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第176話「彩芽祐樹⑤」
しおりを挟む六月十三日(月)十八時四十八分 真希老獪人間心理専門学校・食堂
「当時、彼がよく起こすようになった問題行動とは単純#__シンプル__#なものだった。「今まで出来ていた事」が「出来なくなったフリをする」。彼は幼稚園児の頃から、周りの園児たちよりも比較的高い能力を発揮していたそうだ。それゆえだろうね。その問題行動は非常にわかりやすく目立つ異常点となった。彼のみが出来ていた事#__・・・・・・・・・・__#だけに留まらず、周囲の子ども達が出来る事#__・・・・・・・・・・・・__#すら出来なくなったんだ。目立って当然さ。」
先生は片手を広げて片目を瞑る。
「さながら妹や弟ができた兄のように、当然のように卒なくこなしてきた物事が途端に進められなくなった。彼を取り巻く周りの大人たちは混乱した。そして、彼に対して、たかだか五つ六つになったばかりの児童に対して、厳しく接するようになったそうだ。今までほったらかしだった親も含めて、ね。」
先生の声のトーンは下がらない。今まで通りの波風立たぬ穏やかな調子だ。でも、それでも、この話の結末、結論を、先生はどう持っていこうとしているのか、何となくだけれど、それはしっかりと伝わってきた。
「“Pepper”は、どうして問題行動を起こすようになったのでしょうか?」
先の話を促すため、展開を、速度を速めるための質問。
この話の結末が、もしも俺が感じたとおりだとするのならば、それはやはり、さっき感じた予感とも重なり合うことになる。そのことで今は頭がいっぱいだ。
「彼が問題行動を起こすようになった要因は二つある。」先生は二本の指を見せつけてくる。「一つは、彼が比較的高い知性を有していた事。「比較的」っていうのも、まだ足りないかな。生物殺しに価値を見出さず、何かしらの学業に喜びを感じていたのなら、彼は多分、ニュートンやソクラテスといった歴史上の偉人に並べる程の超人になっていただろうねー。ノイマン程じゃないにせよ。少なく見積もっても、そのクラスの潜在能力、素質はあったと思う。見た目は子どもで、頭脳は大人だったんだー。」
話のテンポの為か、先生はわざとお道化てみせる。
「そして、二つ目の要因。……彼は、愛を知らなかった。」
「やっぱり」、と思ってしまったのは、人としてどうなんだろうな。
「親から受けて当然の愛情を注がれずに育ってきた。いくら高い知性の持ち主と言えども、元の基盤が無ければ何も生み出せない。それは歴史上の偉人たちも証明していることだ。ほら、エジソンだって最初は質問の多い子どもで、その持ち前の好奇心から得た知識が基盤となって数多の発明品を世に生み出してきただろ?」
一番有名な電球の発明に関しては、果たして本当に本人の発見なのか、賛否両論分かれるところではあると思うけれど、今は話の腰を折ってる場合ではない。
「彼は愛を知らぬまま今まで生きてきた。親からの寵愛という、基盤を知らずに。だからこそ、彼はここで刺激を求めた。人として生まれた以上、転んだ時に感じる痛み、近くを通る車への恐怖なんかの刺激には必ず遭遇する。だからこそ、愛ではなく刺激を求めたんだよ。」
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