだ。
「……なんだ貴様は? 新種の魔物なのか」
「さよう、さよう。ワシは偉大なる力によって生み出されし魔物ぞ」
「偉大なる力だと? それも魔王のことか」
すると、アカマダは奇妙な笑い声をあげる。
「ぴゃーほっほっ! それは、ひ・み・つ。ワシを生み出した存在については、みだりに口にしてはならぬからのぉ」
魔王は倒されても、いずれまた新な魔王が現れ戦いが起きる。千年間も、そのサイクルを繰り返してきた。
毎回のこと魔王と魔王軍は強大な敵であった。しかし今回の魔王と魔王軍は、あまりにも異常だ。
雑兵にも力を与え、新種の魔物の発生など、そんなこと今までにないことだった。
「くっ……せめて国が力を貸してくれれば」
リマは祈りたい気持ちだが、そんな都合良く国は動いてくれない。
ここは英雄の国。英力を持つのは人間だけであり、それゆえに人間至上の社会がしかれているのだ。そのため人間以外の種族にたいして偏見が強い。
他にも多数の種族がこの国には存在するが、おそらくメルガロスの女王や人間達は、自分達のことなど下等な種族としか思っていないだろう。
ゆえにエルフである自分達に都合よく力を貸してくれるとはとても思えないし、国自身も魔王軍の相手に手一杯だろう。
絶望的である。
「うきょきょきょ! 国は力を貸してくれぬぞ。御自慢の英力も今や役にはたたんのだから」
「なに!」
笑うアカマダの話を聞いて、リマは顔をあげた。
「なんだ、なにも知らんのか? さすがに可哀想だな」
狼超人が哀れむように説明を始めた。
魔王軍に同情され、あまりの情けなさのあまりエルフ達は頭を垂れた。
「今この国は魔王様の結界で包み込まれ、英力が行使できないようになっているんだ。……うむ。どうやらお前達は国から何も聞かされてないのだな」
エルフ達の呆然とする様子を見て、狼は頭を抱えて呆れ返る様子を見せた。
「今や魔王軍と戦っているのは英力も持たぬ、お前達のような人間以外の種族だけだ。王都にいる兵士や正位剣士や勇者は、とじ込もっているらしいぞ。女王は戦力の温存とか言っているらしいが、どうして良いのか分からず混乱しているんだろう。英力がなければ脆いものだ」
説明を聞いたエルフ達は、膝をつくことしかできなかった。
国は英力が使えない者達と籠り、まったく行動していない状態。しかも、そんなことになっているなど一切聞かされていない。
裏切られた気分だ。自分達は里だけでなく国のためにも戦っているのに。
やはり自分達のことなど駒としか思っていなかったのだ。
その様子を見ていた狼超人達が息を吐いた。
「情けなくて、見てられねぇ。英雄でもない連中がこれほど、血を流していると言うのに……」
「我々に降伏したほうが身のためだぞ。そんな国にしがみついていると苦しむだけだ。現魔王様は、とてもお優しいお方だ。お前達との共存も考えているのだ。魔王軍の傘下につけばいつも通りの生活は保証しよう。そもそも交渉のために、お前達を生かしておいたのだ」
話から分かる通り、魔王軍に降伏するのもけして悪いものではないだろう。むしろメルガロスにつくよりは、はるかにましである。
だが、すぐに返答できる状態ではない。
ここにいるのは戦士だけだし、それに加え国がまったく動いていないという事実を聞かされては、とても落ち着いて判断できる状態ではない。
「……仕方ねぇ。お前達は、ここから去れ。どのみちここから少し離れたドワーフ達の集落に撤退するんだろ? いずれそこにも進軍する、それまでに決めとくと良い。落ち着いて話し合える時間をやろう」
エルフ達がすぐに判断できるとは、魔王軍も思っていなかったようだ。
そのため彼等は、エルフ達が話し合える有余をあたえることにする。
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