上 下
76 / 186

第76話「自己の恋人、または伴侶が無断で性行為を行った第三者に身心を奪われることによって発生する性的興奮・快楽に関する授業⑤」

しおりを挟む

 先生の異様に長かった御解説もようやく一区切りついた。
 先生も口を閉じたし、ここからは質問タイムだろう。
 さて、なにか訊いておきたいんだが一体なにをどう質問したものか、と迷い始めるよりも前に、恐らく俺よりも先に状況を呑み込んだであろう木梨さんが手を上げる。
「せんせーっ。さっきまでの話、ザックリとしか理解してないんですけれど、つまり“NTR”に興奮するのは男としての本能だ、仕方のない事なんだ。ってことですかーっ?」
 先生はより一層目を細めて木梨さんを見る。
 一見すると、温和で柔らかな表情だ。
「いやいやー。それじゃあただの言い訳だよ。今のは、現在“NTR”として確立されている、多様な性癖の一ジャンルについての、その成り立ちを語ったまでだよ。自己解釈でねー。男としてそういった行為に欲情するのは仕方ない、なんて言うつもりはないさー。……それでも、君たち!」
 下田先生が機敏な動きで、人差し指で嵐山を、中指で俺を、それぞれ指してくる。
 人を指ささないでください。
「“NTR”に性的興奮を覚えるのは男の本能だ、というのは実際問題事実だとも僕は思っている。にもかかわらず、君たちは一切の興奮を覚えないと言った。だとするとそれに対しては三つの原因が考えられる。」
「………。」
 先生の急な叫弾に、俺と嵐山はほぼ同時に無言で顔を見合わせる。
(……あれ? 俺たち、今なんか悪者扱いされてる?)
(俺が知るか。)
 無言のアイコンタクト。
 その試みは初にして成功に及んだ。
 奇跡だ。
 俺たちに構わず、一同が見守る中、先生は続ける。
「まず一つ目。”NTR”に興奮しない君たちは、精神的に未熟か、或いは性的に未熟かのどちらか、または両方に属しているというケースだ。しかし、そこは仕方がない。君たちはまだまだ青春真っ盛りで思春期真っただ中の少年だからね。ゆっくりと、大人の階段を上っていく他ないだろう。」
 ……なんだろう、すげぇ悔しい。
 馬鹿にされてる気がするのは気のせいか?
 若干の怒りを腹に覚えてる間に、先生は次なる原因(やっぱ悪者じゃね?)を指摘してくる。
「二つ目。もしかしたら君たちは“NTR”に不快感、不愉快感を覚えているのかもしれない。それすらも通り越して怒りさえも覚えているのかも……。なぜそうなるのか……それは恐らく寝取られる側に感情移入してしまっているからだろうね。いや、作品形式上、NTRモノは寝取られる側視点の作品が多い……とりわけ最近は尚更なんだけれど、そういった場合は、感情移入、もとい自己投影対象を変更してみるのはどうかな? 例えば寝取る側に、とかね。」
 確かに、スマホの広告なんかでNTR漫画が出てくるたびに気分を害しているのは事実だ。
 女の子も男の子も可哀相だなー、と流れてくるあらすじが視界を過る度に考えてしまう。
 視点を変えれば、考えも変わる、か?
「最後に三つ目。“NTR”に興奮するのは、異性に対して精神的な繋がりよりも、むしろ肉体的な繋がりをより強く求めている男性が多い傾向にある。…というか、大抵の男性はそういう傾向が強いと認識しているよ、僕は。ヤれればいいとさえ言う男性も多い…というより過半数がそうだろうと考えている。恋愛に愛を求める女性と、恋愛に肉欲を求める男性。”夜這い“や”処女権”誕生の要因ともなった性思考、および性志向なわけなんだけれど……、もしかしたら君たちは男性寄りではなく、女性寄りの性思考なのかもしれないね。もしそうだとしたら、多分”NTR”で興奮するのは難しいだろう。」
 ……それは、どうだろうか?
 はっきり言って同級生の放尿音を聴きながらしこしこオナニーしている俺がそんなわけないと思うんだが……。
 ……ん? なんだろう?
 なにか、忘れてるような……。
 俺、本当に今まで“NTR”に興奮したことないんだったっけか?
「とにもかくにも、”NTR”も含めた全ての性癖には、興奮できるかできないかは各個人を構成するその者の人格、意思によっても変わってくる。“NTR”で興奮しろだなんて無理強いはやっぱりできないよ。……とは言え、」
 先生は一つ咳払い。
「嵐山君はともかく、神室君。君は万能型の性質を持つエーラを宿しているんだ。新たな性癖の拡張は、新たな“性癖スキル”を発現させるに等しい。だからもしも、食わず嫌いをしているのであれば、無理にとは言わないけれど、少しこの性癖にも向き合ってみてくれないかな? 今後行うであろう戦闘を考慮して、ね。」
 む……。
 それは確かに、その通りなのかもしれない。
「でも、向き合うって一体どうしたら……?」
 先生はにこやかに片手を広げた。
「それはさっき言ったみたいに、訓練してみるとか、理解を深めるよう努めてみることだねー。まずは、やっぱりさっき言ったみたいに、感情移入の視点、自己投影の対象、立場を変えてみるところから始めてみるのはどうかな? 寝取られる側から寝取る側へ……対象の女性に自己投影してみるのもいいかもねー。」
 そんな訓練したくないっ!
「まぁ、色々言ったけれど、“NTR”。これは男性の一方的な欲望によって生み出されている側面が強い性癖だ。中には、寝取られる対象になることによって、自己顕示欲を満たす女性もいるにはいるけれど、それはレアケース。浮気はするなとは言わない。あまりお勧めもしないけれど、たまには違った相手を求めることは男女関わらずあるだろうし、それによって経験した過ちがより本命との繋がりを熱くする場合があるのも事実だ。だからこそ、そういったプレイを行う場合は秘密の保持よりもまず相手の了承を得なければやってはいけない。相手を無理矢理犯して、それをネタに脅し、秘密を守る。そんな行為は下衆の極みだ・変態以前の問題、人格が終わっていると言っていい。ただの強姦、犯罪行為だよ。」
 先生はゆっくりと人差し指を立て、生徒全員に視線を送る。
「君たちも男女の行き掛かり、成り行きによる情事を経験する際は、絶対にこれだけは守ってね。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...