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日常と裏家業
今後の事
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エリンダ様に呼ばれて、北門付近に到着したときには周囲は真っ暗だった。
蛮竜に一部を壊され、まだ完全に治ってない診察室でエリンダ様が人の姿をしたアドバ隊長とリズリの怪我の状態を確認している。
二人ともボロボロではあったが、特に別状はなかったようでホッとしているようだ。
そして彼女は診察室の窓を開けた。外にいる俺と話すためだろう。
「ありがとうムラトくん。この子達を助けてくれて。色々助けられっぱなしだね」
「いえいえ、この地域に住む人々を守ることが勤めですから。それに俺は、あなたに雇われてる身ですから」
「お姉さん好きだよぉ。君みたいな誠実な竜は。ところでドラゴンハンターはどうなったのかな?」
いつもは、おっとり穏やかな領主様の顔が、いきなり厳しくなり眼鏡を指でスッとあげる。
表情から察するにドラゴンハンターを相当に嫌っていることが良く分かる。
「生きたまま魔物の餌にしました。まあ、二人を痛ぶった報いです」
「そうね。わたしも竜を食い物にする輩は許さないたちだからねぇ。わたしの領地に勝手にノコノコやって来て、わたしの竜達に危害を加えたんだもの、いい気味だわ。特に希竜は、その美しさから愛玩用として高値で取引されるの。子供にいたっては特に高額だわ」
そう言うと、ベッドに座るリズリに近寄り彼のフワフワの髪の毛をなで始める。彼女は、いつもの優しい顔に戻っていた。
「この子達にもしっかりとした権利があるの。こんな純粋な竜達を売り物にしちゃいけないのよ」
エリンダ様の変貌ぶりにアドバ隊長とリズリがビビっているが、それだけ竜達を愛していることを意味する。
だからこそ俺もこの人の元についているのだ。
「エリンダ様、オレに話とは一体?」
すると壁に寄りかかっていたオボロ隊長がエリンダ様に語りかけた。なぜ自分が呼び出されたのか本題に入るようだ。
「今回の蛮竜の襲撃のことは聞いたかなオボロくん?」
「はい。初めて聞いたときは驚きました。南にしか生息していなかった竜ですから」
「今後について。まともに蛮竜と渡り合える君達の意見を聞きたいと思って、来てもらったのよ」
予想どおりだ。隊長についての話は蛮竜についてだった。
× × ×
「蛮竜が数百匹! 国が滅んでもおかしくない数じゃないですか!」
驚愕するのはオボロである。
自分が不在中に蛮竜が襲撃してきたことは聞いていたが、その数までは知らなかったようだ。
オボロも蛮竜を葬ったことはあるが、それは少数の話である。
蛮竜の恐ろしさは、とんでもない繁殖力による数の暴力にあるのだ。一匹程度なら飛竜には及ばないが、群れればとんでもない危険な存在となるのだ。
そんなものが数百匹など、国が総力をあげなければならない程の脅威、あまり発展していない小国ともなれば滅亡である。
歴史にも、蛮竜により滅ぼされたり、半壊した国もあるぐらいだ。
「絶望的な状況だったけど、ムラトくんの働きでどうにかできたわ。飛竜達だけだったら、みんな助からなかったわね。本当にムラトくんには感謝しているわ」
そう言いながら椅子に掛けるエリンダ。
しかしオボロは椅子に座って向かい合って会話することができない。オボロは彼女の近くに佇むだけである。
オボロは身長は約三五〇センチ、体重約一二〇〇キロにもなる肉体をほこる。それゆえに座る椅子がないのだ。
その巨体は、普通の毛玉人を遥かに凌駕する怪力を誇る高密度の筋肉の塊である。
その筋肉の要塞が窓越しに、外で横たわる巨大な存在を一瞥する。
「ムラト。お前、本当に凄いなぁ」
国を滅ぼす程の蛮竜の群れを、一夜で全滅させるなど常軌を逸している。ましてや当の本人は無傷ときたものだ。
数多くの魔物を葬ってきたオボロの目から見ても、ムラトの力は行きすぎているものだった。
冷静な表情で、再びエリンダが口を開く。
「蛮竜達が、また襲撃してくることはあると思う、オボロくん?」
「可能性はありますね。それと、ナルミからも聞きましたが、蛮竜が魔術を利用しての襲撃。人が手引きしているとしか言いようがありませんね。しかし確実とは言えません。それに周囲に奴等の姿が無いと言う点も気になりますね。……いったい、なんなのか?」
オボロもエリンダと同じ考えだった。竜は魔力を待たないので魔術など到底使用できない。
しかし奴等は転移魔術で襲撃してきた。ならば人が関係している可能性が高い。
しかし、まだなんの確証もないため誰も確実なことは言えなかった。
オボロは話を続ける。
「蛮竜がこの世界にどれだけ存在するか分かりません、となると防衛は厳重にしなければなりませんね。なにか対策を考えないとなりませんな。それに聞きましたが蛮竜共は希竜のあの子、トウカを狙っていたそうですね。安心してください、トウカは絶対に蛮竜どもには渡しません。もしも奴等がトウカを諦めないのであれば、石カブト総出で世界を渡り歩き蛮竜を絶滅させます」
オボロは過激なことを言うが、それに対しては冗談な様子はなく真剣だった。そう語る姿は凄まじい気迫を纏っていた。
「鬼熊とうたわれた君が言うのであれば、本当にやってしまうだろうね」
「よしてくださいエリンダ様。昔の話です、今はただの雇われ屋ですよ」
「それでも、わたし達を大事に守ってくれている。君達は、わたしの大切な最強の戦士達よ」
エリンダに、そのようなことを言われたためか、オボロは恥ずかしそうに頭を掻きむしった。
屈強な毛玉人だが、頭をボリボリ掻く仕草はどこか愛嬌がある。
しかし、オボロはもの悲しげな表情を浮かべた。
「オレ達は最強などと名乗れません。どれだけ強くなっても、この命と力を憎まれ呪われる以上は。だからこそ、ニオンも剣聖にはなれなかったのです。それだけオレとニオンは、無茶をしすぎたんです……」
オボロは一息置くと窓に近寄り、外にいるムラトに話しかけた。
× × ×
「ムラト聞いてくれ、今後蛮竜どもの襲撃が予想される。それこそ今回以上の数で襲われでもしたら国力を総動員しても防ぎきれんかもしれん。奴等と真っ向からやり合えるのは、お前だけだ。もしものときは、頼んだぞ」
「もちろんですよ隊長。それが俺の役目ですから」
真剣に話すオボロ隊長に俺は答えた。
蛮竜共をどうにかできるのは俺しかいない。
今の俺にとっては、ここが我が家のようなものだ。ならば、それを脅かす存在は徹底的に叩くしかない。
怪獣のこの巨大な力。日本では殺戮のためだけだったが、俺が怪獣の体を乗っ取った以上は俺が好きなように利用させてもらう。
そう心に決め、俺は拳を強く握りしめた。
すると、なにやら怪しい笑みを浮かべながら領主様が隊長の背後から近づいてきた……。
「ムラトくん。明日、君と一緒に行きたいところがあるんだけど良いかなぁ?」
「……構いませんが」
何やら、恐ろしいな。美しい方なのだが、竜のことになると狂喜にいたるからな。
おそらく、また実験か何かだろう。
「君の体を、じっくり研究させてねぇ」
……やっぱりな。
エリンダ様の表情がヤバイ。
そして俺は覚悟を決めた。またいじくり回されるだろう。
蛮竜に一部を壊され、まだ完全に治ってない診察室でエリンダ様が人の姿をしたアドバ隊長とリズリの怪我の状態を確認している。
二人ともボロボロではあったが、特に別状はなかったようでホッとしているようだ。
そして彼女は診察室の窓を開けた。外にいる俺と話すためだろう。
「ありがとうムラトくん。この子達を助けてくれて。色々助けられっぱなしだね」
「いえいえ、この地域に住む人々を守ることが勤めですから。それに俺は、あなたに雇われてる身ですから」
「お姉さん好きだよぉ。君みたいな誠実な竜は。ところでドラゴンハンターはどうなったのかな?」
いつもは、おっとり穏やかな領主様の顔が、いきなり厳しくなり眼鏡を指でスッとあげる。
表情から察するにドラゴンハンターを相当に嫌っていることが良く分かる。
「生きたまま魔物の餌にしました。まあ、二人を痛ぶった報いです」
「そうね。わたしも竜を食い物にする輩は許さないたちだからねぇ。わたしの領地に勝手にノコノコやって来て、わたしの竜達に危害を加えたんだもの、いい気味だわ。特に希竜は、その美しさから愛玩用として高値で取引されるの。子供にいたっては特に高額だわ」
そう言うと、ベッドに座るリズリに近寄り彼のフワフワの髪の毛をなで始める。彼女は、いつもの優しい顔に戻っていた。
「この子達にもしっかりとした権利があるの。こんな純粋な竜達を売り物にしちゃいけないのよ」
エリンダ様の変貌ぶりにアドバ隊長とリズリがビビっているが、それだけ竜達を愛していることを意味する。
だからこそ俺もこの人の元についているのだ。
「エリンダ様、オレに話とは一体?」
すると壁に寄りかかっていたオボロ隊長がエリンダ様に語りかけた。なぜ自分が呼び出されたのか本題に入るようだ。
「今回の蛮竜の襲撃のことは聞いたかなオボロくん?」
「はい。初めて聞いたときは驚きました。南にしか生息していなかった竜ですから」
「今後について。まともに蛮竜と渡り合える君達の意見を聞きたいと思って、来てもらったのよ」
予想どおりだ。隊長についての話は蛮竜についてだった。
× × ×
「蛮竜が数百匹! 国が滅んでもおかしくない数じゃないですか!」
驚愕するのはオボロである。
自分が不在中に蛮竜が襲撃してきたことは聞いていたが、その数までは知らなかったようだ。
オボロも蛮竜を葬ったことはあるが、それは少数の話である。
蛮竜の恐ろしさは、とんでもない繁殖力による数の暴力にあるのだ。一匹程度なら飛竜には及ばないが、群れればとんでもない危険な存在となるのだ。
そんなものが数百匹など、国が総力をあげなければならない程の脅威、あまり発展していない小国ともなれば滅亡である。
歴史にも、蛮竜により滅ぼされたり、半壊した国もあるぐらいだ。
「絶望的な状況だったけど、ムラトくんの働きでどうにかできたわ。飛竜達だけだったら、みんな助からなかったわね。本当にムラトくんには感謝しているわ」
そう言いながら椅子に掛けるエリンダ。
しかしオボロは椅子に座って向かい合って会話することができない。オボロは彼女の近くに佇むだけである。
オボロは身長は約三五〇センチ、体重約一二〇〇キロにもなる肉体をほこる。それゆえに座る椅子がないのだ。
その巨体は、普通の毛玉人を遥かに凌駕する怪力を誇る高密度の筋肉の塊である。
その筋肉の要塞が窓越しに、外で横たわる巨大な存在を一瞥する。
「ムラト。お前、本当に凄いなぁ」
国を滅ぼす程の蛮竜の群れを、一夜で全滅させるなど常軌を逸している。ましてや当の本人は無傷ときたものだ。
数多くの魔物を葬ってきたオボロの目から見ても、ムラトの力は行きすぎているものだった。
冷静な表情で、再びエリンダが口を開く。
「蛮竜達が、また襲撃してくることはあると思う、オボロくん?」
「可能性はありますね。それと、ナルミからも聞きましたが、蛮竜が魔術を利用しての襲撃。人が手引きしているとしか言いようがありませんね。しかし確実とは言えません。それに周囲に奴等の姿が無いと言う点も気になりますね。……いったい、なんなのか?」
オボロもエリンダと同じ考えだった。竜は魔力を待たないので魔術など到底使用できない。
しかし奴等は転移魔術で襲撃してきた。ならば人が関係している可能性が高い。
しかし、まだなんの確証もないため誰も確実なことは言えなかった。
オボロは話を続ける。
「蛮竜がこの世界にどれだけ存在するか分かりません、となると防衛は厳重にしなければなりませんね。なにか対策を考えないとなりませんな。それに聞きましたが蛮竜共は希竜のあの子、トウカを狙っていたそうですね。安心してください、トウカは絶対に蛮竜どもには渡しません。もしも奴等がトウカを諦めないのであれば、石カブト総出で世界を渡り歩き蛮竜を絶滅させます」
オボロは過激なことを言うが、それに対しては冗談な様子はなく真剣だった。そう語る姿は凄まじい気迫を纏っていた。
「鬼熊とうたわれた君が言うのであれば、本当にやってしまうだろうね」
「よしてくださいエリンダ様。昔の話です、今はただの雇われ屋ですよ」
「それでも、わたし達を大事に守ってくれている。君達は、わたしの大切な最強の戦士達よ」
エリンダに、そのようなことを言われたためか、オボロは恥ずかしそうに頭を掻きむしった。
屈強な毛玉人だが、頭をボリボリ掻く仕草はどこか愛嬌がある。
しかし、オボロはもの悲しげな表情を浮かべた。
「オレ達は最強などと名乗れません。どれだけ強くなっても、この命と力を憎まれ呪われる以上は。だからこそ、ニオンも剣聖にはなれなかったのです。それだけオレとニオンは、無茶をしすぎたんです……」
オボロは一息置くと窓に近寄り、外にいるムラトに話しかけた。
× × ×
「ムラト聞いてくれ、今後蛮竜どもの襲撃が予想される。それこそ今回以上の数で襲われでもしたら国力を総動員しても防ぎきれんかもしれん。奴等と真っ向からやり合えるのは、お前だけだ。もしものときは、頼んだぞ」
「もちろんですよ隊長。それが俺の役目ですから」
真剣に話すオボロ隊長に俺は答えた。
蛮竜共をどうにかできるのは俺しかいない。
今の俺にとっては、ここが我が家のようなものだ。ならば、それを脅かす存在は徹底的に叩くしかない。
怪獣のこの巨大な力。日本では殺戮のためだけだったが、俺が怪獣の体を乗っ取った以上は俺が好きなように利用させてもらう。
そう心に決め、俺は拳を強く握りしめた。
すると、なにやら怪しい笑みを浮かべながら領主様が隊長の背後から近づいてきた……。
「ムラトくん。明日、君と一緒に行きたいところがあるんだけど良いかなぁ?」
「……構いませんが」
何やら、恐ろしいな。美しい方なのだが、竜のことになると狂喜にいたるからな。
おそらく、また実験か何かだろう。
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