大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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国家動乱

戦乱の原因

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 高熱の影響で陽炎がおき、周囲の空気がゆらいでいる。
 炎上はおさまっているが、まだ地面は人が立てるような状況ではない。
 地面からは凄まじい熱気がたちこめ、ドロドロに溶けて発光している箇所もある。いまだに高熱の地獄だ。

「今、地表に降りたら火傷どころじゃ済まないな」

 隊長は、もの凄い熱を発する地面を眺めながら呟いた。
 俺の手の中にいるため地表から数十メートルは離れているが、そこからでもかなりの熱を感じるのだろう。
 直径二キロ区域の大地は完全に焦土になりはてている。
 俺達以外に生存している存在はないだろう。
 怪獣の吐息は、ちょっとした戦略兵器と言っても過言ではない威力だ。

「人どころか、飛竜の亡骸さえも……」

 息を呑んだ様子で、ニオン副長も灼熱化した地を見つめた。
 赤竜団どころか火に強い飛竜の亡骸さえも残ってない。
 俺の火炎が彼等の戦死したあかしさえも燃やしつくした。
 ……もう、なにも残っていないのだ。

「隊長、奴等はなぜここで争っていたんですか?」

 これほどの戦争に巻き込まれたのだ。さすがになぜ連中が武力衝突していたのか、知りたくもなった。
 別世界から来た俺には、ここの国々の状況などまったく分からんし、どんな揉め事が起きてるのかも知らん。
 そのため隊長に尋ねた。

「バイナルとギルゲスが、ここを巡ってドンパチやっていた、とは言ったな?」
「はい、たしかに」
「元々は両国共に、ここを不介入の自然保護地帯に指定していたんだ」

 以前までは両国共にこの地帯を、どの国家の管理下にもおかない、ありのままにしておくようにしていと言うわけか。
 しかし、なぜこんな土地を? 緑豊かな草木があるわけでもない、石や岩が転がっている場所を。

「だが、サンダウロの地下に大量のマガトクロムが埋蔵されていることが分かると、ギルゲス国は一方的に地帯の領有を訴え、あらゆる意見を無視して採掘しようとしたんだ」
「……マガトクロム?」
「強靭な武具を製作するさいに必要不可欠な金属。その素材を利用した武器は、頑丈で、かなり乱暴にあつかっても刃こぼれしない。まあ、その質は純度にもよるがな」

 つまり資源が原因でおきた戦争と言うわけか。
 強靭な武装を造るのに必要な鉱石、なら国家が放置しておくはずがないな。
 採掘できれば軍事と経済の両方に有益となるだろうからな。

「それで王国側が激怒したわけだ、土地を荒らすことを許さなかった。サンダウロは創造の女神が死した聖地と語り継がれているからだ」
「ここに砦を築いていたあたり、王国側が実質的には支配していたようですね」
「そうだな。それに現在のギルゲス国の統治者は毛玉人を、ひどく嫌っているようでな。資源だけが目的ではなかっただろう。バイナル王国は毛玉人が建国した毛玉人の国家。おそらくギルゲスの将軍の野郎はサンダウロを支配して戦力をつけたあと、王国に侵攻するつもりでいたと思うぜ」

 毛玉人の国。
 たしかに騎士隊は全員毛玉人だった。
 なぜギルゲスの統治者が毛玉人を嫌っているのかは知らんが、全ての原因はこいつのせいか。
 ナルミも毛玉人を偏見している国があると言っていたしな。
 隊長は話を続ける。

「元々は両国ともに良好な関係だったんだが、数年前にギルゲス内でクーデターが起きて前統治者である国王は失脚し殺された。そしてクーデターを引き起こした将軍が現統治者になったと言うわけだ。それからだ、両国の関係が最悪になったのは」

 何かとゴタゴタがあったんだな。

「それにしても、赤竜団の連中も相当に焦っていたのだろう。サンダウロ制圧の失敗のたびに家族の指が送り付けられてはな……」

 それについては俺も戦闘中に話を聞いたから理解できる。
 兵の連中もかなり無理を強いられてきたのだろうな。
 だが俺達には、どうすることもできなかった。
 可哀想な話ではあるが、俺達は全てを助けられるような英雄なんかではないんだ。
 すると隊長の表情が急に変貌する、まさに激昂してるようだ。
 そして荒々しい声をあげる。

「ただ、オレも将軍のやりようはとても許せねぇ!」

 隊長の手がワナワナと震えていた。

「家族を人質にして兵達にあらゆることを強制させるとは、まったく反吐ヘドがでそうな野郎だ」

 たしかに現統治者がやってることは人道に反している。
 いや、人道と言う言葉も知らぬクソッタレかもしれんな。
 それにしても、隊長は以外と情報通だな。

「隊長は、色々と詳しいのですね」
「まあな。情報が不足しては、この商売はやっていけねぇからな」

 隊長は自分の情報量を自慢するかのように、自分の頭を指でチョンチョンつついた。

「それ以外にも隊長殿は並の毛玉人を越える強靭な肉体があるのでね。一対一の勝負で勝てる者はいないだろうね」

 そして副長が我等の隊長を自慢するように、穏やかな口調で語る。
 あの一騎討ちを見れば理解できる。
 普通の奴等では約不足すぎるだろう。そのくらい圧倒的な勝負だった。
 しかし、そう言う副長もかなりのものだった。

「副長の剣技も凄まじいものでしたね」

 防具の隙間を正確に狙った斬撃は、とてつもない技巧だった。
 日本にいた頃に、何度か短刀ドスを相手にしたことはあるが、この人とはまともにやりたくないものだな。
 さらに斬った相手の血液を操って息の根をとめるなど……恐ろしいものだ。
 少しでも斬られれば血を操られ葬られる。
 斬られた時点で、もう助からないのだ。

「いや、この刀あってのことだよ。この刀が私に力を貸してくれている」

 副長は腰の刀の柄を大事そうに撫でった。
 剣術自体もかなりだが、刀に宿る血を操る力、それが数段にこの人を強くしている。
 
「自惚れるつもりはないが、オレ達はそれなりに腕のたつ集団でもある。だが一番とんでもなかったのは……」

 隊長が真剣な眼差しで、俺を見上げてきた。

「……お前だよ、ムラト」

 ……俺が?

「お前がいてくれたからこそ早めに片づいた。だが戦いの常識が、お前には通用していなかった。傷つけられぬ強靭な肉体、飛竜の制空権を奪った閃光、そして戦略魔術にも劣らぬブレス。お前はそれらを備えた存在なんだ」

 初めて聞く単語もあり、オボロ隊長の話を完全に理解することはできないが、とにかく俺が強力すぎると言うことは分かる。

「お前の力は一国家の軍事力をも凌駕りょうがしているだろう。世界の軍事バランスを崩すほどにな。仕事の依頼や領地の防衛には問題ないだろうが、国同士の争いに用いるには問題になるだろうな……」

 隊長の言うとおりだろう。
 そもそも日本を壊滅させた……いや、人類そのものが敗北した肉体だ。
 俺のような化け物が国の争いに現れるのは理不尽すぎると言うことなのだろう。
 なるべくなら戦争なんぞ、これっきりにしておきたい。
 副長が、また視線を地面に移す。
 徐々に大地から熱が抜けてきたようだ。

「私達はとんでもないことを、してしまったのかもしれませんね。隊長殿」
「そうかもな。騎士も兵も私欲では戦っていなかったからな。赤竜団の方は明らかに酷い仕打ちだ」
「とは言え、私達も彼等にいきなり襲われましたからね。仕方なかったとも思います」

 戦争なんぞ、互いに主張する正義同士のぶつかり合いだ。
 勝てば正義、負ければ悪。そう決めつけられる。
 人間がいる以上は争い事はなくならないだろう。綺麗事でどうにかできるほど、人も現実も綺麗で優しくはない。
 地表もだいぶ冷えてきたな、そろそろ隊長達を降ろすとするか。
 二人が乗っている手を地面につけた。
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