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国家動乱
震えるギルドマスター
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サハク王国。
それは、このエルシド大陸の中心部に存在する国家。
その国の王都に最も近い街クバルス。その町は王都を除けば、近辺の市街地の中でも一番の大きさを誇り、建ち並ぶ建物も上品なものばかり。
そんな町では、いつも通りの一日が始まっていた。
しかし、どこか人々に活気がない。
「あーあ、ひでぇよな国王の奴。租税増やしやがってぇ。生活が大変だってぇのっ!」
「おいおい、口に気いつけろぉ。誰が聞いてるか分からねぇぞ」
「分かってる。いっそ今の仕事辞めて、城に召し抱えてもらおうかな」
「やめとけ。城に雇われた連中は、どうなるか分からねぇって噂があるぜぇ。もしかしたら城に出稼ぎに来た奴等は、強制的に訓練でもさせられて兵役につかされてるかもしれんぞ。ここんとこ国王は、人が変わったように異常だからな」
愚痴を溢しながら二人の男が街の中を歩く。
約一年前からサハク王国の租税は大幅に引き上げられていた。いかなる理由で引き上げが行われたのかわ分かっていない。
言うまでもなく、それにより職や生活を失う輩も多かった。
そこで国王は、ある提案をだした。
それは仕事や生活に困窮した者達を城で雇うと言う内容。
「城が人員不足」という理由で出した提案ではあるが、その真相はまるで分からない。
国民から反感や不審を受けないための策ではないかと言う話もある。
そして、王の城に雇われた人達のその後を見た者はいないらしい。
増税に加えて、城で雇うと言う美味しい話での人集め。
その二つのことで黒い噂もでている。
「雇われた住民は兵士にされる」
「軍備を整えるために税を増やしたのではないか?」
「近いうちに戦争が始まる」
国王の不可解な行いにより、王都近隣の人々には不審と不満がつきなかった。
クバルスから東に約一キロ。
そこに三階建ての大きな建物がある。ギルドだ。
冒険者と呼ばれる者達が集う場所である。
ギルドはサハク王国の各地方に点在し、ここクバルスにあるものが本部である。
各地に存在する支部の建物よりも、はるかに大きく設備も充実している。
そして、とある重要人物がいる場所でもあった。
「だ、大丈夫ですかギルドマスター? なんだか様子がへんですよ」
「あ、ああ。大丈夫だよ。……少し疲れてるだけさ」
受付嬢が心配するのは震えているツキノワグマの毛玉人。
会話から分かるとおり、この熊の青年が国内に存在するギルドのトップ、ギルドマスターだ。
元は傭兵であったが、今は能力の高さからか若くして冒険者達をまとめあげる人物である。
そんな彼の様子だが、どこか不安げで動揺している。
その図体に見会わない有り様だ。
「少々休まれては?」
受付嬢はマスターに笑顔を見せ、その場を後にした。
彼女が立ち去ったことを確認すると、マスターは再び身震いする。
嘘の依頼をだして、友人を死地に送ってしまった。
それが動揺の理由である。
「……し、しかたなかったんだ。逆らえば……家族が……命が」
とある人物からの命令とは言え、友人を騙して死地に送り込んでしまった罪悪感と恐怖で押し潰されそうになる。
命令の内容は、あきらかにその友人を抹殺するのが目的。
もう二度と友と会うことはできないだろう。
激戦地の、ど真ん中に放り出してしまったのだから。
だが、ギルドマスターのその考えは大きく外れていた。
彼が一人震えていたとき、クバルスの入り口近くに直径三百メートルはあろう魔法陣が発生していた。
その転移魔方陣から、この世界の人々からは比較し難い巨大なものが現れようとしていた。
クバルスの入り口付近、そこにオボロ達は飛ばされた。
王都に最も近い街のため肉眼でも都市が確認できる場所。
都市中央に国王の巨大な城が見える。しかし彼等の目的は王都の見物ではない。
この街にあるギルド本部に、とんでもない依頼を出してくれた奴がいる。そいつに虐殺を行わせた落とし前と、なぜ自分達を騙したのか、それを聞き出すため彼等はやってきたのだ。
「ムラト、あの建物だ」
オボロが街から一キロ程離れた、木造三階建ての建物を指さす。
ギルドは国内各所にあるが、マスターが常務しているのはここのギルド。
柄の悪い連中も出入りしてるため、あえて街から離れた位置にあるのだ。
もちろんのこと、いきなり巨大すぎるものが町の近くに出現したため、さっそくにクバルスで騒ぎが始まる。
クバルスの住民がムラトを見上げて、ギャーギャー騒ぎ立てているのだ。
「……竜だぁぁ!」
「は、ひぃっ! ……逃げるんだぁ」
いきなりの緊急事態。
街の警護を仕事とする民兵達は、混乱にいたっていた。
「……ま、街を、守らないと」
「バ、バカ! なにしてる、あんなの相手にできるかぁ! 逃げるんだよ! 早く避難を呼びかけるんだ!」
兵士達は平常心を失い迎撃しようとする者、慌てふためきながらも避難警報を出そうとする者など、個々にめちゃくちゃな行動をしてしまう有り様。
ムラトは民兵のことなど、気にもせずギルドに脚を進める。
しかし、その一歩一歩は非常に重い。
その地響きは、町の住民達だけでなく、ギルド周囲をたむろする冒険者や、ギルドの建物内にいる人々を伏せさせる。
まるで生きた地震である。立ってられないのだ。
「ようし、ここで降ろしてくれ」
そしてムラトがギルド本部の近くまでやってくると、オボロはムラトを停止させ、自分達を降ろすように伝える。
オボロ、ニオン、アサムはムラトの手のひらに乗り移る。
巨獣はオボロの指示に従いギルド近くの地面に手を置き、三人を地に置いた。
ギルドから誰も出てこないのは地響きのせいだろう。
全員がテーブルの下などに潜っているのだ。
「ニオン、アサム、お前達は待ってろ。オレがいってくる」
「わかりました」
「は、はい……」
オボロは二人を待機させ、一人ギルドの玄関に向かう。
ギルド周囲でたむろしていた者達は、その巨漢の熊を注目した。
従来の毛玉人と比べて、あまりにも大きいからだ。
「おい、誰だ、あのデカイ熊の毛玉人は?」
「あ、あいつはオボロ……」
「知ってるのか?」
オボロに面識があると思われる、ヒグマの毛玉人が語り出す。
「国の最北端の地域にある、都市ゲン・ドラゴンに本拠を置く雇われ屋だ。あいつ等は大規模な戦力を要する裏依頼を、個人あるいは少数で成し遂げるって噂がある……」
裏依頼とは、危険な犯罪組織の殲滅や凶暴すぎる魔物の討伐など、公にできないものや普通の冒険者では手に負えない内容の依頼のことである。
しかし、その依頼の存在は表沙汰にはされておらず、その依頼の存在を知るのは一部の限られたもの達だけである。
また達成するにも、かなりの犠牲が出かねない危険な仕事なのだ。
実際のところ、依頼とは名ばかりで、ほぼ戦争と言える内容なのだ。
ヒグマの説明を聞き、恐れをいだく冒険者達。
すると説明をしていたヒグマの男が、オボロに歩み寄った。
「め、珍しいな。……あんたがギルド本部に来るなんて」
「ギルドマスターに依頼完了を伝えに来たのさ」
オボロは血走った目で、ヒグマの男を見下ろした。
まるで巨漢と幼子のようである。
その体格差に恐怖しながらも勇気をだし、ヒグマ男はオボロの後に控えている巨大すぎるものについて訪ねた。
「と、ところで、あんたの後にいるのは竜なのか?」
「ああ、そうだな。詳しいことは領主様が調べている。もういいだろ? 用があるのはマスターなんでな」
「あ、ああ。……呼び止めて、すまなかった」
ヒグマの男はビクビクしながらオボロに道を開け、玄関に向かって歩く彼を目で追った。
オボロが離れていくにも関わらず、膝が震えていた。
他の輩はオボロよりもムラトを呆然と眺めていた。
「新種なのか?」
「いくらなんでも、デカすぎる」
「あれが本当に生き物なのか?」
大勢が個々に呟く。
最大サイズの飛竜でさえ十五メートル近く、大型魔物でも二〇メートル弱。
しかし、ギルドの者達が見上げる生物は高さだけでも九〇メートル。
尻尾を含めれば二〇〇メートルを越える超巨大な怪生物である。
つまり従来の大型生物の十倍相当の大きさなのだ。
すると、いきなりギルドの玄関から破壊音が響き渡る。
オボロが扉を蹴破ったのだ。
ギルドの一階は食堂になっているため、さっきまで飲食を楽しんでいたであろう人達がとばっちりを食らった。
「きゃー!」
「ご機嫌よう、ギルドの諸君。マスターはいるかぁ?」
受付嬢の悲鳴が響き渡り、オボロはゆっくりとギルドの中にはいる。
壊した扉など気にせず、傍若無人にギルド内を見渡した。
その鋭い目付きと巨体で冒険者達を威圧する。
「な、なんで! どうして、お前がここに!」
「いようマスター、依頼から戻ったぜ。あんたとは色々と話がしたいんだ。反応から察するに、最初からオレ達を始末するつもりだったようだな」
ギルドマスターは亡霊でも見たかのように、震え上がる。
彼は計画が失敗するなど考えていなかった。
あり得ない、信じられん。マスターの頭は驚愕で埋め尽くされる。
オボロが床を力強く踏み込んだ瞬間、一瞬にしてギルドマスターの目の前に移動していた。
その動き、見えた者はいない。
巨体に不似合いなスピードだ。踏まれた床は、抜け落ちていた。
「うわぁぁ! どうやって、あんな状況から逃げ延びたんだぁ!」
「逃げ延びた? 違うなぁ。戦って生き延びたんだ」
「なにをバカな! 上手く隠れて逃げて来たのだろう?」
「逃げる? とんでもねぇ、殺るとなったら、オレ達は徹底的だぜ。オレ達を見誤ったな。それと自己紹介といこうか」
オボロは目の前にいるツキノワグマの青年の襟を掴むと軽々と持ち上げた。
そしてタオルでも振り回すようにして投げ飛ばした。
壁を突き破りマスターは外に放り出され、なにか巨大なものに激突した。
激痛に耐えて、ぶつかったものを見上げる。
「な……なんだ、これは!?」
マスターは自分の目を疑った、激突したものは巨大な生き物の足だったのだ。
それは、このエルシド大陸の中心部に存在する国家。
その国の王都に最も近い街クバルス。その町は王都を除けば、近辺の市街地の中でも一番の大きさを誇り、建ち並ぶ建物も上品なものばかり。
そんな町では、いつも通りの一日が始まっていた。
しかし、どこか人々に活気がない。
「あーあ、ひでぇよな国王の奴。租税増やしやがってぇ。生活が大変だってぇのっ!」
「おいおい、口に気いつけろぉ。誰が聞いてるか分からねぇぞ」
「分かってる。いっそ今の仕事辞めて、城に召し抱えてもらおうかな」
「やめとけ。城に雇われた連中は、どうなるか分からねぇって噂があるぜぇ。もしかしたら城に出稼ぎに来た奴等は、強制的に訓練でもさせられて兵役につかされてるかもしれんぞ。ここんとこ国王は、人が変わったように異常だからな」
愚痴を溢しながら二人の男が街の中を歩く。
約一年前からサハク王国の租税は大幅に引き上げられていた。いかなる理由で引き上げが行われたのかわ分かっていない。
言うまでもなく、それにより職や生活を失う輩も多かった。
そこで国王は、ある提案をだした。
それは仕事や生活に困窮した者達を城で雇うと言う内容。
「城が人員不足」という理由で出した提案ではあるが、その真相はまるで分からない。
国民から反感や不審を受けないための策ではないかと言う話もある。
そして、王の城に雇われた人達のその後を見た者はいないらしい。
増税に加えて、城で雇うと言う美味しい話での人集め。
その二つのことで黒い噂もでている。
「雇われた住民は兵士にされる」
「軍備を整えるために税を増やしたのではないか?」
「近いうちに戦争が始まる」
国王の不可解な行いにより、王都近隣の人々には不審と不満がつきなかった。
クバルスから東に約一キロ。
そこに三階建ての大きな建物がある。ギルドだ。
冒険者と呼ばれる者達が集う場所である。
ギルドはサハク王国の各地方に点在し、ここクバルスにあるものが本部である。
各地に存在する支部の建物よりも、はるかに大きく設備も充実している。
そして、とある重要人物がいる場所でもあった。
「だ、大丈夫ですかギルドマスター? なんだか様子がへんですよ」
「あ、ああ。大丈夫だよ。……少し疲れてるだけさ」
受付嬢が心配するのは震えているツキノワグマの毛玉人。
会話から分かるとおり、この熊の青年が国内に存在するギルドのトップ、ギルドマスターだ。
元は傭兵であったが、今は能力の高さからか若くして冒険者達をまとめあげる人物である。
そんな彼の様子だが、どこか不安げで動揺している。
その図体に見会わない有り様だ。
「少々休まれては?」
受付嬢はマスターに笑顔を見せ、その場を後にした。
彼女が立ち去ったことを確認すると、マスターは再び身震いする。
嘘の依頼をだして、友人を死地に送ってしまった。
それが動揺の理由である。
「……し、しかたなかったんだ。逆らえば……家族が……命が」
とある人物からの命令とは言え、友人を騙して死地に送り込んでしまった罪悪感と恐怖で押し潰されそうになる。
命令の内容は、あきらかにその友人を抹殺するのが目的。
もう二度と友と会うことはできないだろう。
激戦地の、ど真ん中に放り出してしまったのだから。
だが、ギルドマスターのその考えは大きく外れていた。
彼が一人震えていたとき、クバルスの入り口近くに直径三百メートルはあろう魔法陣が発生していた。
その転移魔方陣から、この世界の人々からは比較し難い巨大なものが現れようとしていた。
クバルスの入り口付近、そこにオボロ達は飛ばされた。
王都に最も近い街のため肉眼でも都市が確認できる場所。
都市中央に国王の巨大な城が見える。しかし彼等の目的は王都の見物ではない。
この街にあるギルド本部に、とんでもない依頼を出してくれた奴がいる。そいつに虐殺を行わせた落とし前と、なぜ自分達を騙したのか、それを聞き出すため彼等はやってきたのだ。
「ムラト、あの建物だ」
オボロが街から一キロ程離れた、木造三階建ての建物を指さす。
ギルドは国内各所にあるが、マスターが常務しているのはここのギルド。
柄の悪い連中も出入りしてるため、あえて街から離れた位置にあるのだ。
もちろんのこと、いきなり巨大すぎるものが町の近くに出現したため、さっそくにクバルスで騒ぎが始まる。
クバルスの住民がムラトを見上げて、ギャーギャー騒ぎ立てているのだ。
「……竜だぁぁ!」
「は、ひぃっ! ……逃げるんだぁ」
いきなりの緊急事態。
街の警護を仕事とする民兵達は、混乱にいたっていた。
「……ま、街を、守らないと」
「バ、バカ! なにしてる、あんなの相手にできるかぁ! 逃げるんだよ! 早く避難を呼びかけるんだ!」
兵士達は平常心を失い迎撃しようとする者、慌てふためきながらも避難警報を出そうとする者など、個々にめちゃくちゃな行動をしてしまう有り様。
ムラトは民兵のことなど、気にもせずギルドに脚を進める。
しかし、その一歩一歩は非常に重い。
その地響きは、町の住民達だけでなく、ギルド周囲をたむろする冒険者や、ギルドの建物内にいる人々を伏せさせる。
まるで生きた地震である。立ってられないのだ。
「ようし、ここで降ろしてくれ」
そしてムラトがギルド本部の近くまでやってくると、オボロはムラトを停止させ、自分達を降ろすように伝える。
オボロ、ニオン、アサムはムラトの手のひらに乗り移る。
巨獣はオボロの指示に従いギルド近くの地面に手を置き、三人を地に置いた。
ギルドから誰も出てこないのは地響きのせいだろう。
全員がテーブルの下などに潜っているのだ。
「ニオン、アサム、お前達は待ってろ。オレがいってくる」
「わかりました」
「は、はい……」
オボロは二人を待機させ、一人ギルドの玄関に向かう。
ギルド周囲でたむろしていた者達は、その巨漢の熊を注目した。
従来の毛玉人と比べて、あまりにも大きいからだ。
「おい、誰だ、あのデカイ熊の毛玉人は?」
「あ、あいつはオボロ……」
「知ってるのか?」
オボロに面識があると思われる、ヒグマの毛玉人が語り出す。
「国の最北端の地域にある、都市ゲン・ドラゴンに本拠を置く雇われ屋だ。あいつ等は大規模な戦力を要する裏依頼を、個人あるいは少数で成し遂げるって噂がある……」
裏依頼とは、危険な犯罪組織の殲滅や凶暴すぎる魔物の討伐など、公にできないものや普通の冒険者では手に負えない内容の依頼のことである。
しかし、その依頼の存在は表沙汰にはされておらず、その依頼の存在を知るのは一部の限られたもの達だけである。
また達成するにも、かなりの犠牲が出かねない危険な仕事なのだ。
実際のところ、依頼とは名ばかりで、ほぼ戦争と言える内容なのだ。
ヒグマの説明を聞き、恐れをいだく冒険者達。
すると説明をしていたヒグマの男が、オボロに歩み寄った。
「め、珍しいな。……あんたがギルド本部に来るなんて」
「ギルドマスターに依頼完了を伝えに来たのさ」
オボロは血走った目で、ヒグマの男を見下ろした。
まるで巨漢と幼子のようである。
その体格差に恐怖しながらも勇気をだし、ヒグマ男はオボロの後に控えている巨大すぎるものについて訪ねた。
「と、ところで、あんたの後にいるのは竜なのか?」
「ああ、そうだな。詳しいことは領主様が調べている。もういいだろ? 用があるのはマスターなんでな」
「あ、ああ。……呼び止めて、すまなかった」
ヒグマの男はビクビクしながらオボロに道を開け、玄関に向かって歩く彼を目で追った。
オボロが離れていくにも関わらず、膝が震えていた。
他の輩はオボロよりもムラトを呆然と眺めていた。
「新種なのか?」
「いくらなんでも、デカすぎる」
「あれが本当に生き物なのか?」
大勢が個々に呟く。
最大サイズの飛竜でさえ十五メートル近く、大型魔物でも二〇メートル弱。
しかし、ギルドの者達が見上げる生物は高さだけでも九〇メートル。
尻尾を含めれば二〇〇メートルを越える超巨大な怪生物である。
つまり従来の大型生物の十倍相当の大きさなのだ。
すると、いきなりギルドの玄関から破壊音が響き渡る。
オボロが扉を蹴破ったのだ。
ギルドの一階は食堂になっているため、さっきまで飲食を楽しんでいたであろう人達がとばっちりを食らった。
「きゃー!」
「ご機嫌よう、ギルドの諸君。マスターはいるかぁ?」
受付嬢の悲鳴が響き渡り、オボロはゆっくりとギルドの中にはいる。
壊した扉など気にせず、傍若無人にギルド内を見渡した。
その鋭い目付きと巨体で冒険者達を威圧する。
「な、なんで! どうして、お前がここに!」
「いようマスター、依頼から戻ったぜ。あんたとは色々と話がしたいんだ。反応から察するに、最初からオレ達を始末するつもりだったようだな」
ギルドマスターは亡霊でも見たかのように、震え上がる。
彼は計画が失敗するなど考えていなかった。
あり得ない、信じられん。マスターの頭は驚愕で埋め尽くされる。
オボロが床を力強く踏み込んだ瞬間、一瞬にしてギルドマスターの目の前に移動していた。
その動き、見えた者はいない。
巨体に不似合いなスピードだ。踏まれた床は、抜け落ちていた。
「うわぁぁ! どうやって、あんな状況から逃げ延びたんだぁ!」
「逃げ延びた? 違うなぁ。戦って生き延びたんだ」
「なにをバカな! 上手く隠れて逃げて来たのだろう?」
「逃げる? とんでもねぇ、殺るとなったら、オレ達は徹底的だぜ。オレ達を見誤ったな。それと自己紹介といこうか」
オボロは目の前にいるツキノワグマの青年の襟を掴むと軽々と持ち上げた。
そしてタオルでも振り回すようにして投げ飛ばした。
壁を突き破りマスターは外に放り出され、なにか巨大なものに激突した。
激痛に耐えて、ぶつかったものを見上げる。
「な……なんだ、これは!?」
マスターは自分の目を疑った、激突したものは巨大な生き物の足だったのだ。
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