大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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日常と裏家業

真の目的

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 ギルドの緊急依頼であるトロールの変異体こと鉄怪人を無事討伐したオボロとニオンは、ゲン・ドラゴンには戻らずペトロワ領のとある森の中にいた。
 二人の目的は、ある存在を見つけることであった。

「……いるな」

 そう呟いたのはオボロだ。明らかに今の状況がおかしいからだ。
 ここは森の深部、そして時は深夜。にも関わらず、魔物がいないのだ。
 魔物のほとんどは夜行性のため、時間的には活発になり凶暴性を剥き出しにしてるはずなのに、この森はあまりにも静かなのだ。
 と、その時、突然電子音が響き渡った。

「む、近いですね」

 電子音を鳴り響かせているのはニオンが手にしていた小さな箱形の装置である。

「しかしよぉニオン、よくそんなもんで奴等の居場所が分かるな」

 装置を見ながらオボロが言う。

「奴等は、音波、磁気、放射線など何かしらのエネルギーを発しています。それを、この装置で察知しているのです。また痕跡にも反応するように開発しました」

 と、ニオンは自作の装置を説明するが、オボロには難解だったらしく言葉を返すことができなかった。
 すると、また電子音が鳴り響いた。先程の音よりも鋭い響きである。

「大気中の酸素濃度が高い!」

 ニオンは、すぐさま装置を懐にしまうと抜刀した。

「隊長殿、すぐ近くに潜んでいます!」
「よくそんなことが分かるな」

 オボロもニオンと同様に身構え、周囲を見渡した。
 しかし、ニオンはなぜか地面を警戒している様子だ。

「隊長殿、奴は地中にいるものと思われます」
「……なぜ、分かる。と言いたいが、奴等についてはお前が一番知っているからな」

 ニオンに倣いオボロも地面に意識を集中する。もちろん視覚で相手を捉えようとしているのではない、地面の振動を注意深く感じ取ろうとしているのだ。
 と、その時二人は同じタイミングでその場から跳躍した。
 すると、いきなり二人が立っていた位置の地面が吹っ飛んだのだ。

「ちぃ、地中から奇襲とはやってくれるぜ。オレは初めて見る個体だな」

 着地するとオボロは舌打ちをして、先程まで立っていた場所に目を移す。そこには土煙をまとった、体長七メートルはあろう存在が蠢いていた。

「周囲の酸素濃度が高い原因は、奴が土中に含まれる二酸化ケイ素を摂取していたためでしょう。その過程で酸素が放出されますから」

 そう説明しながらニオンも、土煙の中で蠢く存在の巨体を見つめる。
 そして土煙がはれると、その全貌が理解できる。
 それは昆虫とも甲殻類とも言える身体構造をした生物。四対八本の脚を持ち前脚は大きく鋭く、全身が白っぽい外骨格に覆われている。そして前方に長く突き出た角状の器官が背負うような形で備わっている。頭部中央には、真っ赤に光る眼が一つだけあった。
 見るからに、魔物とは別格の怪物であることが理解できる。

凶甲獣きょうこうじょうバグドノバ」
「ギイィ!」

 ニオンが呟くように、その存在の名を口にすると、バグドノバは鋭い前脚を振り上げながら襲いかかってきた。
 その動きの速さは魔物の比ではなかった。バグドノバはニオンに向けって両前脚を振り下ろした。
 しかし、ニオンはその攻撃を見切り横に飛びのいた。
 バグドノバの鋭い前脚は地面に突き刺さり凄まじい砂塵を巻き上げる。しかしバグドノバは動きを止めることはせず、そのまま地面に潜った。

「地中に潜られた」

 ニオンは急いで、その場から距離を離し再び地面に意識を向けた。足裏から伝わるわずかな揺れを知覚するために。
 だがしかし、跳躍したのはオボロであった。
 オボロの立っていた地面が盛り上がり吹き飛んだ。

「こいつ、ニオンにしか注目してねぇフリしてやがった。しっかりオレの存在を認知してやがる」

 オボロは着地するとバグドノバを睨みつけた。

「ギイィ! キイィ!」

 そして、またバグドノバは前脚を振り上げながら駆け出した。しかも、先程よりも動きが速い。
 ニオンに攻撃を仕掛けたときは機動力を抑えていたのだろう。

「うわぁ、こいつはえぇ!」

 回避が間に合わず、鋭い爪がオボロの左腕を掠めた。表皮が少しばかり抉れて、血液がポタポタと滴り落ちた。

「くそ! 動きの速さを誤認させるために、さっきは動きを抑えていたのか。やはり、こいつ頭が切れてるぜ」

 すると、今度はバグドノバがオボロから距離を離した。そして、身を屈め背中に備わる角状の器官をオボロに向けた。

「隊長殿、奴の正面から離れてください!」

 とっさに危険を察知してニオンは叫んだが遅かった。
 バグドノバの器官から不可視の何かが放たれたのだ。

「ぐおぉあ!」

 その不可視な攻撃を受けたオボロは苦しみだした。凄まじい頭痛がするのだ。まるで脳内を焼かれるような感覚だ。
 普通の人間なら耐えきれず、のたうちまわる程の苦痛だろう。
 しかし、それは普通の人間の話だ。

「なめんじゃねぇ、うおぉぉぁぉ!!」

 苦痛をはね除けるかのようにオボロは雄叫びをあげると、攻撃を放射し続けるバグドノバに向かって駆け出した。
 そして、その真っ赤な単眼に向けて鉄拳を突きだした。拳は目を貫き、奥深くまで潜り込んだ。

「キイィィィィ!!」

 目から青黒い体液を噴出させながら、バグドノバは絶叫を森の中に轟かせた。
 そして、そこにニオンが駆けつけ瞬時に、攻撃能力を備えた角状の器官と頭を斬り落とした。硬質な外骨格が、まるで紙切れのようであった。
 バグドノバの頭がボトリと地に落下し、胴体は力なくその場に倒れ込んだ。

「大丈夫ですか隊長殿?」
「ああ、腕は大したことない。だが、今だに頭が焼けるようだぜ」
「あの電磁波攻撃を受けたのが、あなたでなかったら日常生活に支障をきたすほどの脳障害を負っていたでしょうね」

 ニオンはオボロが大事ないことを確認すると、刀を鞘におさめバグドノバの遺体に近づいた。
 切断面からドクドクと異臭のする体液を溢れさせ、ピクリとも動かない。完全に死んでいるようだ。

「まったく、手間ぁとらせやがって。厄介ではあったが、それほどの奴じゃなかったな」
「だからこそ油断できません。いつ強力な個体がやって来るか分かりませんから」


× × ×


「そんで、腕に傷を負ったわけだ。まったく、オレとしたことが面目ない」

 オボロ隊長は語り終えた。
 俺達が蛮竜を撃退してる間、隊長達もまた大変な戦いに赴いていたのだ。
 そして、その戦った怪物こそが俺達の存在理由なのだ。

「……その怪物を倒すことが、俺達の本当の目的なんですね」
「そうだ。エリンダ様から聞いたんだろ、なぜ石カブトと言う組織を作ったのか。……あの怪物ども、星外魔獣コズミックビーストを撃退するために結成したんだ」

 ……今でも信じがたい内容だ。俺達の真の役目とは、けして魔物の討伐でもなければ犯罪組織の殲滅でもない。
 宇宙と言う広大な空間より飛来する、宇宙生物の撃退こそが俺達の本質なのだ。
 
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