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第97話「愚者のハンドワーク⑯」
しおりを挟む五月二十九日(日)十五時三十四分 池袋駅・いけふくろう前
木梨鈴ⅤS“顕微鏡“科嘸囲雄図
男たちに群がられ、木梨鈴は姿を消した。
その光景をカメラのレンズに収めつつ、一歩、また一歩と科嘸囲雄図が近づいていく。
「はっはっはっはっは‼ どうだい、お嬢ちゃん? お前は今から千●撫子に着替えさせられ、そいつらに囲まれてカメラを向けられるのだ‼ ポーズを決める美少女‼ 僅かな羞恥心と興味本‼ そして‼ 大きな自己顕示欲‼ 自らを囲む男達を‼ 欲求を満たすためだけの餌として見做す美少女‼ そうとは知らず美少女を囲む男たちもまた‼ 自身の欲望を満たすためだけに美少女に近寄りカメラを向ける‼ 互いに汗だくになりながら欲望をぶつけ合うその光景‼ ああ‼ 最高だよ‼ ワクワクするね‼ やめられない‼ 止まらない‼」
“顕微鏡”科嘸囲雄図。
彼の“変態性“は【大量のカメコに囲まれてるコスプレイヤー画像フェチ】。
コスプレイヤーを取り囲む大量のカメコ(カメラ小僧=カメラを構えたオタク)。
各々が欲望を剥き出しにしたその光景を収めた写真にのみ興奮する変態だ。
カメコの数が多ければ多いほど興奮度は増し、遠くから囲むような陣形でも、鳥籠のように閉じ込める程近い陣形でも抜ける(人目もはばからずスカートの中を逆さ撮りしたり、腋を接写していれば尚良し)。
コスプレイヤーの露出度によって興奮の仕方も変わっていき、露出度が高い場合は、度を過ぎた露出では抜けなくなる。
限界までの基準は、マイクロビキニ。
局部や乳首のチラリズムが発生した場合は、その写真は一気に紙屑へと変わる。
また、露出度が低い場合(男装女子のコスプレや、ロングスカート、魔●宅のキ●のコスプレなど)は、大量に撮った写真の中に一枚だけ太ももが露わになった写真が混じると、それはこの世の宝となる。
写真の画質も重要で、当然、画質が高ければ高いほど抜け、コスプレイヤーの汗や毛穴、開かれた腋の汚さが鮮明に映っていれば、それは至高の一枚となる。
逆に、素人が撮った、荒い画質のプロ臭の一切しない写真も、実用性に優れた師玉の一枚となる。
このように、非常に厳しい審査を通過し、その中から更に厳選した一枚で日々のチントレを欠かさず行う彼は紛れもなく傾倒型の能力者だ。
その能力。
傾倒型・物質創造系“性癖”。
能力名『撮影小僧』。
カメコを創り出す能力だ。
生物を創り出す能力は異常なまでのエーラを消費し、いくら傾倒型とはいえそれは困難を極める。
それゆえ、このカメコ達もまた、実際の生き物ではない。
エーラを変質させ、創り上げられた人形なのだ。
自身の欲求を満たす為に、コスプレイヤーを取り囲む背景の役割を担う、カメコを創造できるようになった彼。
そしてさらに、彼は嵐山楓同様に、自らの能力に工夫を凝らした。
生物ではなく無生物を創造することにより余ったエーラを、人形の操作性に割り振った。
自動操縦と手動操縦。
自動操縦では、カメコ一人に割り振るエーラを抑える代わりに、あらかじめプログラムされた動作(コスプレイヤーや貴重な瞬間を囲んで撮る)しか行えない人形を創り出す。
エーラも軽く、同時に二十一人まで創造可能な手軽さがある。
先程、駅構内で見せた技“肉の壁”が正しくそれだ。
その操作性から、あの時は神室秀青によりカラクリを見破られたが、それは勿論わざとである。
反対に手動操縦は、カメコ一人に割り振るエーラを増やし、自身の意のままに操作できる人形を創造するものだ。
今発動している技“電影十一人衆”もこの操作方法であり、手動操縦時に出せる上限人数(十一人)で同時に襲わせることにより、対象を強制的に着替えさせ、カメコに囲まれたコスプレイヤーの写真を問答無用で撮るという世にも恐ろしい技である。
この技を受ければ、たとえ合気道の達人であろうとも、ひとたまりもない。
……それも、体術のみに絞った話だが。
「さぁ~て。そろそろ着替え終わったかな~?」
はしゃぐようにカメラを構え、カメコの山に近づく科嘸囲雄図。
カメコたちは一人、また一人とその場から捌けていき、周囲でカメラを携え待機していく。
だが。
「………あれ?」
群がるカメコ達の中心となり、強制着替えを終えたはずの木梨鈴が姿を消していた。
彼女が元々着ていた服は残っている。
しかし、彼女と、彼女に着せたはずのコスプレ衣装が影も形も残っていなかった。
「……どこに——っ⁉」
戸惑う科嘸囲雄図の片腕を、まだその場に残っていた一人のカメコが掴んだ。
「ま、さか……」
科嘸囲雄図が冷や汗をかく。
カメコが微笑んだ。
「つーかまーえたっ♪」
カメコの体がみるみるうちに薄く透けていき、コスプレ衣装の木梨鈴が姿を現した。
「なんっ⁉」
科嘸囲雄図は驚く間もなく投げ飛ばされ、後頭部から地面に真っ逆さま。
「かはっ!」
エーラでの防御も遅れ、受け身も取れずに叩きつけられた科嘸囲雄図。
そして、見下ろす木梨鈴。
「痛いのいくよ?」
「……やっぱ似合ってんじゃん、その衣装。」
直後、打ち下ろされた掌底。
見上げる科嘸囲雄図の顔面から、骨が潰れるような音が響き渡った。
そして、次々と消えていく十一人のカメコたち。
科嘸囲雄図は完全に意識を失った。
「……ふぅー。」
息吐く木梨鈴。
彼女は、【好きな人に成り代わりたい願望】の持ち主だ。
幼い頃から、武術の鍛錬を強要され、断ることもできずに厳しい修行の日々を過ごしてきた彼女。
ある時、ふとしたきっかけで出会った一つ年上の男の子と出会った。
その子は言いたいことをはっきりと言える、確かな自分を持った子だった。
嫌なことを嫌と言えず、親の言いなりになるまま、したくもないことをさせられ続ける日々。
そんな彼女は、次第にその子に惹かれていき、それが恋と変わるのに時間はかからなかった。
自分もあの子みたいになりたい。
その一心から、好きな色、好きな科目、好きな食べ物、その子の全てを真似するようになっていった彼女だが、所詮はごっこレベル。
真に自分が変わっていくわけではなかった。
それでも彼女は彼の真似を止めなかったし、どころかその行為は次第にエスカレートしていった。
変わらない自分を変えようと、自身の身長、自身の体重、自身の性別までも彼と同じものを求めていき、性的興奮とさえ結びつけていった。
そして、最早モノマネ程度では満足できなくなった彼女が手に入れたのが、エーラと“性癖”。
能力名『重なる影』。
傾倒型・物質創造系の彼女の固有“性癖”だ。
十秒以上、触れ続けた対象の容姿を完全把握し、自身の体で再現できる能力。
今回は、一人のカメコに触れ続け、姿を完全模写したのだ。
この能力により、彼女は性癖を満たす事ができるようになった。
同時に、大切なものを失いながらも。
木梨鈴は天を仰ぐ。
(のっぺらぼうで透明人間だから、どんな仮面も被れるし、どんな服だって着れる。…でも、それでも……)
「……無事かなぁ、神室っち。」
五月二十九日(日)十五時三十六分 豊島区・光が丘公園
樹々が並び立つ、眩しい木漏れ日の中。
「来たか…神室秀青。」
「………。」
逆撫偕楽の下に、神室秀青が追いついた。
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