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第66話「”十三厄災(ゾディアック)“⑦」

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  五月二十二日(日)十時五十一分 T県・某廃虚

「まぁ、そんなわけで俺はあの後、彼女の出勤日を定期的に確認していたんだが、どうもすぐにやめてしまったらしく、プロフィールは残ってるんだが出勤になることはなかったな。」
 中尾望は一通り話し終えた後、全員の顔を見る。
「ふーん、で?」
 風祭匁が中尾望の目を見返す。
「で? っていうのは?」
「その子、“変態性キャラ”持ちの能力者だったんじゃないの?」
 中尾望の質問返しに、今度は隣に座る女性が質問する。
 綺麗な黒髪を下ろしている女性の名は、《処女宮ビルゴ》の姫百合真綾。
「え? 能力者? なんで?」
 姫百合真綾を、中尾望は横目で見る。
「だってあんた、その子に“逆らえない”だの“嘘をつけない体にされた”だの言ってたじゃない。声がどうのとか。」
 きつい眼差しの姫百合真綾に、中尾望は手のひらを向ける。
「ああ。違う違う。それは能力じゃない。確かに、あいりちゃんの声にはタクトを彷彿とさせるものがあった。多分、彼女も“1/fゆらぎ”持ちだったんだろう。気持ち良すぎて彼女に逆らいたくなかったし、嘘もつきたくなかったもん。ただ、それでも隠し事はできたからな。同じ“1/fゆらぎ”持ちでも、彼女はまだまだ、まだまだだったってことだな。」
 得意気に語る中尾望に、姫百合真綾は目をさらに細める。
「はあ? じゃあ、なんであんた性交渉からそんなに逃げようとしたのよ? 危険な能力にかかりそうだったからじゃないの?」
 彼女の言う危険な能力とは、この場合“他者干渉系”能力のことだろう。
「だから、違うって。」
 中尾望は両手を広げる。
「さっきも言っただろ? 中途半端な気持ちで風俗に手を出すと、必ず苦い思い出を作ることになる。俺はそれが嫌だっただけさ。」
「は? じゃあ、何? あんたもしかして、ただ風俗に行った時の話をしただけなの?」
「それがなんだよ。」
「長いのよっ!」
 悪びれもしない中尾望に、姫百合真綾は机を叩いて怒鳴る。
「おいおい、最初の趣旨を忘れるなよ。俺はただ、おっぱいに殺されかけた話をしただけだぜ?」
「くっだらねー」
 開き直った様子の中尾望に対して、風祭匁は息をつく。
「くだらないってなんだよ! 褐色高身長美少女、しかもウエスト細くておっぱいでかくて乳輪が濃くて小さいんだぞ! そんな弾力のあるおっぱいには人を殺す力があるからお前らも気をつけろって忠告してやってんだぞ、こっちは!」
 今度は中尾望が机を叩いた。
 風祭匁は、それに臆することなく口を開く。
「そんなの奇跡的遭遇レアケースじゃん。滅多にねぇよ。それに俺らはあんたと違って風俗になんていかないから、そもそもそんな風に警戒する必要がねぇんだよ。」
「うっ……」
 風祭匁の冷ややかな目に、中尾望は僅かにたじろぐ。
「第一、おっぱいってのはそういうもんじゃねぇだろぉ?」
「じゃあ、どういうもんなんだよ?」
「谷間に唾液を垂らすもんだろ。」
 そう言ったのは、風祭匁ではない。
 彼の二つ隣に座している、筋骨隆々の男性、《宝瓶宮アクアリウス》の内水康太が、中尾望を見もせずに言った。
「それも違ぇよっ!」
 内水康太に風祭匁がツッコむ。
 「いいか?」と、風祭匁は続ける。
「おっぱいってのは、切断した時の形状が、その個人個人の形、柔らかさによって変わってくる、いわば断面形状に個体差を表す存在だ。」
「それこそ違ぇよっ! なんでお前はそんな猟奇的なんだよっ!」
 今度は内水康太が風祭匁にツッコむ。
「なんだよ、お前らの方が頭おかしいじゃねぇか。」
「お前に言われたくねぇっ!」
 内水康太と風祭匁、二人揃って声を上げる。
「はぁー…。ばっかみたい。」
 その様子を眺めて嘆息を吐いたのは、荒神野原の二つ隣に座る少女。
 左から右に流しているアシンメトリーの桃色の前髪、右に結んだサイドテール。
双児宮ジェミニ》の妹尾せのおあきら。
「おっぱいおっぱいって、何がそんなにいいんだか……ねぇ、お姉ちゃん?」
 妹尾あきらが、自身の小振りな胸から姫百合真綾に視線を移す。
「まったくね。」
 妹尾あきらに同意して、姫百合真綾はおっぱいで騒ぐ男性陣を睨みつける。
「おっぱいおっぱいっていい加減にしなさいよ。おっぱいは大きいとか小さいとか、そういう問題じゃないでしょう?」
 その台詞に、妹尾あきらは何度も頷く。
「いい? おっぱいっていうのはね、当たっただけで安心感を得られる、存在そのものがなによりも重要なのよ! あるだけでありがたがりなさいよ!」
「お姉ちゃんもそっちっ⁉」
 驚愕のあまり立ち上がる妹尾あきら。
 そしてそのタイミングで、混沌と化した室内に、“十三厄災ゾディアック“最後の少年が現れた。
 否、最初の少年と言うべきか。
「みんな、お待たせ。思ってたよりも遅くなっちゃったよ。」
 少年の声に、言い争いを止めて、全員が視線を集める。
「なぁタクト、聞いてくれよ。」
 中尾望が立ち上がる。
「俺この間、おっぱいに殺されかけたんだよ!」
「おっぱいっていうのは断面形状に個体差の様式美をだなぁ」
「だから、おっぱいはあるだけで究極的な」
「胸の谷間に唾垂らし!」
 続いて次々と立ち上がっていき、彼らは同時に少年にまくしたてる。
 少年はその光景に、少し考えるように顎に手を当てる。
「うーん…とね。よくわからないけれど……」
 そして、とびっきりの笑顔を彼らに向けた。

「胸ってそもそも赤ちゃんを育てるための器官でしょ? 何言ってんの君たち。」

「お前が言うなっ‼」
 少年を除いたその場の全員が声を揃えて叫んだ。
 “十三厄災ゾディアック“、本日二度目の軌跡である。
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