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日常と裏家業
蛮竜
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「蛮竜? そう言えば俺が石カブトに入る前、ナルミに竜について尋ねたとき最悪な奴がいるとか言っていたが、まさかあいつが……」
「はい、たしかにあれは危険生物です。でもどうして、蛮竜は大陸のはるか南のはてにしか生息していないはずなのに」
アサムがそう説明していると、蛮竜がいきなり俺達に向かって急降下してきた。
そして俺の手に乗っている希竜の少女に向けて、高速で長大な舌を伸ばしてきたのだ。
すかさず俺は反対の手で少女を覆って、伸びてきた舌を防いだ。
いきなり、何しやがる!
野郎の舌は俺の手の皮膚にぶつかり弾かれた。良く見ると舌の先端部が銛のように鋭くなっている。
あきらかに彼女に危害を加えようとしていたのが分かる。
「ギィエェェェ!!」
蛮竜は邪魔されたことに腹を立てたのか伸びた舌を口の中に戻すと、また高音の鳴き声をあげ、俺の手に赤黒い毒々しい液体を吐きかけてきた。
「おえ! なんともないが、なんだか汚ねぇな」
手にゲロをかけられているような気分だ。
しかし、その液体が地面に流れ落ちたとき、ただの体液でないことが分かった。白煙をあげながら土や草を焼いているのだ。
……強酸性の液体か。
「ムラトさん! 彼女に傷を負わせたのは、きっとその蛮竜です」
「ああ、違いねぇ。攻撃手段や、この子を狙ってくるあたり、こいつの仕業だ」
銛状の舌と溶解液。蛮竜の攻撃手段と希竜の少女の傷を照らし合わせりゃ合点がいく。
蛮竜を叩き落とそうと腕を振った。しかし奴は身をかわすと、はるか上空に避難した。
だが高度をとっても俺の前では無駄だ。
正確に捕捉して触角から殺獣光線を照射する。蛮竜の素っ首が切り落とされ、胴体と首が地面にズンッと落下してきた。
「うわぁぁぁぁ! ムラトさん! 蛮竜がまだ生きています!」
ひと安心かと思いきや、突如悲鳴のような声をあげたのはアサム。
落下してきた頭が、のたうちまわるように動きだしたのだ。
蛮竜は首だけになっても、蛇のようにうねりながらこちらに向かってきた。
「しつけぇ! 死にやがれ!」
今度は脳天を撃ち抜く、脳髄はあらゆる生物において重要な器官。脳を破壊すればコイツもおとなしくなるだろう。
予想通り脳を潰したためか、やっと生命活動を停止させた。
……なんて生命力だ。
「アサム、ベーン! 俺の頭に乗れ。蛮竜のせいで時間をくった。エリンダ様に報告するためにも急ぐぞ。この子の治療が最優先だが……」
「わかりました」
「ポアァァ!」
竜に詳しいエリンダ様なら希竜の少女の傷も何とかしてくれるだろう。蛮竜についても教えてくれるはずだ。
俺はゲン・ドラゴンに向けて脚を急がせた。
× × ×
石カブトの本部はゲン・ドラゴン南門の傍らにある、そして反対側の北門あたりには竜を管理する施設が多数並んでいる。
ここで領主エリンダが竜達を管理しているのだ。
ゲン・ドラゴンで生まれた竜は、ここであらゆることを学び一人前になると各街や村で働くことになる。
エリンダによる徹底的な教育が施されるため、竜一匹一匹の実力は高く、そして賢い。
ここには竜が生活するための竜舎、ほかに鍛練場や竜の医療施設である竜専用の診療所が備わっている。
施設自体は平原が無限に広がる壁外にあるため、巨体の竜達は窮屈せずに暮らせているのだ。
傷を負った希竜の少女は竜の診療所に運びこまれた。
そして彼女をここまで運んできたムラトは診療所の近くでうつ伏せの姿勢で窓越しに施設内の様子を眺めている。
その怪獣の背中には何匹かの飛竜が止まっており、同じく中の様子を伺っていた。そして、ベーンも彼の頭の上に登って診療所内の様子を眺めていた。
巨大怪獣が寝そべり、背中に止まらせた竜達と建物を覗きこむのは奇妙な光景であった。
診療所の診察室では部屋の中央で横になっている希竜の少女にエリンダが抗生物質を射っている様子が見えた。
部屋と言っても、竜が一匹丸々おさまるほどの広い場所である。
「これで大丈夫よ、わたしも希竜の女の子を見るのは初めてだわ。これは相当に上質な毛ね……元気になったら、この子の体毛に埋もれてクンカクンカしたいわねぇ!」
領主は相変わらず竜に対して狂気ぶりを剥き出しにしていた。指をワキワキさせて鼻息を荒くする。
診察室には彼女達以外にアサムと人化したリズリが佇んでいた。
そしてエリンダは部屋の棚にある無数の薬品に目を通しながら口を開いた。
「ベーンくんが色々な薬を合成してくれるから、本当に助かるわ。アサムくん、またその内に彼を借りるわね」
「ええ、はい。でもどうしてベーンは、あらゆる薬品を作ることができるんですかね?」
アサムの問いにエリンダは少しばかり困り顔になり、ムラトの頭の上にいるベーンを窓越しに見つめた。
「詳しいことは分からないけど、彼は体内で任意に色々な化学物質を合成できるみたいなの。それに加え彼自身あらゆる毒素や病原菌にも強いようだし、今の科学技術では彼を精密に解析するのは困難ね……ほんと不思議で色々な竜が、わたしの元に集まってくるから最高だわ」
またもやエリンダは狂喜の表情を見せる。
ベーンは、ただの陸竜ではない。それは、みな分かっていることである。
通常の陸竜達を上回る知能、身体能力、そして今説明したようにあらゆる化学物質を生成する器官を持っているのだ。
しかし彼が何者でなぜそれほどの能力をもっているかは、まだ解明できていないのだ。
しばらくすると竜の少女は部屋の中央で眠りについた。よほど疲れはてていたのだろう。
治療も終わったのでアサムは領主エリンダに蛮竜の出現を報告をした。
それを聞いたエリンダの顔が固くなる。
一息おき彼女は蛮竜について語り始めた。
「こんな大陸の中央に蛮竜が来るなんて、考えもつかなかったわ。はるか南のはてにしか存在しなかったはずなのに」
このエルシド大陸と言う巨大大陸の中央近くにサハク王国は存在している。
大陸の南の果てにしか存在していなかった危険生物がどういうわけか北上してきたと言うのだ。
エリンダは説明を続ける。
「わたしも実物は見たことがないけど、蛮竜は生きた天災と言われるのよ。非常に獰猛かつ貪欲で他の生物を餌としか見てないの。……魔物さえも含めてね」
「……あのうエリンダ様。それにはボク達、竜も含まれますか?」
「もちろんよ。人間、魔物、竜、手当たりしだいに……」
リズリが不安げに尋ね、エリンダが即答した。
蛮竜とは飽くなき食欲を持ち、さらにあらゆる生物の肉を好む極めて危険な存在なのである。
竜の少女があそこまで酷くやられていたのだから、領主の説明はこの場にいる全員が納得できるものだった。
「はい、たしかにあれは危険生物です。でもどうして、蛮竜は大陸のはるか南のはてにしか生息していないはずなのに」
アサムがそう説明していると、蛮竜がいきなり俺達に向かって急降下してきた。
そして俺の手に乗っている希竜の少女に向けて、高速で長大な舌を伸ばしてきたのだ。
すかさず俺は反対の手で少女を覆って、伸びてきた舌を防いだ。
いきなり、何しやがる!
野郎の舌は俺の手の皮膚にぶつかり弾かれた。良く見ると舌の先端部が銛のように鋭くなっている。
あきらかに彼女に危害を加えようとしていたのが分かる。
「ギィエェェェ!!」
蛮竜は邪魔されたことに腹を立てたのか伸びた舌を口の中に戻すと、また高音の鳴き声をあげ、俺の手に赤黒い毒々しい液体を吐きかけてきた。
「おえ! なんともないが、なんだか汚ねぇな」
手にゲロをかけられているような気分だ。
しかし、その液体が地面に流れ落ちたとき、ただの体液でないことが分かった。白煙をあげながら土や草を焼いているのだ。
……強酸性の液体か。
「ムラトさん! 彼女に傷を負わせたのは、きっとその蛮竜です」
「ああ、違いねぇ。攻撃手段や、この子を狙ってくるあたり、こいつの仕業だ」
銛状の舌と溶解液。蛮竜の攻撃手段と希竜の少女の傷を照らし合わせりゃ合点がいく。
蛮竜を叩き落とそうと腕を振った。しかし奴は身をかわすと、はるか上空に避難した。
だが高度をとっても俺の前では無駄だ。
正確に捕捉して触角から殺獣光線を照射する。蛮竜の素っ首が切り落とされ、胴体と首が地面にズンッと落下してきた。
「うわぁぁぁぁ! ムラトさん! 蛮竜がまだ生きています!」
ひと安心かと思いきや、突如悲鳴のような声をあげたのはアサム。
落下してきた頭が、のたうちまわるように動きだしたのだ。
蛮竜は首だけになっても、蛇のようにうねりながらこちらに向かってきた。
「しつけぇ! 死にやがれ!」
今度は脳天を撃ち抜く、脳髄はあらゆる生物において重要な器官。脳を破壊すればコイツもおとなしくなるだろう。
予想通り脳を潰したためか、やっと生命活動を停止させた。
……なんて生命力だ。
「アサム、ベーン! 俺の頭に乗れ。蛮竜のせいで時間をくった。エリンダ様に報告するためにも急ぐぞ。この子の治療が最優先だが……」
「わかりました」
「ポアァァ!」
竜に詳しいエリンダ様なら希竜の少女の傷も何とかしてくれるだろう。蛮竜についても教えてくれるはずだ。
俺はゲン・ドラゴンに向けて脚を急がせた。
× × ×
石カブトの本部はゲン・ドラゴン南門の傍らにある、そして反対側の北門あたりには竜を管理する施設が多数並んでいる。
ここで領主エリンダが竜達を管理しているのだ。
ゲン・ドラゴンで生まれた竜は、ここであらゆることを学び一人前になると各街や村で働くことになる。
エリンダによる徹底的な教育が施されるため、竜一匹一匹の実力は高く、そして賢い。
ここには竜が生活するための竜舎、ほかに鍛練場や竜の医療施設である竜専用の診療所が備わっている。
施設自体は平原が無限に広がる壁外にあるため、巨体の竜達は窮屈せずに暮らせているのだ。
傷を負った希竜の少女は竜の診療所に運びこまれた。
そして彼女をここまで運んできたムラトは診療所の近くでうつ伏せの姿勢で窓越しに施設内の様子を眺めている。
その怪獣の背中には何匹かの飛竜が止まっており、同じく中の様子を伺っていた。そして、ベーンも彼の頭の上に登って診療所内の様子を眺めていた。
巨大怪獣が寝そべり、背中に止まらせた竜達と建物を覗きこむのは奇妙な光景であった。
診療所の診察室では部屋の中央で横になっている希竜の少女にエリンダが抗生物質を射っている様子が見えた。
部屋と言っても、竜が一匹丸々おさまるほどの広い場所である。
「これで大丈夫よ、わたしも希竜の女の子を見るのは初めてだわ。これは相当に上質な毛ね……元気になったら、この子の体毛に埋もれてクンカクンカしたいわねぇ!」
領主は相変わらず竜に対して狂気ぶりを剥き出しにしていた。指をワキワキさせて鼻息を荒くする。
診察室には彼女達以外にアサムと人化したリズリが佇んでいた。
そしてエリンダは部屋の棚にある無数の薬品に目を通しながら口を開いた。
「ベーンくんが色々な薬を合成してくれるから、本当に助かるわ。アサムくん、またその内に彼を借りるわね」
「ええ、はい。でもどうしてベーンは、あらゆる薬品を作ることができるんですかね?」
アサムの問いにエリンダは少しばかり困り顔になり、ムラトの頭の上にいるベーンを窓越しに見つめた。
「詳しいことは分からないけど、彼は体内で任意に色々な化学物質を合成できるみたいなの。それに加え彼自身あらゆる毒素や病原菌にも強いようだし、今の科学技術では彼を精密に解析するのは困難ね……ほんと不思議で色々な竜が、わたしの元に集まってくるから最高だわ」
またもやエリンダは狂喜の表情を見せる。
ベーンは、ただの陸竜ではない。それは、みな分かっていることである。
通常の陸竜達を上回る知能、身体能力、そして今説明したようにあらゆる化学物質を生成する器官を持っているのだ。
しかし彼が何者でなぜそれほどの能力をもっているかは、まだ解明できていないのだ。
しばらくすると竜の少女は部屋の中央で眠りについた。よほど疲れはてていたのだろう。
治療も終わったのでアサムは領主エリンダに蛮竜の出現を報告をした。
それを聞いたエリンダの顔が固くなる。
一息おき彼女は蛮竜について語り始めた。
「こんな大陸の中央に蛮竜が来るなんて、考えもつかなかったわ。はるか南のはてにしか存在しなかったはずなのに」
このエルシド大陸と言う巨大大陸の中央近くにサハク王国は存在している。
大陸の南の果てにしか存在していなかった危険生物がどういうわけか北上してきたと言うのだ。
エリンダは説明を続ける。
「わたしも実物は見たことがないけど、蛮竜は生きた天災と言われるのよ。非常に獰猛かつ貪欲で他の生物を餌としか見てないの。……魔物さえも含めてね」
「……あのうエリンダ様。それにはボク達、竜も含まれますか?」
「もちろんよ。人間、魔物、竜、手当たりしだいに……」
リズリが不安げに尋ね、エリンダが即答した。
蛮竜とは飽くなき食欲を持ち、さらにあらゆる生物の肉を好む極めて危険な存在なのである。
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