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第139話「少年(たち)は女神と出かける」

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  六月十二日(日)十時三十一分 真希老獪人間心理専門学校・校舎玄関

 日曜の朝。
 爽やかな朝。
 白く透き通った朝日が希望を運んでくれる今日という日。
 俺は、一世一代のチャンスに賭けていた。
 そう、まりあさんとのデート!
 まぁ、朝日云々は穴倉に住んでるから正直わからんが。妄想。
「ソワソワ……」
「………。」
「ソワソワ……」
「………。」
「ソワソ」
「おい、目の前でわかりやすくソワつくのやめろ。ウザい。」
 朝もはよから不機嫌そうな嵐山のツッコミ。
 いや、別に早くはねぇな。
「だってよぉ……。いざとなるとすっげぇ不安っていうか…でも、早く始まってほしいっていうか……」
 なんだろう、この気持ち。
 とっても新鮮。
「情けねぇ声出すな。俺だって面倒くせぇんだ。」
「なっ⁉ 日曜に女神とお出かけできるっつーのに面倒くさいとはどういう了見だっ!」
「お前が面倒くせぇんだよっ!」
 こんなやり取りももう何回目だろうか。
 痴漢野郎の一件以来、嵐山の俺に対する態度は、相変わらず冷たさはあるものの少し砕けてきたように思う。
 やっと友達同士って感じになってきた。
 このままもっと仲良くなれれば……あれ? なんで嵐山を攻略してるみたいになってんだ?
「ところで……」
 不意に、嵐山が口を開く。
「お前、エーラの局所集中はどうなってんだ?」
「やめて! 今はそういう単語聞きたくない!」
 エーラの局所集中。
 梶先生に師事を仰ぎ、嵐山に協力してもらっている修行内容。
 昨日は休みだったが、一昨日の段階である程度エーラ操作にも慣れてきたところだった。
「大体の感覚は掴めてきたと思う。昨日もちょこっと練習したし。」
 嘘。
 昨日はデートの緊張もあってほとんど寝れなかったからめちゃくちゃ練習してた。
 あと、心を落ち着けようとめちゃくちゃオナニーもした。
「あとは、実戦で試せる機会があれば……」
「そうか。」
 大して興味もなさそうな嵐山の返答。
 しかし、俺にはもうわかる。
 これはデフォルトだ。
「お待たせー」
「‼」
 遠方より舞い降りし美しく麗しいその声は!
「まりあさんっ!」
 純白のワンピースを身に纏い、マイスウィートゴッデス、心音まりあさんが遠くから走ってきた。
 走らなくていいのに。
「ごめんね、待った?」
「全然っ! 全然全然っ! 今来たところっ!」
 約束の時間までまだ三十分近くあるというのに、なんて甲斐甲斐しさだろう!
 「お前、一時間前からずっとここでソワついてただろ。一緒に待たされたこっちの身にもなれ。」という嵐山からの視線が視界に入るが、俺は気にしない。
「そ、それにしても、まりあさんは今日も美しい。ワンピース、めちゃくちゃ似合ってるね。」
 いきなり何言ってんだ俺は。
「ありがとう、嬉しいっ。シュウくんもラフな格好似合うね♪」
「へぁっ⁉ あ、あはは」
 めちゃくちゃ嬉しい!
 なんだこれ⁉
 今日の服装は死ぬほど迷った。
 嵐山に訊いたら、「とにかく夏は楽な格好」と言っていたので本当かよと思いながら試行錯誤した結果今の組み合わせになったのだが、正解だったということだろうか。
 正直服とか微塵も興味ないし、いつもパーカーに落ち着いてしまってるぐらいだし。
 でも、嵐山も言葉通りにラフな格好でいるし、大丈夫だろう。
 いや、でも相手はまりあさん。
 優しさライセンス特級の持ち主。
 普通におべんちゃらって可能性も……あああああ、わかんねぇ!
「お、みんな早いねー。」
「!」
 遠くから聞こえるのんびりとしたこの声。
「先生。」
 本日の運転手・オブ・運転手、下田従士先生だ。
「なんだいなんだい、気合入ってるねー。」
 朗らかに笑う先生。
 この服装見てもそう思いますか?
「今日はよろしくお願いします。」
 両手を膝に、深々と頭を下げるまりあさん。
 育ちの良さが窺える。
 俺も一緒に頭を下げる。
 嵐山も小さく、頭を下げた。
「いいっていいって。どうせ僕も暇だったしー。」
 一応、先生には事前に設定を伝えてある。
 そこから、急な休校日に暇を持て余した先生が運転手を買って出てくれた、ということになっている。
 先生は左腕に巻いてある腕時計を確認する。
「どうするー? まだちょっと早いけど、もう出発しちゃ」
「お願いします!」
 恥ずかしい。
 食い気味になってしまった。
 しかも、まりあさんの意思も訊かずに(嵐山はどうでもいい)。
「………」
 やらかしたか?
 横目でまりあさんを見る。
「♪」
 綺麗な笑顔で返してくれた。
 天使。
「じゃあ三人とも、車に乗っちゃってー。」
 先生先導の下、三人揃って車に乗り込む。
 途中、嵐山のブスくれている表情が見えた。
 悪魔。
「じゃあ、大宮駅まで送っていくけど、途中で寄りたいとこあったらいつでも言ってねー。」
 運転席に座った先生が車を走らせる。
 その隣に座る嵐山は頬杖をついて窓の外を眺め、あろうことか後部座席でまりあさんと隣になってしまった俺は膝が笑うほどに緊張してしまっていた。
 気を遣ってくれているのか、今日の先生の運転は非常に優しい。
 なんせ法定速度を二十キロしかオーバーしていないのだから。
 にもかかわらず、俺は段々と気持ち悪くなってきていた。
「………」
 いや、本当に気持ち悪い。
 吐きそうだ。
 車に酔った!
 酔ったことないのに!
「シュウくん、大丈夫? 具合悪そうだよ?」
 女神に顔を覗き込まれ、しかし平然と返す。
「大丈夫で…だす。」
 平然と返せてない。
「もぉ、なにそれ?」
 口に手を当て、上品に笑うまりあさん。
 今日という日の為に俺は生きてきたのかもしれない。
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