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酒呑童子編
酒呑童子
しおりを挟む「化け物と聞いて、其方は何を思い浮かべる?」
ぱらり
白く細い指が、古びた書物をめくる。
人ならざるものについて書かれた書物ならば、沢山ある。
鬼、天狗、人魚、河童。年経た器物は手足を生やし、百鬼夜行が道を行く。しゃれこうべは唄い、狐は人に化け、見上げた先には天突く高さの入道が佇む。
古来、この国で化け物話が絶えた事はない。
彼等は人の暮らしに寄り添い、人を脅かし、時には取って喰らい……そして、時には人の友となり伴侶となる。
約束を交わし、恩を返し、頼み事をし、まるで人のように人を愛し、人を守る。
「ならば化け物とは……一体、何であろうな」
はらり、はらりと再び書物がめくられ、ある所で止まった。
艶やかな黒髪を物憂げにかき揚げ、長い睫毛の下の何処までも黒い瞳が紙面の文字を追い、紅い唇から、ほうと吐息を洩らし、彼女は呟く。
「一つ、其方にある物語を語ろう。しかし……これだけは知っておいて欲しい。彼等についての話は、決してただの作り事ではない。彼等は確かに存在し……そして、この世に間違いなく棲んでいるのだと言うことを……そう、私がここに在るのと同じように」
──今も、なお。
「おや、少し話が逸れてしまったね……さて其方は酒呑童子と言う鬼の話を知っているかね」
昔々、若君や姫君が次々と神隠しに遭う事件が続いた。安倍晴明が占えば大江山に住む鬼、酒呑童子の仕業とわかった。鬼は誘拐してきた者達を側に仕えさせたり、刀で切って生のまま喰ったりした。あまりにも悪行を働くので、帝は源頼光らを討伐に向かわせた。彼等は山伏を装い鬼の根城を訪ね、一夜の宿をとらせて欲しいと頼んだ。しかし鬼も馬鹿じゃない、自分を成敗しにくる者がいると情報をつかんでいたので警戒し様々な詰問をした。彼等は姫君の血の酒や人肉を共に食べ安心させ、何とか疑いを晴らした後、鬼と酒を酌み交わす。しかし彼等は鬼に菩薩から与えられた『神変奇特酒』と言う毒酒を振る舞い、身体が動かなくなった頃笈に背負っていた武具で身を固め酒呑童子の寝所を襲い、身体を押さえつけると首をはねた。騙し討ちに遭うも生首はなおも頼光の兜を噛み付きにかかったが、仲間の兜も重ねて被っていたため難を逃れた。一行は首級を持ち帰り凱旋。首は検分されたのち宝蔵に納められた。
「そう、これが一般的に知られている話だ。しかし、私はこの話の続きを知っている……と言っても友人殿から直接聞いた話なのだがね」
これは、今を遡ること**年近く前の話。
あるところに菊月と言う神に仕える巫女の一族がおった。巫女はそれぞれ神より授かりし力をその身に宿していた。あるものは神の姿を視る目を、あるものは神の声を聞く耳を、あるものは神の言葉を代弁する口を与えられていた。神より力を与えられた巫女達は、なかなか人の世に干渉する事が出来ない神の代わりに人々を悪しきものから守る結界をその身を削りながら張り続けた。そのため巫女は短命の一族と言われる一方、唯一神降ろしが出来る穢れなき一族とも言われていた。
そんな一族からある時、力無き者が産まれた。
娘は、神の姿を、声を、感じることすら出来なかった。神に見棄てられし巫女、心の穢れた娘と一族は囃し立て、穢れは祓うべきだと言ったが娘は命乞いをした。そして穢れた娘を疎んでいた両親は、力を持つかわいい娘の方が短命で生涯終える事を良しとは思っていなかった。斯くして穢れた子と一族に言われた娘は、力を持つ姉の代わりに結界を張るよう仰せ付かった。
この時、誰もが娘は大人しく結界を張ると思っていた。
しかしこの娘、強かな人物であった。
自分の神社の宝蔵に鬼の首が納められていると知っていた娘は、首を探しだし、神に供えるようにと持たされた御神酒を鬼の首に捧げた。
御神酒の力を得て永い眠りから目覚めた鬼を見て──娘は一目で恋に落ちた。
自由を求めた娘は、身体を求める鬼の首を携えて忽然と姿を消した。
後に過ちに気付いた一族が、神に行方を告げてもらおうと頼み込むが、神は同じ人の子であったにも関わらず差別したとして力を貸さず、其処か暫くの間姿すら現さなくなったという。
「──さて、今回はここまでにしておこうか。何……続きが気になる?娘と鬼の首が何処へ行ったかって……私にも仕事が在るのだよ。其方ばかりに感ける隙はな──おっと失礼、友人殿から便りが届いた。では、私は是に由りて席を外させて貰おうか……」
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