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日常と裏家業

裏依頼

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 ……裏依頼ブラック・クエスト
 まず普通の冒険者なら知らぬ言葉だ。熟練者でも、それを知るのは少ない。ましてや、それを受けることができる者は数えられる程度。
 その内容は、大規模な魔物の群れの討伐、犯罪組織の殲滅、変異性魔物の討伐または捕獲、など。
 それは、つまり死傷率が極めて高い超危険任務である。小規模な戦争や災害レベルと言ってもおかしくはない。
 しかし得られる報酬はその危険性に見合い莫大である。
 裏依頼を受ける資格を得るには、極めて厳しい審査を通る必要がある。実力はもちろんのこと、人格や信用性や知能にいたるまで、あらゆる難問をクリアしなければならないのだ。
 この資格を持つ者は極わずか。
 しかし、一部例外がある。
 それは冒険者でない雇われ屋だ。彼等は冒険者ではないがギルドから時おり直々に依頼が来ることがある。
 しかも、ただの依頼ではない。そのほとんどが裏依頼なのである。
 なぜ彼等の元に依頼が来るのかと言うと、こと裏依頼においてその雇われ屋達が特効薬だからである。
 今まで彼等が裏依頼を失敗したことは皆無、必ず依頼を完了させているのだ。
 そして、そんな彼等の元に一つの依頼が来たのだ。
 
 

 
 ペトロワ領の南に隣接する、ルゴアス領の最北端。
 その辺境にある集落の廃墟に密かに巣食う違法薬物の密造売買を行う組織の殲滅。それが今回の依頼。
 できれば組織の頭目の生け捕りも考慮してほしいとのことで、それが上手くいけば追加報酬も出る、と言う内容である。
 目的の場所は隣領ではあるが、裏依頼中は国内であれば無許可であらゆる領地や街を自由に出入りできる権利が得られる。そのため特に手間取ることなく、目的地までたどり着くことができた。
 この地の領主がまったく、その犯罪組織にたいして対策を行わないため、痺れを切らした近隣の村や街の人達が金を出しあってギルドに依頼を出したのである。
 出回る薬物のせいで多くの人々が犠牲になっているのだ。そこで犯罪組織に引導を渡すために、選ばれた一党はニオン、ナルミ、ベーン、ムラトであった。
 殲滅対象の組織自体の構成員は組織のボス含め十人、けして大きな組織ではない。
 しかし百を超えるならず者共を薬で雇っている、と言うよりかは虜にして洗脳しているのだろう。
 しかも、この手の輩は元傭兵や冒険者だった者が多く腕もたしかで魔術を使える輩もいることがあるのだ。そのほとんどは、違反行為、裏切り、素行不良、によりギルドや部隊を追放された連中である。
 そうやって追放された者は、盗賊や反社会的組織の下っ端に身を落とす者も少なくない。
 どうやら、今目の前にいる連中は腕が立つようだ。

「おう! なんだてめえ等は?」
「ここを知ったからには、生かしちゃおけねぇな!」

 物騒な物言いで気性の激しい男達が凶器を片手にゾロゾロと姿を現す。口調が荒いのは薬物で頭が相当にやられているためだろうか。
 ニオン、ナルミ、ベーンは廃墟の入り口付近にいるが、そこにムラトの姿はなかった。

「私達は近隣の方々から依頼を頼まれた者です」
「あたし達、廃墟の掃除を頼まれたのぉ」
「フガァァ」

 見張りのならず者達に挨拶をする、ニオン、ナルミ、ベーン。
 相手側は圧倒的に多勢だが、石カブトの面々には恐怖も動揺も一切見当たらず、むしろ冷静で穏やかな様子である。
 しかし油断は微塵もない。

「バカめ! こんな辺境に清掃作業しに来る奴がいるかぁ!」
「近隣の連中の依頼で、おれ達を潰しに来たんだろ? バカが! ガキ共だけで何ができるってんだ!」
 
 怒号をあげながら、歯が抜け落ちた人相の悪い何十人もの男達が集まって、二人と一匹を囲いこむ。
 彼等に逃場はない。 
 しかし、ニオンは優しげな表情で不敵に口を開いた。

「いえいえ、何かの間違いです。本当に私達は掃除に来ただけです。ただし、掃除する対象と言うのは……」

 一瞬、ヒュッと言う風を切る音がなると何かが地面に落ちた。それは人間の頭部。
 しかも一つではない、いくつもの頭が血も流さずゴロゴロと地面を転がったのだ。

「……君達だ」

 ニオンが放った、刀による超高速の一閃で周囲の男達の素っ首が落とされたのだ。
 あまりの速さに、斬撃も彼の踏み込みも見えた者はいなかった。
 首を切断して血が吹き出ないのは、刀の機能で止血しているためである。

「返り血を浴びるのは好きだが、君達のような輩の血は好かないのでね」

 ニオンの目付きが厳しくなるが、口調は穏やかなままである。
 しかし、やったことと言動は恐ろしいものだった。
 彼は日頃こそ温厚な美剣士だが、いざ殺し合いとなると残虐な魔剣士に変貌してしまう。刀を一振りすれば、必ず無数の死体がでるのだ。
 ならず者達の叫び声が響き渡る。

「てめえ等! よくも!」
「ぶっ殺せ!」

 男達の一部が魔術の詠唱を開始し、火炎弾が発射されそうになったときだった、凄まじい地鳴りが襲う。
 とても安定して魔術など唱えられない。

「……なっなんだ?」

 男達が狼狽していると、轟音と共に土煙が舞った。
 そして、その場にいる全員が巨大な影に覆いつくされる。
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