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第61話「”十三厄災(ゾディアック)“②」

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  一年前・十二月二十四日十八時二分

 ダメ元でも調べてみるもんだな。
 「添い寝 店」で調べてみたところ、関東だけでも三十件ほど、性風俗店以外の店のHPがヒットした。
 とは言え、どの店も基本サービスが添い寝というだけで、「我慢できなくなった方は」というフレーズの下、有料オプションに千円で手コキと書いてある。
 ということは、状況次第、交渉次第では嬢と本番行為も十分あり得る店、ということだろうな。
 長年の風俗通いで鍛え上げた俺の“性感知能力セックスセンス”がそう告げていた。
 完全健全な添い寝店は、もしかしたらこの世にはもうないのかもしれない、と。
 しかし、ここで我儘を言っている場合ではなかった。
 なんせ、近場で添い寝ができる店となると、今ヒットした店舗のうちの一件しか無かったからだ。
 俺はHP内にある出勤情報のページを見る。
 包容力があり、尚且つ俺よりも高身長な(百七十センチよりも上)女性を探す。
 条件に当てはまる女性は……いた。
 モザイク越しにもわかる、慈愛に満ちたオーラ。
 身長表記百七十七センチ。
 俺の”性感知能力セックスセンス“もこの人にしろと言っている。
 ……行くしかない。
 僅かな躊躇いの後、腹を括ってその店に電話をかける(実際は速攻でかけた)。
 呼び出し音三コール目で、やや高い声の元気な男性が電話に出た。
『——はい。添い寝ヴィジョンです。』
 この瞬間。
 デリヘルに電話をかける時はいつもそうだ。
 この瞬間から、得も言えぬ高揚感に包まれる。
 何度かけても慣れない緊張感。
 たまらないね。
 俺は平静を装いつつ、電話口に喋りかける。
「あの、あと三十分後にこまちさんをお願いしたいのですが———」
『こまちさんですね? 少々お待ちください。』
 電話口の先から、気配が遠くなるのを感じる。
 ワクワク。
 ドキドキ。
 数秒ほどの間をおいて、電話口の向こうに気配が再び戻ってきた。
『あぁー…こまちさんなんですけど、今日はもう予約でいっぱいですねぇー……』
「⁉」
 なん…だとっ…。
 先ほどまでの高揚感はとうに失せ、代わりに奈落の絶望が襲い掛かってくる。
 そんな……ばかな……。
 まさか、俺以外にも同志がいたとは……。

「よかったな。イヴの夜を寂しく過ごしてたのがお前だけじゃなくて。」
 荒神野原が茶化すように言う。
「うるせぇ。今、回想中だから黙って聞いてろ。」

 自分の”性感知能力セックスセンス“を信じ、全てを託した子が来れない。
 この、ほの昏き混沌とも呼べる絶対的絶望、恐怖は、好きモノ紳士な同志諸君ならわかってくれるだろう。
 俺は電話口を前に、すでに諦めお葬式モードに突入していた。
 しかし、そこで終わらないのがこの手の電話。
『あの、もしよろしかったら、ただいま空いている子が一人いますので、その子はどうでしょう?』
 いかにも人当たりのよさそうな声を発する男性店員。
 だが、俺の目論見は既に打ち破られた。
 今さらそんな悪あがきなどできるものか。
「はい。是非お願いします。」
 俺は即答すると、三十分後に利用予定のホテル名と自分の名前(サトウタケル)を告げ、自宅を後にした。

 ホテルに到着し、部屋へと入る。
 すかさずホテル名と部屋番号をお店に伝え、まったりとベッドの上に腰掛けた。
「……っふぅぅ~~」
 一息ついて、部屋を見渡す。
 あたり一帯に立ち込めるいかがわしい空気。
 部屋に入った際の自動会計システムの案内音声、ゆったりとしつつもどこかギラついている室内灯、お風呂がジャグジーでイルミネーション。
 相も変わらず全てがいやらしい。
 だが、ここでムラムラしてはいけない。
 今回の目的はあくまでも温もり。
 そこにエロが介入する隙など、一切合切ないからだ。
「………。」
 それにしても、予約時間まであと十五分。
 部屋番号を伝えたから、おそらく予定よりは早く来てくれるのだろうが、それにしても最短で五分くらいだろう。
 だからまぁ、七分から十一分ってところか。
 部屋に入ってから、嬢が到着するまでの約十分。
 これほど永遠に近く、永劫に等しく感じる時間は他にない。
 しかし、この待ち時間こそ、デリヘル遊びで最も興奮する時間だろう。
「……あ。」
 そういえば嬢の名前、聞いてなかったな。
 どんな子が来るんだろう?
 そわついた手でスマホを取り出し、店のHPを開く。
 本日出勤している嬢は全員で七人。
 ラッキーセブンだ。
 その中で、この時間に出勤しているのは四人、か。
 幸せだな。
 こまちさんは来れないから、この中から来てくれるのは実質三人に絞れるわけだ。
 一人一人のプロフィールページを開き、誰が来てくれるのかと夢を馳せる。
 まなみさん……紹介欄に人妻と書いてある。
 イヴの夜に、しかも十六時から二十三時まで出勤してる人妻がいてたまるか!
 くみさん……紹介欄にマシュマロボディと書いてある。
 結構ポッチャリ気味の人なんだろうか。……超大好き♡。
「あと、もう一人は……」
 最後に残った嬢の情報を得ようとしたその時、インターホンの音が鳴り響いた。
「⁉」
 心臓と共に飛び跳ねる体。
 来た‼
「は、はーい!」
 ベッドから立ち上がり、一度深く深呼吸。
 それでも収まらない鼓動の高鳴りはもう無視して、足早に玄関へと駆ける。
 部屋のドアは自動ロックなのだが、嬢は入室前にフロントに連絡して、自動ロックを解除してもらっている。
 だから、ノブを回せば必然的にドアは開かれる。
 さぁさぁやってまいりましたよ!
 本日一番の絶頂ポイント!
 今週の山場!
 嬢と対面する直前。
 デリヘル遊びは、ここが一番気持ちいいのだ。
 ゆっくりとノブを回し、ドアを開ける。
 外開きのドアの影から、女性の肩が覗く。
 さぁ!
 さぁさぁ!
「こんばんはー」
 ドアは完全に開き切り、その向こうに待っていた嬢が明るい声であいさつしてくれる。
 まなみさんとも、くみさんとも、勿論こまちさんとも、モザイク越しとは言え明らかに違った雰囲気を醸し出す女性が立っていた。
「あいりです♡」
 ———三人目⁉
 あいりと名乗った嬢は、可愛らしく微笑んでくれた。
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