大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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大怪獣現わる

忍者が来た

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 俺は森の中に戻ってきていた。
 村の方に振り返ってみたが、今だに喧騒がきこえる。村からだいぶ距離をとったが、俺がデカすぎるがゆえにここまで離れても視認できるのだろう。
 立っていると目立つので、村の方に背を向けてしゃがんで姿勢を低くする。
 ……低くしても、デカいことには変わらないだろうが。
 そして、また一人で考え始めた。
 なぜ俺は怪獣と一体化したのか。ここはどこなのか。
 獣の人々や魔導師などと、あまりにも非現実すぎるものを見て頭がおかしくなりそうだ。
 今いる場所は明らかに現実とは違う別の世界だ。
 創作物のファンタジーを思わせるような。
 魔術なんてものが存在する時点で、俺がいた世界とは法則も違う。
 つまり別の世界?
 俺のいた宇宙とは違う、別の宇宙に来たと言うことか?
 こんな姿になり、未知の世界に来て俺はどうすればいいのか。
 もとの世界に帰れるのか。 
 だが帰ったところで、この姿ではな……。
 思索していると、突如背中に違和感が。
 ……なんか、よじ登ってきているな。
 そのなんかが頭の天辺にたどりついた。

「うわぁぁぁ! 遠くまで見渡せる。それじゃあ、さっそく勧誘」

 そして、そのなんかが頭の上で大はしゃぎを始めた。
 声からして女の子のようだが。
 その女の子はトコトコと鼻先近くまで来て俺に目を会わせてきた。
 日本人か? 
 黒髪のポニーテールで、白い忍者衣装らしき物を着た小柄な女の子だ。
 小学生……いや、かろうじて中学生くらいだろうか?

「お前、日本人なのか?」
「うわぁ! 竜がしゃべった。もしかして希竜? あっ、でもこんなに大きな竜は見たことないし……新たな種だよねぇ?」

 発言から察するに、この子もこの世界の住人だな。まちがいなく日本人ではない。
 やはり、ここは俺の知ってる星じゃないな。

「ニホンジン? 違うよ、あたしは大仙たいせん出身のしのび。そして雇われ屋石カブトの一員、スギナ・ナルミだよ。以後よろしくね」
「以後よろしくって、俺になんのようだ?」
「あたし達の仲間になってほしいんだ。うちには乗用の竜がいなくて、移動も荷物の運搬も大変なんだよ。きっと、この巨体からだを活かせるよ」

 仲間になってくれと言われても、今それどころじゃない。
 ここがどこで、なんで怪獣と一体になってるのか把握しなけりゃならんのに。

「俺は今それどころじゃない、別の竜をあたってくれ」
「そんな速答しないでよぉ! もっと詳しく話きいてよぉ!」

 女の子……ナルミは俺の頭の上で駄々をこねるようにポコポコと俺の頭の表面を叩く。
 ……やかましいなぁ。
 だが、この世界に関する知識も情報も皆無。
 この子について行けば何か分かるかもしれないだろうか。
 若干やけくそでもあるが。

「分かったから! 頭の上で騒がないでくれ。考えておくから明日また来てくれないか?」
「本当!」

 ナルミは目を輝かせながら、また鼻先まで来て俺の目を見つめてきた。
 随分純粋な子だな。まあ、まだ子供だしそんなもんか。

「あなたには、名前とかあるの?」

 名前か……こんな姿だし、人間のような名前は言わないほうがいいのか?

「俺は、ムラトだ」
「ムラトか! 覚えたよ」
「聞きたいことが山程あるんだが、いいか? そのぉなんだ、何も知らないような田舎者だからな」
「うんっ! なんでも聞いて」

 ナルミは、上機嫌で質問に答えてくれた。
 ひとまず情報収集だ。



 彼女から色々と聞き出し、それなりには現状が理解できた。
 今いる場所はサハク王国のペトロワ領と言う領地内のヨーグンと言う村の近くにある森の中らしい。
 さっき俺が行った村がヨーグンだそうだ。
 そして、この世界に来て初めて会った獣の子供達は毛玉人けだまびとという動物の特徴を備えた種族で、子供達がいた建物は孤児院らしい。
 さらに、魔導師といわれていた毛玉人の少女が使用した魔術についても教えてくれた。
 この世界には魔粒子まりゅうしといわれる物質が空気中や大地など至る所に存在しており、空間中の魔粒子を圧縮することで魔術が発動できると言うのだ。
 しかし魔粒子を圧縮するには魔力が必要で、魔力が尽きると疲労して動けなくなる。魔力とは精神的なエネルギーらしい。
 だから、あの少女は倒れてしまったのか。
 くどいようだが、間違いなくここは俺の知っている世界ではない。異世界だ。
 それも魔術が存在するような世界。

「じゃあね! また明日来るからねー! 村の人達にはムラトが危ない竜じゃないって伝えておくから」

 一通り質問を終えると、ナルミはヨーグンの方に向かって駆け出していった。これで村の人達の誤解がとけてくれるといいが。
 彼女は今、仕事の関係でヨーグンに滞在しているらしい、明日を楽しみにしているようだ。
 情報もだいぶ得られた。
 この先どうなるか分からないし、この体に馴染む必要があるな。
 大量殺戮兵器の肉体にか……。
 数多の人間を殺した体だ。
 怪獣の体に馴れるなど、そんな軽々しく考えてはいけないのかもしれんが、今ばかりは仕方ない。



 日も落ち、だいぶ暗くなる。
 ナルミが去ってから体に馴れるため訓練をしていた。
 体の機能については、だいたい理解できた。
 と言うよりも、一体化したのが原因なのか本能的に怪獣の体の使い方が理解できた。
 触角はレーザー照射だけでなく、微弱な音、熱、空気の状態などを感じることができる器官のようだ。
 つまり超感覚とレーザー砲の機能を備えた器官ということになる。 
 頭部に備わる二つの触角は角みたいな形状をしており、根元の部分が可動する。
 しかし特に使用しないときは先端が後方を向くようにしておくようだ。地中を移動する際とかに、邪魔になるからだろう。
 そして、この怪獣の肉体は熱や電気をエネルギーにしているようだ。
 だから魔導師のレッサーパンダ少女が放った雷を吸収できたのか。
 熱か電気があれば生体活動のエネルギー源が枯渇しないと言うことだ。

「よしっ! 一度撃ってみるか!」

 触角を前方に向け両手を地面につき姿勢を低くした。レーザー照射を試してみる。目標は目の前の大木だ。
 まだこの能力がどれ程のものか分からない。出力を抑える。

「おらっ!!」

 二本の触角から撃たれたレーザーは、空気中の塵や埃を焼いて発光させた。そのため軌道が僅かに視認できた。
 触角の先端付近にレーザーを屈曲させる機能があるらしく射角を自在に変更でき、さらにその屈曲機能を利用することでレーザーを照射しつつ角度を変えることができるため薙ぎ払うような攻撃もできる。
 その機能を使って、大木をレーザーで横に薙ぎ払った。
 見事に切り倒せたが、目標である大木の後ろの木々も次々倒れた。
 ……出力が強かったか?
 薙いだ木々の切断面からプスプスと煙が上がっていた。
 恐ろしい森林伐採になったなぁ……。
 やはりレーザーを使用したとき少し抵抗を感じた。

 「この殺人光線で、どれだけの人々が死んだのか……」

 そして、俺はもう人間じゃない。
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