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第4話「視覚を排除した世界に酔いしれる少年の万能感と潜入した二人組」

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 それ・・に気付いたのはたまたまだった。
 たまたま教室から遠い、西階段横のトイレを使って。
 たまたま三ヶ所ある個室の内の真ん中に入り。
 たまたま膝の上で頬杖をついていたら、それ・・は聞こえた。
 以来、俺は定期的にこのトイレを利用している。
 例え次の授業までの制限時間リミットが残り一分であろうとも。
 うんこをしていたら授業に遅れたなどという、屈辱そのものの言い訳を使うことになろうとも。
 全てはそれ・・を聴くために。
 甘美にして淫靡な、時に激しく、時に緩やかに、聴いた瞬間、脳内の全てが消失し、五感の全てが支配されるような、それ・・
 そう、女子の放尿音だ。
 最初に聴いた時は、僅かな予感でしかなかった。
 現実なのか、幻聴なのか。
 空耳ですらあったのかもしれない。
 それでも、俺はその予感を信じたかった。
 そしてそれは、この個室に通うのに十分過ぎる理由であった。
 その後も、俺は隙を見てはこの個室に籠った。
 当然、行けばすぐに聴けるという代物でもなかった。
 だが、それが俺に火を付けた。
 何度も何度も通い続け、何も聴こえず、ただオナニーに耽る日々。
 だが、それでも天は俺を見放さなかった。
 それから数日経った頃。
 ついに、二度目の邂逅。
 そして同時に、予感は確信へと変わった。
 この個室は、どうやら女子の放尿音が聴けるということに。
 他二つの個室では駄目だった。
 この個室で、一定の角度に首を曲げた時にだけ聴こえる天使の福音。神の恵み。
 古い学校だ。
 偶然できた壁の歪みが織りなす奇跡の交響曲かもしれない。
 そんな考察をよそに、その時の俺は必死にちんこをしごいていた。
 三度目に邂逅した時には、僅かな音すら聞き逃さない人智を超越した聴覚を有するまでに至っていた。
 そしてその後も、俺は何度も通い、何度も神の恵みにあやかってきた。
 そして今日、もはや数え切れぬ程聴いてきた、しかし飽きることなく俺の脳髄を刺激してきたそれ・・に、俺は巡り合えてる!
 この興奮!
 この快感!
 何度味わってもやめられねぇ!
 俺の右手は、わざわざ脳から電気信号など送らずとも、我が愚息を力強く握りしめ、激しく上下運動を行っていた。
 我が愚息もその喜びに打ち震え、感涙を溢れさせている。
 もはや誰にも俺は止められねぇ!
 ……と、言いたいところだが、これで俺の勝利が決したわけではない。
 その証拠に、壁の向こうからは激しい流水音が聞こえてくる。
 まだ青かった昔の俺は、この音こそが放尿音であると信じて疑わなかった。
 だが、研ぎ澄まされた俺の聴覚は、この音こそがフェイクであると告げていた。
 そう、この音の正体は、放尿音を誤魔化す為に作られたトイレの機能そのものだ。
 よぉーく聴いていれば、この音が放尿音と違うということは、火を見るよりも明らかになるだろう。
 この音は、時間にして僅か十数秒もの間流れ続ける。
 だが、場合によっては、この音が流れている間に、相手が尿を出し切ってしまうのだ。
 その原因は、その時々に様々で、相手の元々の体質だったり、その時の体調だったりするのだろう。
 だから、気を抜いてはならない。
 一番恐れているのは、この悦びが単なるぬか喜びになってしまうということだ。
 放尿音が確実に聴けると思ったままちんこを扱き続け、あろうことか聴けませんでしたじゃあ、その後の授業に響いてしまう。
 だったら、初めから期待などしない方がいい。
 ……そうは思っても。
 期待しちゃうんだなぁこれが。
 トイレの機能音が流れる待ち時間(通称、刹那の永劫)の間も、俺の右手は止まることを知らなかった。
 むしろ、もう果ててしまいそうな勢いで愚息を扱き上げる。
 はっきり言って気持ちいい。
 だが、それでも耐えねばならない。
 この後の更なる快楽の為に。
 たとえそれが、致命的なリスクを孕んでいようとも。
 それでも俺は、この賭けに乗るしかないのだ。
 我が悦楽の為に!
 永き機能音も、ついに終わりを告げた。
 この賭けに俺は勝てるのか負けるのか。
 その結果は!

 ……ショアァーッ。チョロロー…チョロッ…チョッ…。

「!」
 勝った!
 俺は勝ったぞ!
 ふはははははははは!
 俺の右手のせがれいじりが加速した。
 この音は誰の音だ⁉
 隣のクラスの西野さんか⁉
 いや、きっとそうだ!
 西野さんに違いない!
 ショートボブの似合う可憐な少女、西野さん!
 清楚な見た目のくせに、なんて激しい音を出して放尿するんだあの子は!
 脳内には、トイレで用を足す西野さんの姿が、まるで今目の前にいるかのように鮮明に映っていた。
 和式トイレに跨り、頬を紅潮させ、少し力む西野さん。
 すると、少し遅れたタイミングで尿が放出される。
 こんなの……、こんなのっ……!
 我慢できねぇよっ!
 俺の左手が、ベストなタイミングでトイレットペーパーを引っ張り出し、ムスコの前で構える。
 俺のムスコから放たれた大量の息子たちが、トイレットペーパーに抱かれるように包まれていった。
「はぁーっ…はぁーっ…」
 静寂の中、壁越しにトイレの流水音のみが聞こえる。
「何やってんだろ、俺。」
 西野さんの用便、オカズにオナニーとか、底辺もいいところだろ。
 いや、そもそも西野さんかもわかんねぇし。
 俺が激しい賢者タイムに襲われていると、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
「やべっ。急いで戻らねぇと。」
 俺はあらかじめ持ってきていた、小型8×●を手とズボンに吹きかけて入念に臭い消しを行うと、早足で教室へと向かった。



神室秀青がトイレから出た後、少し遅れて隣の個室から嵐山楓が姿を現した。
「……あのエーラ・・・…、やっぱりあいつで間違いないみたいだな。」
 彼も、神室秀青の後を追うように教室へと向かう。
 そしてさらにその後。
 もう反対隣の個室から、フードを被った二人の男女が出てきた。
 男はフードの位置を直す。
「くそっ。奴ら、もう『鍵』に接近してやがる。どうするよ?」
 女は男から距離を取り、
「とりあえず近寄らないで。臭いしキモいし汚い。」
「いい加減泣くぞっ!」
 男のツッコミがトイレ内に反響した。
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