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第80話「陽気な少女は卑劣なる悪漢に憎悪を覚える」
しおりを挟む五月二十二日(日)十二時四十八分 真希老獪人間心理専門学校・応接室
通されたのは、物静かな空間だった。
応接室と札に掛かれていたこの室内は、焦げ茶色で統一された調度類が落ち着いた雰囲気を演出していた。
そしてその調度類の一つ、長机に長椅子。
そこに今、俺と嵐山、そして木梨さんと、なんということでしょう、まりあ様が並んで座っている。
この方が近くにいるだけで、なんか物凄い良い匂いが漂ってきている気がする。
「さて……みんな、揃ったねー。」
向かいの個人用ソファ(当然、焦げ茶色)にゆったりと座って、下田先生がはにかんだ。
「せんせー、どうしたんですか? 急に呼び出してきて。」
チュ●パチャプスを咥えながら後頭部で手を組む木梨さん。
帽子ぐらい脱げよ。
「やー、実はねー」
「任務…ですよね?」
先生の言葉を遮って嵐山が言う。
「さっすが嵐山君! 察しが良いねー。」
先生は両指で嵐山を指す。
任務…だと?
「任務……ってことは、『パンドラの箱』がまた騒ぎを起こしてるんですか?」
まりあ様が小さく手を挙げて質問する。
いちいちキラキラしてんなぁ。
「うーん……、そこはまだ調査中なんだけどねー。でもでも、“性癖”持ちの人間による事件が起こっている…っていうのはほぼ確実だねー。」
片手を広げ、先生は俺たちそれぞれを見る。
「……君たち、埼京線って知ってるかい?」
「埼玉と東京の間を繋ぐ電車の路線、ですよね?」
関東内のどの場所から東京へ向かおうと、大体利用することになるだろう路線、それが埼京線だ(俺調べ)。
関東に住んでいれば、ほぼ常識と言ってもいいだろう。
「そうそう。その埼京線だ。」
ニッカリと白い歯を見せつけ、笑いながら先生は続ける。
「でね、その埼京線なんだけど、とにかく便利だ。大宮から大崎まで移動できる便利さが特に際立ってるね。当然、利用客も多くなるし…そうなると自然と発生するんだよねー。奴ら……」
奴ら?
先生は勿体ぶるように間を置くと、ゆっくりと口を開いた。
「男の暗部…女の敵…【痴漢】さ。」
瞬間、黙って先生の話を聞いていた女性陣、特に木梨さんの空気が変わった。
先程までの弛緩ぶりはどこへやら。
突き刺さるような緊張感が周囲を包み込んでいった。
そして響く、飴を噛み砕く音。
ビクって体が浮いちゃったじゃないか。
「……確かに、それは事件ですね。」
呟くような木梨さんの表情は、帽子の鍔の影で読み取れないが、彼女からは決して想像もつかないような低い声から、その心情を読み取るのは容易い事だった。
「それで、【痴漢】が出たから私たちが殺すんですね?」
やだ、女の人怖い。
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