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国家動乱

巨大獣の猛攻

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「ムラト! 周囲のクズどもを片付けろ!」
「了解です」

 オボロ隊長が濁った声で俺に命令をくだす。
 物騒な物言いだが、そうなるのも頷ける。
 足下にいる奴等は、聞く耳も持たずに一方的に攻撃してきているのだから。
 足を持ち上げ一番近くにいた三人の魔導騎士達を踏み潰した。
 その衝撃が地を大いに振動させた。
 周囲の連中が転倒して悲鳴をあげる。

「どわぁっ!」
「ぐあっ!」

 この隙を見逃しは、しない。
 レーザー出力を対人レベルに調整し、パルス照射に変更する。
 それは、今までのレーザーカッターのような継続的な照射ではなく、細かい時間間隔で繰り返しレーザーを照射するもの。
 たとえるなら、機関砲である。
 転んで立ち上がりきってない魔導騎士達に向けて、容赦なくレーザーを掃射した。

「大雨警報だ! 喰らいやがれぇ!」 

 数人の騎士達が蜂の巣……いや、悲鳴もあげずに肉の破片に変わっていく。
 その口径と威力、そして発射速度ゆえに痛みもなく、一瞬にしてミンチになっているのだろう。
 ……その威力たるや挽肉製造器ミートチョッパーどころではない。
 大地が血と挽き肉で溢れて汚れていく。
 バラバラになった死体から漏れ出た内容物が異臭を放つらしく、直撃を免れた騎士達が鼻を塞ぎ強張っている様子を見せた。

「さがれぇ! 態勢を立て直すんだ。ちくしょう、あの竜一体何をしたんだ? わけもわからず仲間が粉々に、なりやがった」

 叫びながら毛玉人の騎士達が後退する。
 レーザー攻撃のため視認が難しく、何をされたかも判らないのだろう。

「さがれ! さがれ! 一旦距離をとれ!」

 騎士達は俺の近くにいるのは危険と感じたのか、後方に一旦下がっていく。
 一先ず、連中を遠ざけることはできた。

「次は、てめえらだぁ!」

 今度は赤竜団に目を向ける。
 その瞬間、団員達の顔色が蒼白に変わった。

「いかん! 全員さがれー! 竜が攻撃してくるぞ!」

 危険を察し団員連中も距離をとろうと声をはりあげる。
 だがもう遅い。
 ……まとめて潰してやる。

「隊長、副長、しっかり掴まっていてください」

 俺は二人にそう伝えると、両腕を広げて地を蹴った。
 その巨体で団員達の上に飛び込んだ。
 八万トンを超える、ボディプレスである。
 むろん巻き込まれれば一貫の終わり。

「うわぁぁぁ!」
「ぐぎゃあぁぁ!」

 逃げ切れなかった者達は俺の下敷きになり、巻き込まれなかった奴等は凄まじい衝撃と轟音で悲鳴をあげながら広範囲にホコリのように吹き飛んだ。
 倒れこんだ俺を中心にクレーターが形成された。

「……ようし、周囲の連中は片付いたな。ニオン、オレ達も行くぞ」

 俺がひきおこした破壊力と規模に隊長は一瞬唖然とした様子だが、すぐ立ち直り行動を開始した。

「こちらは二人と一体。さすがの私達でも厳しい戦いになるでしょうね」

 副長の言うとおり多勢に無勢だ。
 だからと言って、恐怖して震え上がる気はない。
 隊長と副長が俺の頭から降りようとしたとき、上空からヒグマの魔導騎士が絶叫をあげながら襲いかかってきた。

「うわぁぁぁ! この化け物ども、よくも仲間を! 友を!」

 泣き叫ぶ騎士は仲間をレーザーでミンチにされた恨みと悔しさから涙を溢しているのだろう。
 そいつは俺の頭に着地すると、オボロ隊長目掛け剣を振るう。
 しかし隊長は冷静に対処した。あっさり身をかわし、あげく足を引っ掛けてヒグマの男を転倒させた。
 騎士は俺の頭の上で転げる。

「浮遊魔術を利用した上空からの奇襲……そんな、ありふれた攻撃が通用するか」
「うるせぇ! 燃え尽きっ、ぐぶぅっ!」

 ヒグマの騎士は魔術の詠唱を始めようとしたのだろう、だがそうはさせんと隊長はヒグマの顔面を鷲掴みにして口を塞いだ。
 ヒグマ騎士も二メートルを超える巨漢だが、オボロ隊長の前では子供のように小柄で細身。
 隊長は、その男を片手で軽々しく持ち上げる。

「こんな近間で魔術の詠唱をする奴がいるかっ! 隙だらけだ若僧はなたれが!」

 隊長の言うとおり、ヒグマの騎士はまだ若者のようだ。
 俺も人のこと言える歳でないが。

「ここは戦場なんだ。お前のような青二才が来るんじゃ、なかったな」

 そう言い、オボロ隊長は若者の頭部を腐りかけの果実のように握り潰した。
 ……なんて握力だ。
 俺の頭皮にボトボトと生暖かい物が垂れる。頭を搾られた騎士の血液と崩れた脳髄と眼球だ。

「すまないムラト、頭を汚しちまったな。ナルミに怒られるかもしれない……」

 俺に謝りながら隊長は潰した騎士の亡骸を無造作に投げ捨てた。
 今の隊長に日頃の陽気さはない。完全に修羅になっている。

「オレとニオンは竜団の方を相手する。ムラト、ひとりにして悪いが、お前は騎士どもを頼む。残りは一八〇ぐらいだと思うが、一人一人が群を抜いて強い。数十万の兵に匹敵すると思え、侮るなよ」

 そう指令を告げる隊長。
 そして隊長達は俺の頭から飛び降りて、形成されたクレーターを上り赤竜団達の方へ。
 俺は起き上がり、騎士と砦の方を睨み付けた。

「うわぁぁぁ! 竜が来るぞ、陣形を整えろ!」 
黒魔導騎士ブラックナイトは前方に! 白魔導騎士パラディンは後方で前方の援護を!」
「国の威信にかけて、勝つぞー!」 

 魔導騎士達は少し狼狽えはしたものの、すぐに戦闘の態勢を整え落ち着きを取り戻したようだ。
 騎士団は士気が相当に高まっている様子。
 黒色の鎧を着た騎士は前方に、白色の鎧を着た騎士を後方にした陣形を作っていた。
 レーザー掃射で少しは減らしたが、まだ多くが残っている。
 だが、俺は最後とばかりに奴等に問いかけた。

「なぜだ!? 俺達は敵ではないのに! なぜいきなり攻撃してきやがった! 話せば戦闘は避けられたはずだぁ!」

 いきなり目の前に現れたのだから奇襲と間違われても仕方ない。
 たしかに敵視されても、おかしくはない。だが冷静に話し合えば戦闘にならなかったかもしれない。

「あの竜、人の言葉が分かるのか?」
「やかましい、いまさら! 仲間たちを粉々にした化け物が!」
「かまうな! 黒魔導騎士は詠唱を開始しろー! もっと強力な魔術を使うんだ!」

 答える気は無いのだな。なら、もういい……相手になってやる。
 殺し合いは初めてじゃない。
 そう俺は強く決意し、奴等の陣形を窺う。
 最初に行動を開始したのは黒い鎧を身に付けた奴等だった。
 やはり前衛である黒魔導騎士達は攻撃が役目のようだ。
 魔術の詠唱を行い、巨大な火炎弾、氷の槍、岩石の砲弾を大量に出現させている。
 そして、それを俺に向けて飛ばしてきた。

「うおぉぉぉー!!」

 飛んできた攻撃魔術を右手で薙ぎ払い弾き返した。
 凄まじい音とともに、炎は飛散し氷と岩はバラバラに砕けた。そして、砕けたそれらが騎士達に降り注いだ。

「まずい! 白魔導士! 防御を!」

 すぐさま後方の白魔導騎士達が詠唱を開始した。
 突如出現したドーム状の半透明の膜が騎士達を覆い、降り注ぐ魔術の塊を防いだ。
 ……白鎧の連中は、黒鎧のサポートと言ったところか。

「バカな! なんて奴だ!」
「腕の一振りで、あれだけの攻撃を?」
「くそっ! 剣を抜け! 奴の体に取り付いて直接攻撃するぞ!」
「白魔導士は、奴の動きを止めるんだ!」

 また魔術を使ったのだろう。最前列の黒魔導士達が、いきなり地面から浮き上がった。
 そして、後方の白魔導士達も何かを唱え始める。

飛竜ひりゅうをも容易く押さえつける光の縄よ、あの巨大なる竜を取り押さえよ!」

 白魔導士一人一人から光輝くヒモ状の物が伸びてきて、俺の四肢に巻き付いてきた。
 恐らく、相手の体に巻き付き自由を奪う魔術だろう。

「今だ! 突撃いぃぃ!」

 俺の体の自由を奪ったと思ったのだろう、空中で待機していた黒鎧どもが、高速で飛翔して突っ込んできた。 
 ……残念だが対空迎撃も万全だ。
 むしろ障害物が少ない空中こそ危険な場所。
 空中にいる者達を触角で正確に捉えパルスレーザーを掃射する。
 一瞬にして何人もの黒鎧が血霧と化した。
 
「くそ! またか!」

 血霧と化した仲間を見て、一部の黒魔導士が距離を離した。
 そして、俺は左腕を軽く引いた。

「ぐっ!」

 その瞬間、左腕にヒモを巻き付けていた白鎧達が声をもらしながら引きずられたのが分かった。
 本人達も完全に力負けしていることを理解したのだろう。連中の顔の色が変わり果てる。

「いかん! 全員光の縄を切るんだぁぁぁぁ!」

 一人の白魔導士が声を張り上げ、ただちにヒモを解くように訴えかける。
 しかし右腕を縛っていた奴等の反応が、わずかに鈍かったようだ。
 思いきり右腕を振り上げると、ヒモに引っ張られて数十人程の白魔導騎士が宙を舞う。
 だが、それだけでは終わらん。
 ヒモごと奴等を振り回し、そのまま地面に叩きつけた。
 大地にはトマトでも潰したかのように、赤い物が飛び散っていた。
 その光景に思考が停止したのか、騎士達の動きが完全に止まった。
 むろん、その隙は見逃さない。

「ボヤボヤするんじゃねぇ! 今度はコチラからいくぞぉぉぉ!」

 足下にあった岩を持ち上げる。

「さっきは火だ氷だ石ころだの大盤振る舞いにぶつけてくれて、ありがとよ。俺からも贈品プレゼントをやるぜ」

 くれてやるのは、数千トンの塊だけどな。
 騎士達は表情を凍りつかせ、慌てて叫びだした。

「全員散開! 急げぇぇぇ!」
「うわぁ! うわぁぁぁ!」

 絶叫しながら逃げ惑う奴等に向けて岩を叩きつけた。
 大地は揺れ、岩が衝突した衝撃が騎士達を吹き飛ばし、阿鼻叫喚を響かせた。
 何人ぐらい、潰すことができただろうか?
 叩きつけた岩は粉々に割れていた。
 その光景を見て、俺は改めて今の現状を把握する。
 ここは戦場だ。ここでは正気で敵を殺せる者が正常な空間。
 ってやるぜ、上等だ。
 すると、いきなり猫の騎士が俺の頭に取りつくなり、必死の形相で頭皮に剣を突き立ててきた。
 が、鈍い音がなるだけで傷などつきやしない。

「ひっひぃ! どうすれば、こいつを殺せるんだ! ……いやっ本当に、こんな奴殺せるのか?」

 猫の騎士は剣を突き立てながら、表情を恐怖に変えて嘆く。
 俺にダメージなど無いが、攻撃してきた以上は殺す。
 首を振って猫騎士を天高く振り飛ばし、パルスレーザー掃射で粉々にした。
 騎士達は恐怖が伝染したのか、近づけないでいる。
 すると、砦からローブを纏った三人組が高速で飛翔して、こちらに向かってくる姿が見えた。
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