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第125話「女性特有の母性本能が芽生える条件と社会的地位の高低差における幼児退行性の差異に関する授業⑤」

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「それじゃあアンナカは俺とだな。」
「……キモっ」
「よろしくね、楓くん。」
「本気で嫌なんだが。」
「神室っち、遠慮なく甘えていいからねっ。」
「………おうよ。」
 こうして決められたペア。
 後金とアンナカさん。
 俺と木梨さん……。
 そして…そして……。
 嵐山とまりあ様っ!
 嵐山ぁ!
 てめぇの罪を数えろ!
「それじゃあ男子諸君よ! 早速赤ちゃんに成りきって、目の前のお母さんに甘えたまへっ!」
 ぐぅぅ…くそぉ。
 こんなはずじゃなかったのにぃ……。
 嵐山とまりあ様がペアのまま、赤ちゃんプレイ実技授業が始まってしまった。
「遠慮することなんてないよ君たち。【赤ちゃんプレイ】の真髄は精神の解放にある。目一杯思う存分甘えなさい。」
「じゃあ思いっきりいくぜ!」
 後金は両手と両膝を地に着けた。
 いやにテンションが高いな。
 あ、でも、普段からお堅そうなアンナカさんに甘えられるというのは貴重な機会だ。
 お母さんを演じるアンナカさんも見れるわけだし。
 それだけでも興奮するというのはわかる。
 特にあいつ、後金は同級生限定のネットストーカー。
 興奮はより倍増だろう。
「………。」
 しかし後金。
 四つん這いになってから一歩も動かない。
 どうした?
「どうしたんだい、後金くん。足が——というか、膝が止まってるよー。」
「うぐっ」
 先生に言われ、ようやく動き出す後金。
「ば、ばぶぅ……」
 引きつった笑みでよちよち歩いていく後金。
 うわぁ……。
 これは確かに恥ずかしい。
 いや、これこそが精神の解放。
 これを恥ずかしがってるようじゃ二流だろうな。
 なぁ? さっきからだんまり決め込んでるクソイケ野郎。
「………。」
「楓くん、大丈夫? どこか具合悪い?」
 俯く嵐山の顔を覗き込むまりあ様。
 羨ましい!
 百回死ね!
「さぁ、嵐山くん! 君も存分に甘えなさい!」
「………っ!」
 恨めしそうに先生を睨む嵐山。
 しかし、一同の視線を集める嵐山は、ついに小さな口を開いた。
「ば…ば…」
 一生懸命、次の言葉を喉の奥から引っ張り出そうと息も切れ切れとなり、そして。
「ば……うぷっ」
 口を押え、よろめいた。
「楓くんっ⁉」
 慌てて寄り添うまりあ様を、嵐山は片手で制する。
「……大丈夫。あの…先生、ちょっと気分が悪くなってきたので保健室行ってきます。」
「えぇっ⁉ 大丈夫かい?」
「大丈夫です……」
 そう言って、嵐山は教室を後にした。全身タイツのままで。
 状況的に考えて演技以外の何ものでもなさそうだが、あの顔色に汗の量はまるで演技に見えなかった。
 もしあれで演技というのであれば、あいつは役者に向いてそうだ。イケメンだし。
 しかしもしかしたら、赤ちゃんに成りきるのが嫌すぎて本気で具合を悪くしたのかもしれない。
 だとしたら少しは可哀相でもあるのかな。
「先生、私心配なので楓くんに付き添います!」
 まりあ様が教室を走って出て行った。
「………。」
 あいつやっぱり許さねぇ‼
「ばぶぅ…ばぶばぶ……」
「っ!」
 声を震わせ、よちよち歩いていく後金。
 今思えば、こいつはかなり勇気ある先駆者だったんだな。
 お母さん役のアンナカさんも、こいつの勇気に免じてお堅い仮面を脱ぎ捨て、慈愛に満ちた母親としての顔を……全然してなかった。
 後金に対するアンナカさんは、侮蔑に満ちた高圧的な視線で後金を見下すように座っている。
「ばぶぅー」
「………。」
「ばぶ……」
「………。」
「ば…」
「………。」
「先生、俺もちょっと気分が悪いので保健室行ってきます。」
 素早く立ち上がった後金は、嵐山に負けず劣らず白い顔をしていた。
「えぇっ⁉ 後金くんまでっ⁉」
「私も心配なので付き添いますね。」
 ゆっくりと立ち上がって、アンナカさんも後金に付いて教室を出た。
 後金のは演技じゃなかったが、アンナカさんのは確実に演技だったな。
 棒読みだったし無表情だったし。
「こんな安全そのものな授業で二人も体調不良を訴えるだなんて! なんで⁉」
 大仰に頭を抱える先生。
 人選ミスだと思う。
「ちょっと僕も心配だから、二人の様子見てくるね。この時間はもう好きにしてていいよ。」
 そう言って先生も駆け足で去っていき、ついに教室には俺と木梨さんの二人だけになってしまった。
「………。」
「……自習になっちゃったね。」
「うん。」
 仕方ない、残り時間は折角避けた机とか戻しとくか。
「あのさ。」
 とりあえず立ち上がると、木梨さんに呼び止められた。
「せっかくだし、授業続行しない?」
「え?」
「い、いやさ、ほら……このまま何もせず終わるのも気持ち悪いじゃん? みたいな?」
 わかりやすく頬を赤らめる木梨さん。
 十分魅力的な美少女なのだが……しかし。
「そ、それともやっぱり私じゃ不満」
「いやいや全然! 最高! 最高だよ、うん。最高!」
 ああ、もう駄目だ。
 再び木梨さんの向かいに跪き、両手を地に着ける。
「ありがとう。」
「………。」
 木梨さんは俺に向かって両手を差し伸べた。
「ほ、ほら、おいで~……マ、ママでちゅよぉ~」
 やはり顔を引きつらせている木梨さん。
 あんだけ否定的だった赤ちゃんプレイだ。
 母親役など嫌なのだろう。
 でも、それでも。
 俺なんかのために我慢して演じようとしてくれている。
 その想いを汲まずして、明日を生きる資格はない!
 さぁ俺も演じるんだ。
 成りきれ、赤ちゃんに。
「ばぶぅ~」
 手と膝を揃え、転げないように木梨さんへと這っていく。
「お~よちよち……あんよがお上手でちゅねぇ~」
「だぶぅ~ママだっち!」
 木梨さんに抱きつく。
 控え目な胸の感触。
 エプロンの余った布地がごわごわする。
「ボクは一生懸命戦えて偉いでちゅねぇ~」
「あだぁ~」
 背中と頭を同時に撫でられる。
 心地いい……心地、いい?
「あと、ちゃんと息吸えて偉いでちゅねぇ~」
「ば……」
 ボキャブラリー!
 ……というか、ボキャブラ以前に。
 なんだ?
 なんかこう……上手く言えないけれど、何かが違う気がする。
 全然癒されない。
 その時、瞬時に脳裏を過ったのは、まりあ様の笑顔。
 そして。
「………」
 木梨さんが、そっと俺を離した。
 顔を伏せ、ゆっくりと立ち上がる。
 向けられた背中が、震えている………。
「……ごめんね。」
 同じく震えている木梨さんの声。口調。
「神室っちはやっぱり、まりあっちに甘えたかったよね。……好きだもんね……」
「あ、いや……」
「私も」
 どう答えようか口籠っていると、木梨さんが遮ってきた。
「私も、ちょっと具合悪くなってきちゃった。お手洗い行ってくるね。」
 そう言って、教室を駆け出してしまった。
 独り、取り残されてしまった。
 ……なんでだっけ?
 なんで、こうなったんだっけ?
「……ぁぁああああああああああああああああああああああああくそっ‼」
 くそっ!
 もうなんか、くそっ!
 くそったれ‼



 一回の女子トイレ。
 響き渡るのは、少年の・・・声だった。
「あーもう! そうだよね! 知ってたよ! まりあっちが好きだもんね秀青くんは! 知ってる知ってる! ほらもう! 秀青くんのおちんちん、変な形! すっごい左曲がり! 握って扱いたら痛いんですけど! ですけど! でもでも、すっごい気持ちいの! ほら見て秀青くん! 秀青くんのおちんちん、我慢汁すっごい! なにこれ! ヌルヌル! ベトベト! ほらほら! 鏡越しに秀青くんとキスしちゃうよ! ほら! 秀青くんと秀青くんがちゅー! あんっ! やっばい! 今の超気持ちい! ほんとはね! ほんとは、さっき秀青くんを抱きしめた時、おっぱいじんわりしたんだ! 見てよほら! 出てるの! 母乳! 出たの! 秀青くんと触れ合って! 赤ちゃんのごはん、出たの! これって、愛情がなきゃ出ないんでしょ⁉ ってことはだよ⁉ ってことは、私、ちゃんと秀青くんのこと好きなんだよ⁉ でも、秀青くんは……ああああああああああああもう! 知るか! わたしは諦めないもん! あんっ! イクイク! 秀青くんのおちんちん敏感過ぎてイっちゃうよぉ! 出しちゃえ! こんな悔しい気持ち、ザーメンと一緒にドピュドピュしちゃぇ!」
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