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第67話「”十三厄災(ゾディアック)“⑧」
しおりを挟む五月二十二日(日)十時五十六分 T県・某廃墟
「いやぁ、ごめんごめん。急にみんなの反感を買いたくなってさー。」
屈託なく笑うこの少年こそ、“災厄の天導球”に輝く八十八の星の頂点、ひいては“十三厄災“のトップにして『パンドラの箱』を導く不動の存在。
照れたように掻く髪は、左に白く、右に赤く染まったおかっぱ頭。
中性的な顔立ちから発せられる、神秘的な雰囲気。
《蛇夫宮》、神代託人だ。
「にしてもさっきのは酷すぎんだろ!」
食らいつくのは中尾望ただ一人。
他のものはみな、さっきのハモリに羞恥心を覚え、黙りこくってしまった。
「ごめんよ、ほんと。出来心だったんだよ。つい、やってしまった。みんなもあるだろ? そういうこと。でもまぁ、そうだね……」
謝罪の弁を述べつつ、神代託人はゆっくりと自身の席(中尾望の二つ隣、風祭匁の真横)に着く。
「おっぱいっていうのは、さっきも言った通り、子を育てるための器官。後世に自分の遺伝子を残す重要な役割を担う。だから、より優れた遺伝子、子孫を残す為に、より優れたおっぱいを求行くというのは、男性として本能的に正しい欲求だろうね。更に言うと、人間は子孫を残すにあたって、自身に足りない面を持つ者との遺伝子交配を欲する傾向にある。それが進化だ。故に、男性の数だけおっぱいの好みも存在する。十人十色、千差万別。“優れたおっぱい”という概念も、個人によってあっさりと変わる。おっぱいの好みを統合する為の議論なんて、虚しいだけだよ。虚空だよ。」
「あ、ごめん。もういい加減本題に入ってもらっていい?」
「おっぱい何回言うんだよ。」という言葉を呑み込みつつ、姫百合真綾は会議の進行を促す。
会議。
今回、“十三厄災“がこうして集まったのは『パンドラの箱』の今後の活動、なにをどう破り、なにをどう壊していくかを決める、重要な会議を開くためだ。
決して風俗やおっぱいの話をするために集まったわけではない。
「あぁ、そうだったね。ごめんごめん☆」
魅惑的な微笑みをたたえる神代託人。
それを、風祭匁は頬杖をついて見上げる。
「あんたが遅れてきたおかげで、こっちは話がだいぶ逸れてたんだ(主におっぱい方面に)。頼むぜ、ほんと。」
「まぁ、意味もなく遅れてきたわけじゃないんだろう? タクト。」
内水康太は、フォローを入れつつ話を動かす。
「うん、勿論。実はね、二日前に……」
改めて座り直し、神代託人は目を伏せる。
「『錠』を見つけたんだ。」
「マジか!」
身を乗り出す風祭匁に、大きく目を見開く内水康太。
「随分…早いな。」
「うん。望の協力があったからね。」
二人を見た流れで、神代託人は中尾望に視線を向ける。
中尾望は得意気に鼻を鳴らす。
「いくらこいつの能力でも、そんなに早く見つかるもんなの?」
「おいおい、俺は年上だぜ?」
中尾望を無視したままに、姫百合真綾は神代託人を見続ける。
「そこはかなり運が良かったんだ。ね、望。」
神代託人に話を振られ、中尾望は姫百合真綾から視線を外す。
「ああ。偶然にも早い段階で『錠』と接近できたんだ。……というか、ここにいるほとんどの奴は、既に『錠』と接近していた。」
中尾望の発言に、室内の視線はほとんど彼に集中した。
ついに、まともな会議が始まった。
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