黄昏に縋るは妖異の闇夜

影臣

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 酒呑童子編

 捜し物

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飛燕は火車である。
しかし火車は衰退の一歩を辿っていた。
一族の繁栄の為、どうしても必要なものがあった。

それはとある名簿帳。

漸く掴んだ情報のありか、一族を救う一筋の光。
噂話に惑わされたからこの場にいるのではない。飛燕がここに来たのには一つの確証があった。東西南北、四方を護る四神に遣える四巨頭。中でも西を司る者達の仕事は罪人を取り締まること。しかし彼等は周りから罪深き者達と揶揄されていた。それは西を司る者達が過去、何かしらの罪を起こした罪人達の集まりで成り立った組織であるからこそ囁かれ続ける悪名。

例に挙げるなら妖怪の世界でも名が知れ渡った罪人は配下の一人、女郎蜘蛛の月島紅蓮──同じく妖怪の世界で名が知れ渡たっている土蜘蛛、八尋紫紺の実の妹。兄の紫紺が自分を捨てて出ていった旦那に似た容姿をしていたことから母親が息子を愛した旦那の面影と重ね、母親に眼をつけられた紫紺は日常的に不平不満をぶつけられ、その行為は次第にエスカレートしていき、ついに刃物を構えた母親に殺されかけた兄を守るため母親に手をかけた母親殺しの罪を持つ妹。紫紺は紅蓮が罰せられないようにと、娘が生まれなかった女郎蜘蛛一族に養女として出すことで、土蜘蛛一族に目をつけられないようにと逃がした。養女に出されたため兄と名前が違うが、この界隈では彼等が兄妹だと誰もが知っている。

(まあ、その話は隅に置いといて……罪人が罪人を裁く組織であるからこそ、罪人が取り扱っている名簿がここにある可能性が高いわ)

薄暗い床下の収納。もちろんそこに仕舞われているのは書物だけではない。年代物の酒瓶の数々、色鮮やかな反物、値の張りそうな調度品の品々……手当たり次第に探しても時間を無駄にするだけ。

(あの鬼面を引き留めて手伝わせるべきだったかしら……いいえ、ちがうわ。これは我が一族の悲願であり、誰にも知られてはいけない弱味でもあるの。他者を巻き込まず、身内だけでカタをつける。これでよかったのよ)

自分にそういい聞かせながら飛燕は再度辺りを見回した。一説では火車は猫の姿を取るとも言われており、その特徴は夜目がきく猫の目として表れてもいた。その為、明かりがなくても何処に何が置かれているのか飛燕は把握できていたが、パッと見てこれだと自信をもって言える例の捜し物の在りかはサッパリであった。

(仕方ない、最後の手段だ)

書物や酒瓶など引火してしまう恐れのある品々があり、通常なら火気厳禁であるだろうこの場所。しかし飛燕は躊躇うことなく明かりを点した。火車が纏う炎は全てを呑み込み燃やし尽くすただの炎ではない。草木すら燃やさない慈悲の炎、罪を嗅ぎ取り悪しき死者のみを呑み込む特殊な炎だ。

(例のモノが分かりやすく光り輝いてくれてたら良かったんだけど……)

そんな都合のいい事が簡単に起こる様子もなく──眼前に広がるはただの暗闇。

(ん?)

だが、微かな違和感があった。

炎に照らされたことで始めて視界に捉える事ができた黒い霧。霧の一部に触れた炎は絡め取るようにうねり、燃え上がるように火の粉を散らした。もしやと思い霧が流れてきているであろう風上を目指し、火車特有の目を活用し暗闇を突き進めば、ねっとりと纏わり付くような薄気味悪い霧を放出し続けている本棚があった。

(見覚えがあるわ……仕事でよく見るもの)

嘘で塗り固めた人間達が纏うもので、火車達はこれを隠しきれぬ悪事の塊と認識している。

(──これかもしれない)

試しに一冊手に取って適当なページを開いてみれば、過去に悲惨な無差別殺人を引き起こした人間の罪人の名前が記載されていた。確証を得るため更に並べられていた書物の中の一冊を抜き取り、内容を改めていく。

(政治家、官僚、夫婦、妊婦、老人、子供──これは人間の罪人。戦争、戦車、銃、科学、核──これは兵器を使った罪ね)

様々な分類のページを捲り続けていた時、飛燕の目線があるページに釘付けになった。

(この名前……どうしてあの者の名が記載されているの!?)

それはこの名簿にはとても相応しくない……今もこの館内の何処かで催し物に参加しているであろうとある人物の名前だった。

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