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大怪獣現わる

くたばれ芋虫

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 ナルミの後をつけてきて正解だった。
 彼女の実力を疑うわけではないが、念のためバレないように静かに地下を掘り進んで彼女の後ろをついて来ていたのだ。
 俺は村の入り口付近に顔だけを出し、すかさずナルミを痛めつけた陸竜に向けてレーザーを照射する。
 左触角のレーザーで二体の胴体を真横に両断、右触角のレーザーで三体の頭部を貫く。
 一瞬にして竜達は倒れた。

「なっ、オレの竜がっ!」
「化け物だ!」

 いきなりのことに盗賊達は呆気にとられているようだ。

「グゴォォォ!!」

 俺は村に向けて咆哮した。
 建物がガタガタと揺れるほどの大音量。

「ぐぅ……」
「がぁ」

 盗賊達は俺の咆哮にたまらず、耳を塞いでその場でしゃがみこんだ。

「ギィ……ガッガッ……ギィ」
「グッグッ……ガッガ」

 そして呻き声が聞こえてきた。
 それは胴体が真っ二つになった二体の陸竜の苦痛の鳴き声。
 切断部から内臓を露出し、上半身だけで地を這いずりまわっている。あまりにも痛々しい姿。
 ……まってろ、今息の根を止めてやるからな。
 さすがに哀れすぎたので、レーザーで頭を撃ち抜いて楽にしてやった。

「ありえねぇ! なんなんだ、あの竜は……」

 陸竜に止めをさしたあと、驚愕する盗賊達に目を向けた。
 ここまでの行き過ぎた蛮行、誰一人生かしておく気はない。
 しかし、ただでは殺さん。
 身勝手に人々の命と生活を奪った代償は、命と苦しみで払ってもらう。

「陸竜は死んだよ。次は、てめえらだ」
「こ、こいつ人の言葉を話せるのか!」
「クソ野郎どもが! よくも、ここの人達を……。てめえらだけは楽には死なさんぞぉ!」

 盗賊ども目掛け、両方の触角からレーザーを乱射した。
 急所には当てない。
 レーザーを照射しつつ精密に屈曲させて、照射角度をコントロールする。
 レーザーカッターのようにして、盗賊どもの両腕を肩口から、両脚を股の付け根近くから切断した。

「うがぁぁぁ!」
「ぎえぇぇ!」
「ぐおぉぉぉ!」

 四肢を切り落とされ、次々と達磨のようになっていく盗賊達。
 そいつらの絶叫が村に響きわたる。
 すぐには死なせん。時間を掛けながら、ゆっくり死んでもらう。
 盗賊どもは血を撒き散らしながら、ジタバタ地面をうごめき転げ回る。
 それはまるで芋虫のようにも見えた。

「芋虫のように足掻き、血を出し尽くして死にやがれぇ!」
「お前は、なんなんだ? 竜なのか?」
「てめえらにとっては、地獄のつかいだ! 死ねぇ!」
「ぐがあぁぁぁ!!」

 そして最後に、仲間と同じように頭目の男の四肢も落とした。
 奴も仲間同様に悲鳴を響かせながら、鮮血で地を汚す体になりはてる。

「ぐがぁぁぁ殺してくれぇぇ! ……こんな死にかたは嫌だぁぁぁ!」
「先に腕と脚を地獄に送ってやる、ゆっくりあとを追いなぁ!」

 止めの懇願など、聞き入れる気はない。
 すると芋虫のごとき姿になった盗賊達のもとに、鍬や鎌などの農具を片手にした村人達が集まってきた。
 その目は憎悪で血走っている。

「あなた方にも復讐する権利はある。今の盗賊どもは無抵抗だ、好きにしてくれ。目ん玉ぶっ潰して視覚を奪うも、舌をぶっこ抜いて口をきけなくするのも自由だ。生き地獄を見せてやれぇ!」

 家族、友人、愛人を殺された者もいるだろう。
 村の人達には、報復できる資格が十分にある。
 自分達も同じように、抵抗もできずに殺されそうになったのだからな。

「やめてくれぇぇぇ!」
「た、助けて……」
「この村には……もう手を出さねぇ……だから殺さないでくれぇ!」

 盗賊達は泣き叫び、あまりにも身勝手な命乞いをする、それがかんに触れやがる。
 覚悟も無く命も掛けずに、こんなことを繰り返していたのか?

「ふざけた連中だな。殺しに手を出した時点で二度と後戻りも、命乞いもできねぇんだよ。そんなことも理解しねぇで盗賊なんかやってたのか?」

 しかし、これは盗賊だけに言っているわけではない。
 この言葉を聞いて村人は、どうでるか……。
 村人達は、何もせず芋虫同然の盗賊を眺める。
 ここで殺しに手をだせば、普通の人には戻れなくなると悟ったのだろうか?

「ぐうぅ……!」
「あ゛あぁ!」

 今なお盗賊達は四肢を切り落とされた激痛で呻きをあげるが、騒げばそれだけ命を縮める。
 脈打つたび、それに倣い動脈から血が噴き出ている。
 地面に盗賊達のブレンドされた血の池が広がっていく。

「……ぐぬぅぅ! ば、化け物がっ……正義の勇者……気取りか!?」

 頭目が苦痛に耐え、必死に声を荒らげた。

「貴様もオレも……極悪な……人殺しだろうが……!」

 そんなことは分かりきっている。
 だが、その発言に虫酸が走しった。

「……寝言か?」

 頭目を一睨みし、奴の股間目掛け最低出力のレーザーを放つ。
 最低出力とは言え、肉を焼き焦がす威力はある。

「ぐがぁぁ! ……ぎぃがぁぁ!」

 生殖器をじっくり焼かれる頭目の男は甲高い絶叫を響かせた。
 股間から煙があがり、異臭が立ち込める。
 下腹部周囲が炭化するまで照射を継続した。

「どうだ、てめえの金玉たまの焼ける臭いは? 俺や、てめえらが人殺しだってぇのは分かりきってる。そんなもんが正義だ悪だ語るんじゃねぇよ! 反吐がでる」
「がぁぁ! ……ごぶぅぅ……ぐぶぅぅ」

 俺の話が耳に入っているかは、分からない。
 頭目は魚のように口をパクパクさせ泡を吹いて、動物のような呻き声をあげる。

「俺達にあるのは、殺すか、殺されるかの二つだけだ。そこに正義だ悪だの余計なことを持ち込むな……あんまり口がすぎるんなら、全員死ぬ前に去勢でもするか?」

 しかし、話が終える頃には盗賊たちの様子が変わっていた。
 呼吸が荒くなり、蒼白し、寒気を訴える。
 もう長くはないな。盗賊どもの命が消えようとしていた。



 しばらくして触角で体温と心音を確かめ、盗賊全員の失血死を確認した。
 結局村人達は、盗賊達を囲み悶え苦しむさまを見ているだけだった。
 復讐を諦め、普通の人として生きることを選んだのだろうか。
 ……それも一興。どちらを選んでも良し悪しだ。
 白くなった盗賊達の死体を一ヶ所に集め、バーナー状の火炎を吐いて骨も残さず焼きつくす。
 村も落ち着き、負傷者は手当を受けている。ナルミもだ。

「ごめん……ムラト。また助けられたね。いいところ見せたかったのに……」
「気にするな俺達は仲間だろ。手当を受けて休んでろ、俺は村の人達を手伝う」

 周囲ではまだ泣き続ける人々がいる。
 動かぬ母にすがる子供。
 妻の首を抱えている夫。
 盗賊どもを倒しても、喜べたものではない。
 村人達は遺体を集め弔う。
 俺は足下に気を付けながら壊れたものを撤去した。村の外から手の届く範囲の作業だけだったが。 



 夕方になり、俺達は村で一息ついていた。
 とはいえ俺は村の傍らで腹這いになって休むだけだ、とても村には入れない。
 深夜には出発しようと思っている。
 ナルミは頭の上で大の字に寝そべっている。

「ナルミ、陸竜から受けた傷は大丈夫か?」

 手当てを受けたとは言え、まだ無理はできないだろう。
 あれだけ陸竜から攻撃をもらったのだから。

「あたしは大丈夫だよ。……でも、あの陸竜達はちょっと可愛そうだったなぁ。付き従う主人を間違わなければ、あんなことにはならなかったんだろうけど……」

 やや悲しげに言うナルミ。
 この子の言う通り、あいつらも盗賊なんかに協力しなければな。
 だからこそ陸竜達だけは丁重に弔っておいた。

「ナルミ、深夜には村を出よう。それまで体をしっかり休めておけ」
「うん、わかったよ」

 ナルミはゆっくりと目を閉じ、眠りについた。よほど疲れていたんだな。



 深夜になり俺達は出発の準備をする。
 村の入口に村人が集まっている、見送ってくれるのだろうか?
 しかし、ヨーグンを出発したときとは正反対だ。
 みんな目が虚ろだ。
 
「みんな大丈夫かな?」
「あとは彼等次第だ。余計なことは言わないほうが良い……」

 ナルミは村人を心配しているのだろうが、今は干渉しないほうが良いだろう。
 村人たちは無言で俺達を見送った。



 このペースなら明け方頃には、ゲン・ドラゴンに到着するだろう。
 月の光が綺麗だ、東京が壊滅したときも月が綺麗な日だった。
 日本で殺戮の限りを尽くした怪獣と一体となり、異世界に来ても破壊や殺人的な方法でしか問題解決できない。
 俺も怪獣も闘争と殺戮しか能がないのかもしれん。
 しかし、そんなやり方でも助かる人がいるのなら、やぶさかではない。
 こんなことをやっている以上、地獄におちる覚悟はできている。
 逆に助けられるだけの力を持っておきながら、力を振るわず誰かを見殺しにしたのなら、それも許されないだろう。
 別の世界の生命だからと言って、見捨てて良い理由にはならない。
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