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プロローグ
プロローグ 終点、招き手、入り口の少年
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生きる意味がわからない。
純粋に。
人は死んだらそれまでで、後にはなにも残らない。
骨も残らない。
塵になる。
塵になって消えていく。
それなのに人生は苦痛の連続だ。
痛みとともに生まれ、苦しみ抜いた先に待っているのが何も残らない死なのだとしたら、人生の価値とは一体なんなのだろうか。
暗闇を背景に、自分の冴えない顔が車窓に映っている。
何故こんな考えが浮かぶのかはわかっている。
自分がなにもない、つまらない人間だからだ。
普通の人間は痛みを受ければ強くなるし、苦しみ抜いた先では眩しい笑顔を見せる。
生きる意味だとか、死がどうとか、そんなことを考える暇なく毎日を懸命に楽しく生きている。
退屈な人生を送ってきた空っぽな人間だから、こんなことしか考えられないんだろう。
そんなどうでもいいことをどうでもいいように考えていると、急に強い光に視界を奪われた。
目が慣れたころには、窓いっぱいに敷き詰められていた闇は消え、代わりに緑と白の世界が映し出されていた。
ようやくバスが人工的なトンネルを抜け、自然溢れる山道に戻ってきたようだ。
木々の隙間から漏れる光が、今はまだ爽やかな朝だということを思い出させる。
『次は、太郎丸村。太郎丸村。終点です。運賃は、車内掲示の運賃表をご覧の上――』
機械的な印象を受ける女性声のアナウンスが流れてきた。どうやらそろそろ着くようだ。
俺はリュックの中の財布を探す。
少しの着替えと、バスに乗る前に買ったペットボトル飲料。余計なものが入ってないので、財布はすぐに見つかった。
バスが止まり、運転手が太郎丸村到着を告げる。
周りを見渡すまで気付かなかったが、やはりというべきか、ここで降りるのは俺だけのようだった。
俺は整理券と運賃表通りの金額を機会に入れる。すると、運転手が振り返って俺を見た。
「お兄ちゃん、ここの村の子かい?」
サングラス越しに笑顔を見せる運転手に、俺は淡々と答える。
「いえ、この村に来るのは初めてです。」
俺は太郎丸村の人間ではない。
そもそも、俺はどこにも存在しないに等しい。
「やっぱりかい。見ない顔だと思ったんだよ。」
運転手は楽しそうに笑う。
「お兄ちゃん、まだ学生だろ? なにしにこんなへんぴな村に来たのかは知らないが、ここは見ての通りのド田舎だからねぇ。バスも三日おきに二本しか通ってないが、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「そうかい。ま、気を付けなよ。」
「ありがとうございます。」
運転手を背に俺はバスから降りる。
バスはゆっくりとUターンして来た道を戻っていった。
「ここが太郎丸村か……」
霧がかかっていてよく見えないが、見渡す限りにはのどかな田んぼが広がっている。
それ以外には、バス停の標識と屋根のついた待合所。そして、遠くにうっすらと小さく見える建物のようなものたち。
おそらくこの田んぼは、そこから俺が今いるこの山の麓までずっと続いているのだろう。
「さて、と。とりあえずあそこまで行ってみるか。」
独り言ち、リュックを背負いなおす。と、
「……?」
少し離れたところに小さな人影があった。
あれ? さっきまで誰もいなかったような……。
小さな人影はこっちをじぃっと見つめているように見える。
村の子かな? ここからだとよく見えないな……。
俺は人影に近づこうと歩き出す。
「ガァーッガァーッ!」
「っ⁉」
反射的に振り向く。
山からバッサバッサと黒い影が飛び立っていった。
「カラス…か……?」
俺は再び前に向き直る。
「あれ?」
小さな人影が消えていた。
確かに、いたよな?
あたりを見回してもそれらしい影はない。
「まぁ、いいか。俺には関係ないし。」
俺は再び、道に沿って歩を進める。
あの人影も、俺にとっては大して重要じゃない。
重要なのは、俺にとってここが綺麗なところかどうか、だ。
ここで死にたいと思えるような、そんな綺麗なところかどうか。
純粋に。
人は死んだらそれまでで、後にはなにも残らない。
骨も残らない。
塵になる。
塵になって消えていく。
それなのに人生は苦痛の連続だ。
痛みとともに生まれ、苦しみ抜いた先に待っているのが何も残らない死なのだとしたら、人生の価値とは一体なんなのだろうか。
暗闇を背景に、自分の冴えない顔が車窓に映っている。
何故こんな考えが浮かぶのかはわかっている。
自分がなにもない、つまらない人間だからだ。
普通の人間は痛みを受ければ強くなるし、苦しみ抜いた先では眩しい笑顔を見せる。
生きる意味だとか、死がどうとか、そんなことを考える暇なく毎日を懸命に楽しく生きている。
退屈な人生を送ってきた空っぽな人間だから、こんなことしか考えられないんだろう。
そんなどうでもいいことをどうでもいいように考えていると、急に強い光に視界を奪われた。
目が慣れたころには、窓いっぱいに敷き詰められていた闇は消え、代わりに緑と白の世界が映し出されていた。
ようやくバスが人工的なトンネルを抜け、自然溢れる山道に戻ってきたようだ。
木々の隙間から漏れる光が、今はまだ爽やかな朝だということを思い出させる。
『次は、太郎丸村。太郎丸村。終点です。運賃は、車内掲示の運賃表をご覧の上――』
機械的な印象を受ける女性声のアナウンスが流れてきた。どうやらそろそろ着くようだ。
俺はリュックの中の財布を探す。
少しの着替えと、バスに乗る前に買ったペットボトル飲料。余計なものが入ってないので、財布はすぐに見つかった。
バスが止まり、運転手が太郎丸村到着を告げる。
周りを見渡すまで気付かなかったが、やはりというべきか、ここで降りるのは俺だけのようだった。
俺は整理券と運賃表通りの金額を機会に入れる。すると、運転手が振り返って俺を見た。
「お兄ちゃん、ここの村の子かい?」
サングラス越しに笑顔を見せる運転手に、俺は淡々と答える。
「いえ、この村に来るのは初めてです。」
俺は太郎丸村の人間ではない。
そもそも、俺はどこにも存在しないに等しい。
「やっぱりかい。見ない顔だと思ったんだよ。」
運転手は楽しそうに笑う。
「お兄ちゃん、まだ学生だろ? なにしにこんなへんぴな村に来たのかは知らないが、ここは見ての通りのド田舎だからねぇ。バスも三日おきに二本しか通ってないが、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「そうかい。ま、気を付けなよ。」
「ありがとうございます。」
運転手を背に俺はバスから降りる。
バスはゆっくりとUターンして来た道を戻っていった。
「ここが太郎丸村か……」
霧がかかっていてよく見えないが、見渡す限りにはのどかな田んぼが広がっている。
それ以外には、バス停の標識と屋根のついた待合所。そして、遠くにうっすらと小さく見える建物のようなものたち。
おそらくこの田んぼは、そこから俺が今いるこの山の麓までずっと続いているのだろう。
「さて、と。とりあえずあそこまで行ってみるか。」
独り言ち、リュックを背負いなおす。と、
「……?」
少し離れたところに小さな人影があった。
あれ? さっきまで誰もいなかったような……。
小さな人影はこっちをじぃっと見つめているように見える。
村の子かな? ここからだとよく見えないな……。
俺は人影に近づこうと歩き出す。
「ガァーッガァーッ!」
「っ⁉」
反射的に振り向く。
山からバッサバッサと黒い影が飛び立っていった。
「カラス…か……?」
俺は再び前に向き直る。
「あれ?」
小さな人影が消えていた。
確かに、いたよな?
あたりを見回してもそれらしい影はない。
「まぁ、いいか。俺には関係ないし。」
俺は再び、道に沿って歩を進める。
あの人影も、俺にとっては大して重要じゃない。
重要なのは、俺にとってここが綺麗なところかどうか、だ。
ここで死にたいと思えるような、そんな綺麗なところかどうか。
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