黄昏に縋るは妖異の闇夜

影臣

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 酒呑童子編

 白紙

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初代菊月家家系図一覧表

菊月真紀子
菊月秀水
菊月茂

菊月波奈代
菊月文枝

         ・・・・・

「おかしい」

結論から言えば、文月──菊月一族を見捨て、村を危機に晒した裏切り者の巫女──を調べてみれば何もなかった。

「不自然やわ」

文月汐莉の出生を辿る手掛かりも、元菊月一族の文月早苗の名も見当たらない。それらしき書物を見つけても白紙、状態が良いものでも先程のように不自然な余白が見られるだけ。本当に何もない。揉み消す為に意図的に消されたのか、守る為にわざと書き込まれなかったのか。

(気味が悪いな)

それに比べて本家の方は簡単に情報が集まった。


         ・・・・・

菊月一族は役目を放棄し逃げ出した巫女の捜索に追っ手を放った。小娘の足ではそう遠くまで言っていないと推測したからだ。しかし、いくら探しても見付かりはしなかった。痺れを切らした両親は神へ捜索に手を貸してもらうよう頼み込んだ。だが、神が温情を与えることはなかった。何故かと理由を問えば、慈しみ愛を与えなかったからだと理由を告げた。

逃げた巫女こそが神の役目を果すただ一人の子であったのに、神が欲した唯一の依代であったのに。

神々は器を持たぬとある神のために捧げる器として器の巫女をこの世に作り出したと言った。耳や目しか持てない軟弱なお前たちに比べ、あの子は全てを兼ね備えた子で合ったのだと。神をその身に宿し降臨ても正気を保つことができる丈夫な器であったと。

神は罰として菊月一族から女児が産まれぬように手を加えた。

一族はその御告げに戦慄いた。
菊月には他より女児が産まれやすい傾向があった。それは、巫女になれる清らかな女児しか神の意向を汲み取ることが出来ないから。稀に男児が産まれても、女児ばかり産まれやすい家系の娘を娶ることで少しでも、女児が産まれる確率を高めてきたがための成果でもあった。

神は言った──男児であれ、子が産まれる事に代わりはない。不妊にする事も出来たが、それをしなかったのだ。今後を見直し、行いを改めろ。

こうして我等だけが神の言葉が聞けると過信し、傲慢になりつつあった一族に天罰が下されたのだ。

         ・・・・・


「ただいま真珠、戻ったよ」
「お帰り狗、情報屋は何て」

聞き慣れた朗らかな声を聞き、目を通していた書物から視線を外せば狼の姿をとった狗が窓枠に足をかけ、室内に入ってくるところだった。時間の猶予がないと分かっていた真朱は数多くの書物が集まる図書館や古本屋を巡り、巫女一族の消息を辿った。狗には、この地域を根城にしている情報屋の元へ汐莉の事を探りに行かせた。

「それがさぁ、頭は出払っててさ。だから、御弟子さん?弟さん?が代わりに探ってくれたんだけど~駄目だった。名前を出したら余所者リストに挙がってたし、痕跡もあるし、彼処の家の子かってなって、すぐ見つかると思ったんだけど。聞き込みしても存ぜぬで。実際会ったんだからいるはずなのに探ってみたら何処にも存在してないって。矛盾だらけだった」

たった一人、然れど一人。脅しておいたからと油断して目を離し、自由を与えた隙に雲隠れ。その道のプロに頼んでもお手上げ。

(──既に死んだか。いや、あれ程の妖気を纏ってたんや。妖怪に目をつけられても殺すのは惜しぃ、神隠しの可能性も捨てきれんな)

「真朱様、お困りならば何かお手伝いましょうか」

水をさす様な問い掛けに真朱はこの場にいるのが自分達だけでない事を思い出した。二人きりではないと、壁際にひっそりと佇む小間使いの存在を失念していた。顔は見えずとも、河童面の向こう側から何をしてるのだと探りを入れるような視線を感じる。

しかし、勘づかれてはいけない。これが首へと繋がる手掛かりではなく、復讐に繋がる手掛かりであると。

「ええ、私は狗しか信用してへんから」
「そうだ、そうだ。部外者が口挟むな」
「……そうですか」

たった二人でやって来たんだ。漸くここまで来たんだ。認知してもらえなかったから不幸だった。認知してもらえなかったから誰にも気付かれずにここまで潜り込むことが出来た。

これ復讐は幸せを手にするために必要なことなのだ。

「真朱様」
「まだ何か」
「そろそろお時間で御座います。帰る支度を」

(……また、なのか?)

血眼になり情報を集めても、どれだけ足掻いて欠片手掛かりを振り当てても、積み重ねて原型復讐が見えてきても、あと一歩の所で砂のように掌から零れ落ちていく。


──嗚呼、此れではまた、復讐の機会が遠退く。



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