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怪物達の秘話
異常な魔物
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そこは巨大な空間。それは大きな格納庫であった。
格納庫内の天上クレーンには、機械的な巨大な腕の様なものが吊るされている。何かの開発途中のようだ。
そんな巨大な腕の下辺りで、図面をペラペラとめくる一人の男がいた。
長身で銀髪、そして腰には刀を携えている。
すると、その巨大な空間内にいきなり警報音が鳴り響いた。
「むっ!」
美青年は懐から端末のような装置を取り出すと、なれたように操作する。すると端末にグラフの様なものが映し出された。
「強い磁気反応!」
長身の男は図面を机の上に置くと、急いでその場をあとにした。
初めて目にする魔物だった。
メリッサは、この大陸に存在する魔物について大部分は熟知している。
しかし目の前にいる狼は、そんな彼女でも知らない存在だ。
姿形は、ただデカく色ちがいの轆轤狼ではあるが。
「……初めて見るな、亜種なのか? いずれにせよ得体がしれん」
見たこともない魔物に驚きはしたものの、メリッサは冷静である。
彼女は跳躍すると、狼から距離を離した。
相手は未知数の敵。狼ごときに負ける気はしないが迂闊に斬り込まず、念のため魔術で遠距離からしとめようとした。
「このぐらい離せば安全か」
轆轤狼の首の伸びる距離は約十八メートル。メリッサは、その首が届かぬ範囲まで後退して魔術に集中し始めた。
しかし、その時だった。
「ギィオォォォォン!」
「なに!」
咆哮とともに紺色の狼の首が伸びてきて、メリッサに噛みつこうとしたのだ。
その伸びの距離たるや、通常の轆轤狼を軽くこえるものだった。
彼女はとっさに、その場から飛びのき、どうにか噛みつきを受けずにすんだ。
「なんだ! こいつは?」
今度ばかりは、メリッサと言えども動揺を隠せなかった。
首が通常個体の倍は伸びたことにもあるが、何よりその伸びる速度がかなり速いものだったのだ。
「ギィオ!」
狼は間いれずに連続で噛みつきを行ってきた。
しかも速いうえに、あらゆる角度から攻めてくる。
左右だけでなく、真上や下段からも。
しかしメリッサは国一の騎士。予想外のことなど実戦につきものであることは理解している。
頭を切り換えて、冷静に狼の攻撃を見極め避け続けた。
「ひぇー! すっげぇ身のこなし」
「わたし達だったら、今ごろ狼の胃袋にいるわね」
あまりにも卓越した回避に見とれる新米冒険者二人。あんな動き今の自分達にはできないだろう、そう思うのであった。
「ギィオオ」
攻撃が当たらないことに腹を立てたのか、低い声をもらす狼。
「ふっ、所詮は狼と言うことだ。たしかに攻撃は速いが、見切れない程ではない。あとは隙さえ見つければ……」
メリッサも回避に余裕が出てきたのか、紺色の轆轤狼の隙を見つけて攻撃に転じようとしていた。
しかし、この狼は首を伸ばすだけが能ではなかった。
それは狼の額にある結晶体のような角から発せられた。
「ぐあぁ!」
いきなりのことに声をあげるメリッサ。
視界に飛び込んできたのは強烈な光。
しかもただの閃光ではない。赤と青の光が交互に襲いかかる。それは凄まじい明滅光であった。
「うわ! なんだこの光」
「ちょ、眩しい」
離れた位置にいるイオとレナでさえも、目を開けてられない程の光だった。
「おさまった……」
「あぁ、もう……目がチカチカするぅ」
明滅光が止み、二人は再びメリッサと狼に目を向けた。まだ視覚が本調子ではないが。
先程の光はなんだったのか?
特に何の変化もないようだが、だがしかし突如メリッサが倒れこんだ。
「うぐぅ……がぁ」
呻くメリッサ。
体の調子がおかしい。頭痛と吐き気、そして手足がガクガクと痙攣している。
とてもではないが、立ち上がれない。
「ギィオォォォォン!」
勝ち誇るかのように狼は咆哮をあげた。
狼が放った強烈な明滅光がメリッサの視覚に光刺激を与えたため、彼女の体に異常反応が起きているのだ。
「そんな……め、メリッサ隊長が」
「国一の達人なのに……」
少年も少女も驚愕するしかなかった。
親衛騎士隊の隊長が狼の魔物ごときにやられるなどあり得ない。
しかし現実の光景は、メリッサは身動きがとれず、狼はそれを嘲笑うかのように長い首をくねらせるもの。
そして紺色の轆轤狼は、伸びた首を縮めメリッサに歩みよってきた。
「ギィガァ!」
「ぐはぁ!」
そして、その前肢で彼女を蹴り飛ばした。
メリッサ不様にゴロゴロと転がった。
「くそ!」
蹴飛ばされた彼女を見て、思わずイオは駆け出していた。
はっきり言って自分が勝てるような魔物ではない。
しかし、このままではメリッサが危ない。
無謀でしかないが少年はメリッサを守るように立ちはだかり巨躯の狼を睨み付けた。
「ば、バカ! やめろ! お前が敵うような相手ではない!」
なんとか痙攣だけは治まったのかメリッサは立ち上がると蹴られた脇腹を押さえて、イオを自分の後ろへと突き飛ばす。
生体鎧を纏っていなかったら、蹴られたときに致命傷をおっていたであろう。
まだ頭痛はあるが、何とか魔術を行使できる程に回復はした。
「これなら……」
メリッサが左手を前にかざすと、高熱の火炎球が形成されていく。頭痛でうまく集中できないためか小さく形も悪い、しかし魔物相手には十分。
だが、それと同時に狼にも異変が起きていた。口から大気を吸い上げ風船のように体が膨張していたのだ。そして一頻り吸うと、膨らんでいた体が急にしぼんだ。
「死ねぇ! フレア・デス!」
轆轤狼の異様な行動に訝しくは感じたが、火炎球の形成も完了していたため気にせずメリッサはそれを放った。
いかに巨躯の狼でも直撃しようものなら、耐えられないだろう。
しかし狼が口腔を広げた瞬間、その高熱の塊が突如消滅したのだ。まるで蝋燭の火を吹き消すがごとく。
そして気づいた時には、メリッサも少年も遠くまで吹き飛んでいた。
「がぁ!」
「ぐぅ!」
二人は全身の痛みに耐えて立ち上がろうとするが、先ほどのダメージで体が思うように動かない。
いったい狼は、何をしたのか?
メリッサは、どうにか上半身だけをおこして敵の様子を確認した。
狼は、ただ巨大な顎を開いているだけ。
「まさか……ブレスだとでも言うのか?」
火炎球が消えた瞬間、何か視認できない塊のようなものをぶつけられたように感じた。
おそらく、ぶつけられたのは大気の塊。それが不完全な火炎球を消し去り、自分達を吹き飛ばしたのだろう。
完全な火炎球だったら打ち勝てたであろうが。
「……や、やられる」
体をこれ以上起こしていられるほどの体力がない。メリッサは上半身をドタッと地面につけた。
狼がとどめをさしに来ると思いメリッサは頭だけを動かして魔物の様子を確認する。こちらに向かって一歩一歩と嫌らしく寄ってくる。
「グガァ!」
それはいきなりだった。
狼の様子がいきなり激変したのだ。森の方をキョロキョロ眺め、耳を激しくうごかしているのだ。そして、どこか慌てている様子だ。
しばらくオドオドした姿を見せると、なんと狼はしとめたメリッサ達を無視して、まるで逃げるように森の中に走り去っていったのだ。
……助かったのか?
「二人とも! 大丈夫!」
狼が完全に姿を消したことを確認すると、遠くで戦いを見ていたレナが水薬を持って二人の下に駆け寄ってきた。
「すまない……私は大丈夫だ」
「痛でで……俺もなんとか。死ぬかと思った」
二人は、口はきけるが体が動かない状態だった。
そのため少女に支えてもらいながら、水薬を飲むことになった。傷を治す効能はないが、痛みをとりさり体力を回復させてくれる。
水薬は数種類の薬草から作られているためおそろしく苦いが、なんとこの地の回復薬はイチゴ味なのである。
飲みやすいように、試行錯誤のすえに作られたものだ。
「飲みやすいな、これ」
その飲みやすさは、メリッサも驚きのものだった。
「ほんと、この土地はすごいですよね。この甘い水薬すごく安かったんですよ。とても素晴らしい一品ですよ、あのとても苦いものがこんなに甘くなるなんて」
レナはペチャクチャと水薬を褒め称えるが、イオはそんな彼女を無視してメリッサに問いかけた。
「メリッサ隊長。なんで、あの狼は俺達を見逃したのでしょう?」
「……分からん。私は、あの狼が何かに怯えているようにも見えた。いずれにせよ、この森を離れよう。あの狼でさえ、おそらく前座だ。この地の魔物は、明らかにおかしい」
あんな強力な狼でさえ、森の浅い位置に生息しているのだ。深部にどれ程の魔物がいるのやら。
移動しようとメリッサが立ち上がった時、ズシンという衝撃が走った。
「ティーキーブゴゴゴゴ!」
そして聞こえてきたのは、この世のものとは思えぬ音だった。
格納庫内の天上クレーンには、機械的な巨大な腕の様なものが吊るされている。何かの開発途中のようだ。
そんな巨大な腕の下辺りで、図面をペラペラとめくる一人の男がいた。
長身で銀髪、そして腰には刀を携えている。
すると、その巨大な空間内にいきなり警報音が鳴り響いた。
「むっ!」
美青年は懐から端末のような装置を取り出すと、なれたように操作する。すると端末にグラフの様なものが映し出された。
「強い磁気反応!」
長身の男は図面を机の上に置くと、急いでその場をあとにした。
初めて目にする魔物だった。
メリッサは、この大陸に存在する魔物について大部分は熟知している。
しかし目の前にいる狼は、そんな彼女でも知らない存在だ。
姿形は、ただデカく色ちがいの轆轤狼ではあるが。
「……初めて見るな、亜種なのか? いずれにせよ得体がしれん」
見たこともない魔物に驚きはしたものの、メリッサは冷静である。
彼女は跳躍すると、狼から距離を離した。
相手は未知数の敵。狼ごときに負ける気はしないが迂闊に斬り込まず、念のため魔術で遠距離からしとめようとした。
「このぐらい離せば安全か」
轆轤狼の首の伸びる距離は約十八メートル。メリッサは、その首が届かぬ範囲まで後退して魔術に集中し始めた。
しかし、その時だった。
「ギィオォォォォン!」
「なに!」
咆哮とともに紺色の狼の首が伸びてきて、メリッサに噛みつこうとしたのだ。
その伸びの距離たるや、通常の轆轤狼を軽くこえるものだった。
彼女はとっさに、その場から飛びのき、どうにか噛みつきを受けずにすんだ。
「なんだ! こいつは?」
今度ばかりは、メリッサと言えども動揺を隠せなかった。
首が通常個体の倍は伸びたことにもあるが、何よりその伸びる速度がかなり速いものだったのだ。
「ギィオ!」
狼は間いれずに連続で噛みつきを行ってきた。
しかも速いうえに、あらゆる角度から攻めてくる。
左右だけでなく、真上や下段からも。
しかしメリッサは国一の騎士。予想外のことなど実戦につきものであることは理解している。
頭を切り換えて、冷静に狼の攻撃を見極め避け続けた。
「ひぇー! すっげぇ身のこなし」
「わたし達だったら、今ごろ狼の胃袋にいるわね」
あまりにも卓越した回避に見とれる新米冒険者二人。あんな動き今の自分達にはできないだろう、そう思うのであった。
「ギィオオ」
攻撃が当たらないことに腹を立てたのか、低い声をもらす狼。
「ふっ、所詮は狼と言うことだ。たしかに攻撃は速いが、見切れない程ではない。あとは隙さえ見つければ……」
メリッサも回避に余裕が出てきたのか、紺色の轆轤狼の隙を見つけて攻撃に転じようとしていた。
しかし、この狼は首を伸ばすだけが能ではなかった。
それは狼の額にある結晶体のような角から発せられた。
「ぐあぁ!」
いきなりのことに声をあげるメリッサ。
視界に飛び込んできたのは強烈な光。
しかもただの閃光ではない。赤と青の光が交互に襲いかかる。それは凄まじい明滅光であった。
「うわ! なんだこの光」
「ちょ、眩しい」
離れた位置にいるイオとレナでさえも、目を開けてられない程の光だった。
「おさまった……」
「あぁ、もう……目がチカチカするぅ」
明滅光が止み、二人は再びメリッサと狼に目を向けた。まだ視覚が本調子ではないが。
先程の光はなんだったのか?
特に何の変化もないようだが、だがしかし突如メリッサが倒れこんだ。
「うぐぅ……がぁ」
呻くメリッサ。
体の調子がおかしい。頭痛と吐き気、そして手足がガクガクと痙攣している。
とてもではないが、立ち上がれない。
「ギィオォォォォン!」
勝ち誇るかのように狼は咆哮をあげた。
狼が放った強烈な明滅光がメリッサの視覚に光刺激を与えたため、彼女の体に異常反応が起きているのだ。
「そんな……め、メリッサ隊長が」
「国一の達人なのに……」
少年も少女も驚愕するしかなかった。
親衛騎士隊の隊長が狼の魔物ごときにやられるなどあり得ない。
しかし現実の光景は、メリッサは身動きがとれず、狼はそれを嘲笑うかのように長い首をくねらせるもの。
そして紺色の轆轤狼は、伸びた首を縮めメリッサに歩みよってきた。
「ギィガァ!」
「ぐはぁ!」
そして、その前肢で彼女を蹴り飛ばした。
メリッサ不様にゴロゴロと転がった。
「くそ!」
蹴飛ばされた彼女を見て、思わずイオは駆け出していた。
はっきり言って自分が勝てるような魔物ではない。
しかし、このままではメリッサが危ない。
無謀でしかないが少年はメリッサを守るように立ちはだかり巨躯の狼を睨み付けた。
「ば、バカ! やめろ! お前が敵うような相手ではない!」
なんとか痙攣だけは治まったのかメリッサは立ち上がると蹴られた脇腹を押さえて、イオを自分の後ろへと突き飛ばす。
生体鎧を纏っていなかったら、蹴られたときに致命傷をおっていたであろう。
まだ頭痛はあるが、何とか魔術を行使できる程に回復はした。
「これなら……」
メリッサが左手を前にかざすと、高熱の火炎球が形成されていく。頭痛でうまく集中できないためか小さく形も悪い、しかし魔物相手には十分。
だが、それと同時に狼にも異変が起きていた。口から大気を吸い上げ風船のように体が膨張していたのだ。そして一頻り吸うと、膨らんでいた体が急にしぼんだ。
「死ねぇ! フレア・デス!」
轆轤狼の異様な行動に訝しくは感じたが、火炎球の形成も完了していたため気にせずメリッサはそれを放った。
いかに巨躯の狼でも直撃しようものなら、耐えられないだろう。
しかし狼が口腔を広げた瞬間、その高熱の塊が突如消滅したのだ。まるで蝋燭の火を吹き消すがごとく。
そして気づいた時には、メリッサも少年も遠くまで吹き飛んでいた。
「がぁ!」
「ぐぅ!」
二人は全身の痛みに耐えて立ち上がろうとするが、先ほどのダメージで体が思うように動かない。
いったい狼は、何をしたのか?
メリッサは、どうにか上半身だけをおこして敵の様子を確認した。
狼は、ただ巨大な顎を開いているだけ。
「まさか……ブレスだとでも言うのか?」
火炎球が消えた瞬間、何か視認できない塊のようなものをぶつけられたように感じた。
おそらく、ぶつけられたのは大気の塊。それが不完全な火炎球を消し去り、自分達を吹き飛ばしたのだろう。
完全な火炎球だったら打ち勝てたであろうが。
「……や、やられる」
体をこれ以上起こしていられるほどの体力がない。メリッサは上半身をドタッと地面につけた。
狼がとどめをさしに来ると思いメリッサは頭だけを動かして魔物の様子を確認する。こちらに向かって一歩一歩と嫌らしく寄ってくる。
「グガァ!」
それはいきなりだった。
狼の様子がいきなり激変したのだ。森の方をキョロキョロ眺め、耳を激しくうごかしているのだ。そして、どこか慌てている様子だ。
しばらくオドオドした姿を見せると、なんと狼はしとめたメリッサ達を無視して、まるで逃げるように森の中に走り去っていったのだ。
……助かったのか?
「二人とも! 大丈夫!」
狼が完全に姿を消したことを確認すると、遠くで戦いを見ていたレナが水薬を持って二人の下に駆け寄ってきた。
「すまない……私は大丈夫だ」
「痛でで……俺もなんとか。死ぬかと思った」
二人は、口はきけるが体が動かない状態だった。
そのため少女に支えてもらいながら、水薬を飲むことになった。傷を治す効能はないが、痛みをとりさり体力を回復させてくれる。
水薬は数種類の薬草から作られているためおそろしく苦いが、なんとこの地の回復薬はイチゴ味なのである。
飲みやすいように、試行錯誤のすえに作られたものだ。
「飲みやすいな、これ」
その飲みやすさは、メリッサも驚きのものだった。
「ほんと、この土地はすごいですよね。この甘い水薬すごく安かったんですよ。とても素晴らしい一品ですよ、あのとても苦いものがこんなに甘くなるなんて」
レナはペチャクチャと水薬を褒め称えるが、イオはそんな彼女を無視してメリッサに問いかけた。
「メリッサ隊長。なんで、あの狼は俺達を見逃したのでしょう?」
「……分からん。私は、あの狼が何かに怯えているようにも見えた。いずれにせよ、この森を離れよう。あの狼でさえ、おそらく前座だ。この地の魔物は、明らかにおかしい」
あんな強力な狼でさえ、森の浅い位置に生息しているのだ。深部にどれ程の魔物がいるのやら。
移動しようとメリッサが立ち上がった時、ズシンという衝撃が走った。
「ティーキーブゴゴゴゴ!」
そして聞こえてきたのは、この世のものとは思えぬ音だった。
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