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第45話「異能力を用いた戦闘訓練と五つの系統」

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  五月十九日(木)十八時九分 真希老獪人間心理専門学校・男子寮

「本当に自慰でエーラが増すとはな……。」
 オナニー後、部屋に戻った俺を見て梶先生が目を丸くした。
「ね? 笑っちゃうっしょ?」
 笑ってるのあなただけですよ、下田先生。
「それで、修行って今度は何をするんですか?」
 下田先生は放っておいて、さっさと修行に入らねば。
 次いつオナニーできるかもわからないんだ。
 二日間みっちりとかいう嫌な単語も聞こえたし。
「さっき下田も言っていたように、貴様には戦う力を身に着けてもらう。」
 梶先生が腕を組む。
「即ち、“性癖スキル”を用いた戦闘訓練だ。」
「“性癖スキル”を用いた戦闘訓練……」
 落ち込んでいたテンションが僅かに上がる。
 ちょっと格好よさそう。
「貴様の”性癖スキル“『独り善がりの絶倫オーバーロード』とやらは、自慰を長期間的に連続して行うための精神的・肉体的な負荷を無視するスタミナ、タフネスを得る能力だという仮説が立っていると聞いている。つまり、身体強化系に属する能力だな。」
「身体強化系?」
 初めて聞く単語だ。
 かっこいいけど。
「なんだ、聞いてないのか?」
 梶先生に振り向かれ、下田先生は片手を広げる。
「神室君、難しい話苦手みたいでさー。パンク寸前だったからその辺の説明は後回しにしてたんだー。」
「まったく、相も変わらず甘い男だ。」
 呆れたように呟く梶先生。
「身体強化系とは、エーラによって使用可能となる”性癖スキル“を分類した系統のうちの一つだ。身体強化系、自然現象系、他者干渉系、物質創造系、超感覚系の五つに分かれている。」
 梶先生が指を広げた手のひらをこちらに向ける。
「貴様の持つ身体強化系は、身体機能や単純なパワー、スピードが“性癖スキル”によって強化される能力のことを指す。」
「へぇー。」
 なんだか強そう。
「呑気な声を上げてる場合じゃないぞ。」
 梶先生が鋭い眼光で睨んでくる。
「これは聞いていると思うが、貴様は万能型に属している。」
 ああ。
 エーラの質を分類する型か。
「この万能型は他二つのタイプに比べて、エーラの総量が極めて少ないという特徴を有している。性欲を発散させる機会、手段が多いからな。」
 梶先生、今度はⅤサイン。
「身体強化系はその単純な能力の仕組みゆえに、直接的なエーラの総量に左右されやすい・・・・・・・・・・・・・・・・・・能力がほとんどだ。戦闘面においてだけ言えば、万能型の身体強化系はハズレとさえ言われることがある。」
「ハズレ……」
 せっかく上がっていたテンションがほんのり下がる。
 そりゃあ、あんまりだぜ。
「そう悲観することもないよー。」
 下田先生が人差し指を立てる。
「ほら、君も散々苦労したでしょー? 君のエーラは傾倒型と比べても異質なほどにその総量が多い。身体強化系能力を駆使するのに、これほどの資質はそうないよー。それに本来、エーラだとか“性癖スキル”だとかを戦闘面での物差しに当てはめるのがおかしい話なんだしねー。」
「その通りだ。」
 梶先生は再びの腕組み。
「貴様は十分戦う力を有している。だが、それはあくまで潜在的資質の問題。引き出せなければただの木偶だ。」
 ただの木偶って……。
 この人さっきからちょくちょく口が悪いぞ。
「身体強化系はやれることは少ないが、しかしその明解さこそが一つの大きな武器にもなり得る。よって、貴様には明後日、我が校の講義が始まるまでに最低限の戦闘能力を身につけてもらう。」
「明後日⁉」
 いくらなんでもそりゃあ無茶が過ぎるだろ。
 こちとら先週まで普通の高校生だった人間だぞ。
 オナニー中毒が普通かどうかは置いといて。
 提示された期限リミットに、不安で頭いっぱい胸いっぱいおっぱいの俺を見て、梶先生が不敵に笑う。
「寝ずの戦闘訓練をこなすのは不安か?」
 寝ずのっつったか今⁉
「だが安心しろ! 貴様の“性癖スキル”はそれに適している! 飲まず食わず寝ずでの活動は三日三晩が限界だと言われている人間だが、貴様はそれを軽く超越するだろう! 否、これこそが貴様の能力の本来の正しい使い方に他ならないのだ!」
 おいおい、どんどん不穏な単語が出てくるぞ。
「下田は甘すぎる。こいつのやり口が、俺はいつも気に食わん。そんなんで大事な生徒が万が一命を落としたらどうするつもりなのだ。」
 「そういうわけで、」梶先生が強く俺を指さす。
「貴様はこれから闘争においてのみ喜びを得られる戦闘兵器に改造してやる。わかったら「はい」か「yes」で返事をしろ。」
「どういうわけでっ⁉」
 どんどん妙なノリへと進んでいる。
 身の危険を感じ、下田先生に救難信号の視線を送る。
 助けてくださいっ!
 目が合うと、下田先生はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、僕は戻るから、あとは頑張ってねー、神室君。」
 片手を上げて背を向ける下田先生の肩に、俺は全身全霊の力をもって掴みかかる。
「待ってくださいよ! 行かないで! 俺、このままだと死んじゃいますよ!」
 やや苦笑気味に振り返る下田先生。
「悪いけど、この訓練はもう彼に一任しちゃってるんだー。今更僕が口出しできることじゃないんだよ。それに、流石にちょっと疲れてきちゃったし、早いところ休みたいんだよねー。」
「俺だって休みたいんですけれどっ⁉」
 信じられないことに、下田先生はそのままさっさと部屋を出て行ってしまった。
 ほんとに信じられねぇ!
「心配するな。」
 入り口を見て呆然と立ち尽くす俺の背後から、息苦しい重圧を感じる。
 振り返った先には、影が差す男の、暴君ともいうべき笑顔が存在していた。
「貴様が死ぬギリギリで休憩をはさんでやる。だから安心して全力で訓練に臨め。改造してやるぞウジ虫め。泣いたり笑ったりできなくしてやる。」
「ひっ」
 ハ、ハートマン軍曹⁉
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