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第142話「コレクターの心理と盗撮動画流出に関する話①」

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  六月十二日(日)十三時三十三分 埼玉県大宮市・大型ショッピングモール

 喫茶店を出て、俺たちは有名な大型ショッピングモールへと来ていた。
 三階建ての広いモール内に連なる様々な店舗。
 モール内は休日ということもあり、家族連れやカップル、友達同士と思しき客で溢れ返っていた。
 しかし流石は嵐山考案のメニュー。
 有名大型ショッピングモールとは無難オブ無難なチョイスだ。
「ねぇねぇ、次はあの店見てみようよ!」
 先程購入した白いドレスみたいな服(服詳しくないから正式名称不明)が入った袋を片手にはしゃいでいるまりあさん。
 普段の大人びた雰囲気とは真逆に、まるでデパートに初めて訪れた子供のような振る舞いだ。
 そのギャップがまた可憐なのは、最早言うまでもないだろう。
「楽しそうだな、まりあさん。」
 目を輝かせながら服を見ていくまりあさんを眺め、隣に突っ立ってる嵐山に話しかける。
「ずっと学校に閉じ込められてたって言ってたからな。友達と買い物とかも初めてなんじゃねぇのか?」
 ぶっきらぼうに返す嵐山。
 しかし。
「……お前、いつも他人の事とかなんも気にしねぇのに、なんでそこだけ察しがいいんだよ? やっぱりお前、まりあさんの事狙って……」
「まだ疑ってんのか!」
 いつも通りのやり取り。
 そこに、まりあさんが三着のスカートを持って駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ、これとこれとこれ、どれが一番似合うかな?」
「全部♡」
 思わず即答で返す。
 正直服の事とかなんもわかんないけど、それでもまりあさんに似合わない服があるはずないことはわかっていた。
「うーん…でもなんかもうちょっと……あっ、あっちにもある!」
 言うが早いか、まりあさんはすぐさま別の棚へと駆け抜けていった。
 満点星空笑顔。
 こんな幸せなことがあっていいんだろうか?
「もっとまりあさんに楽しんでもらわなきゃ……」
「あんま気負いすぎんなよ。大体それで失敗するから。」
 口調こそ抑揚がないものの、優しさを感じる嵐山からのアドバイス。
「お、おお……。流石、慣れてるな。」
「そうでもねぇよ。」
 嘘つけ、イケメンが。
「お前、今まで何回くらいデートしたことあんの?」
「……三回。」
 目を逸らす嵐山。
 あれ?
 思ってたよりも少ない。
「別にいいだろ。」
 いつも通りの短い返答に、なにがどういうわけか違和感を感じつつも、まりあさんが色んな店を転々とするから集中して考えることはできなかった。
 いや、本来はまりあさんに集中して然るべきなのだが。
 そんなこんなで一時間ほどまりあさんは服屋を見て回った後、特に何か買うわけでもなく、俺たちは意味もなくモール内を回っていた。
 噂には聞いていたが、やはり見るだけ見て買わないというのはデフォのようであった。
 いくらまりあさんと言えども、そこは例外なく、か。
 意味もなくモール内を回る。
 本当に意味もなく、無駄な時間にも思えるのだが、しかしまりあさんは色んな店舗を回って、何かにつけては楽しそうに反応を示している。
 本当に、こういうのは初めてなのかもしれなかった。
 尊い。
 女神のあまりの女神っぷりに改めてこの世に生を受けたことを感謝していた時、ふと、まりあさんが足を止めた。
「……あの人」
 俺たちもまりあさんの視線の先を見る。
 そこは、食料品売り場。
 お菓子を物色している高校生と思われる女の子と、その隣というか後ろというか、近くに立って同様にお菓子を見ている様子のオッサンがいた。
 いた、が。
 なんというか、目で見てわかるぐらいに不自然な空気を発している。
 制服姿の女の子、そのスカートから伸びている両足の足と足の間に、オッサンの片足が置かれている。
 ……これ、は。
「盗撮、よね。きっと。」
 俺が答えを出すよりも早く、まりあさんが解答を告げる。
 盗撮。
 不自然な片足の位置。
 恐らくは、靴に小型のカメラが仕込まれているんだろう。
 その手の動画はネットにも多数流れている。
 隣で難しい顔をしているまりあさん。
「……注意、してこようか?」
「ううん、待って。」
 彼らを指さす俺を、まりあさんが止める。
「ここで下手に大事にしたらあの子にも迷惑がかかっちゃう。それよりも穏便に、二人に気付かれないように、盗撮だけ止めないと。」
「あっ、そっか。」
 流石まりあさん。
 俺考え足らず。
「そういうことなら、俺が行ってくる。」
 俺たちの前に、嵐山が立った。
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