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第2章 独身男の会社員(32歳)が過労で倒れるに至る長い経緯
第1話「戻ってきた日常と恭子の進化」
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恭子の誕生日という大騒動から1月半が経過して、あれからどうなったかというと……恭子はゴリ甘になった。
といっても、俺に甘えるわけではなく、俺に対してとにかく甘い。
「おじさん最近お肉が食べたいって言ってたので今日は焼肉にしてみました。ここのところ残業も多い事ですし、精力をつけていただければと」
なんと従順な子だろう?
俺を気遣い、俺の為に肉を焼いてくれる。
それなのにまだ一枚もありつけてないのは何故なのか!!
俺は鉄板に向かってそーっと箸をのばす。
「アタァッ!!……渡辺さん、それは私が大切に育てたお肉ですよ?」
担任の姫ちゃん先生に俺の箸が弾かれた。
嘘つけ。それは恭子が焼いてた肉じゃないか……
ならば、自分で育てた肉ならば文句もあるまい。俺は次にその隣の肉に箸を持っていく。
「ホアチャーッ!!オジサマ、それいただきッ!!」
今度は横取りされた。
「おい、とっつぁん。それ俺がひっくり返した肉だよな?」
「この弱肉強食の時代にそんな理屈は通用しないよ?オジサマ」
嗚呼、それが最後の飛騨のお牛さまだったのに。
俺は目を潤ませて唯一の味方である恭子を見つめる。
「おじさん、私のお肉食べてください。ちょうど取ったところでしたので」
恭子はそう言って、自分の皿から俺の皿へ肉を全て移してくれる。
「いい子だ。ほんっと恭子はいい子だなぁ」
潤んだ瞳から涙がちょちょぎ出そうだった。
「神海さん、甘やかしてはいけませんよ。男性というのは甘やかすと際限なくつけあがるのですからね」
姫ちゃんの厳しい言葉に「そうだー、そうだー」と、とっちゃんも調子を合わせる。
「それにお肉で精力をつけるといいましたが、そんなものつけてどうなさるおつもり?ナニするつもりですの?」
仕事にきまっているじゃねえか、こん畜生。
俺の重宝している柚子コマをビンごとラッパ飲みしてヒャッヒャッヒャと笑い転げる教職者。
「いいぞー!言ったれ姫ちゃん、オジサマなんてかっ飛ばせー!!」
とっちゃんも箸を両手に持ってカチカチと応援しだす始末。
俺はアルコールの入った酔っ払いとアルコールが入っていない酔っ払いもどきの2人を相手に反撃する体力は残っておらず、がっくりと肩を落とす。
すると、その時だった。
「ええと、とっちゃんと先生。2人でじゃんけんをして頂けますか?そして負けた方は帰ってくださいね」
優しく微笑んで言うまさかの恭子の言葉に、食卓は瞬時に凍り付いた。
(ど、どうしたのかしら?こんな神海さん初めてみたわ)
(わ、私もこんなキョウ知らないよー)
(……俺は知っている。この笑みはアレだ)
俺たちは凍てついた世界でアイコンタクトを交わし目で会話する。
恭子はアレだ。これは師匠のキャバクラ通いがバレた時の奥さんの笑みだ。
(先生、それにとっちゃん。恭子は確実に怒っていらっしゃる)
(ちょ、ちょっと調子に乗りすぎたかしら……ね)
とっちゃんもコクコクと頷いている。
「あ、あらー、もうこんな時間。そろそろお暇させていただきましょうか?ね、ねぇ相葉さん」
「そ、そだよねー。そろそろ帰らなくちゃだよねーっ先生」
「そうしていただけるととても助かります。おじさんもかなりお疲れのようですし、これ以上騒いで明日のお仕事に差し支えたら大変ですので。」
そうして2人は恭子に見送られながらいそいそと家に帰っていった。
「きょ、恭子。なんか済まなかったな……」
とりあえずわけが解らず謝ってみたものの、俺の声が聞こえているのかいないのか、恭子は顔を上げ小さなガッツポーズのように両手で握り拳を作って胸の前に当てて深呼吸していた。
「わ、私ちゃんと言えました」
何をなのかは知らないが、ちゃんと言えたみたいだ。
「おじさんは本当に優しすぎるから。毎日の残業でとっても疲れているのに無理をしてとっちゃんと先生のお相手をしていたから、代わりに私が言わなくちゃ、言わなくちゃって……」
なるほど。そういうことなのか。
どうも恭子は俺にとってのゴリ甘の守護者に進化したらしい。
といっても、俺に甘えるわけではなく、俺に対してとにかく甘い。
「おじさん最近お肉が食べたいって言ってたので今日は焼肉にしてみました。ここのところ残業も多い事ですし、精力をつけていただければと」
なんと従順な子だろう?
俺を気遣い、俺の為に肉を焼いてくれる。
それなのにまだ一枚もありつけてないのは何故なのか!!
俺は鉄板に向かってそーっと箸をのばす。
「アタァッ!!……渡辺さん、それは私が大切に育てたお肉ですよ?」
担任の姫ちゃん先生に俺の箸が弾かれた。
嘘つけ。それは恭子が焼いてた肉じゃないか……
ならば、自分で育てた肉ならば文句もあるまい。俺は次にその隣の肉に箸を持っていく。
「ホアチャーッ!!オジサマ、それいただきッ!!」
今度は横取りされた。
「おい、とっつぁん。それ俺がひっくり返した肉だよな?」
「この弱肉強食の時代にそんな理屈は通用しないよ?オジサマ」
嗚呼、それが最後の飛騨のお牛さまだったのに。
俺は目を潤ませて唯一の味方である恭子を見つめる。
「おじさん、私のお肉食べてください。ちょうど取ったところでしたので」
恭子はそう言って、自分の皿から俺の皿へ肉を全て移してくれる。
「いい子だ。ほんっと恭子はいい子だなぁ」
潤んだ瞳から涙がちょちょぎ出そうだった。
「神海さん、甘やかしてはいけませんよ。男性というのは甘やかすと際限なくつけあがるのですからね」
姫ちゃんの厳しい言葉に「そうだー、そうだー」と、とっちゃんも調子を合わせる。
「それにお肉で精力をつけるといいましたが、そんなものつけてどうなさるおつもり?ナニするつもりですの?」
仕事にきまっているじゃねえか、こん畜生。
俺の重宝している柚子コマをビンごとラッパ飲みしてヒャッヒャッヒャと笑い転げる教職者。
「いいぞー!言ったれ姫ちゃん、オジサマなんてかっ飛ばせー!!」
とっちゃんも箸を両手に持ってカチカチと応援しだす始末。
俺はアルコールの入った酔っ払いとアルコールが入っていない酔っ払いもどきの2人を相手に反撃する体力は残っておらず、がっくりと肩を落とす。
すると、その時だった。
「ええと、とっちゃんと先生。2人でじゃんけんをして頂けますか?そして負けた方は帰ってくださいね」
優しく微笑んで言うまさかの恭子の言葉に、食卓は瞬時に凍り付いた。
(ど、どうしたのかしら?こんな神海さん初めてみたわ)
(わ、私もこんなキョウ知らないよー)
(……俺は知っている。この笑みはアレだ)
俺たちは凍てついた世界でアイコンタクトを交わし目で会話する。
恭子はアレだ。これは師匠のキャバクラ通いがバレた時の奥さんの笑みだ。
(先生、それにとっちゃん。恭子は確実に怒っていらっしゃる)
(ちょ、ちょっと調子に乗りすぎたかしら……ね)
とっちゃんもコクコクと頷いている。
「あ、あらー、もうこんな時間。そろそろお暇させていただきましょうか?ね、ねぇ相葉さん」
「そ、そだよねー。そろそろ帰らなくちゃだよねーっ先生」
「そうしていただけるととても助かります。おじさんもかなりお疲れのようですし、これ以上騒いで明日のお仕事に差し支えたら大変ですので。」
そうして2人は恭子に見送られながらいそいそと家に帰っていった。
「きょ、恭子。なんか済まなかったな……」
とりあえずわけが解らず謝ってみたものの、俺の声が聞こえているのかいないのか、恭子は顔を上げ小さなガッツポーズのように両手で握り拳を作って胸の前に当てて深呼吸していた。
「わ、私ちゃんと言えました」
何をなのかは知らないが、ちゃんと言えたみたいだ。
「おじさんは本当に優しすぎるから。毎日の残業でとっても疲れているのに無理をしてとっちゃんと先生のお相手をしていたから、代わりに私が言わなくちゃ、言わなくちゃって……」
なるほど。そういうことなのか。
どうも恭子は俺にとってのゴリ甘の守護者に進化したらしい。
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