黄昏に縋るは妖異の闇夜

影臣

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 酒呑童子編

 山吹

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この屋敷内は不可思議だ。

訪れた始めに与えられた情報は、この館を訪れた人物達の名前と人数だ。全員が時間を示し合わせて館へ訪れた訳ではないため、同じ参加者でも相手の顔すら知らない。

次に与えられたのは、目当てとなる首の在りかを示した紙切れ一枚と、身の回りの世話をするよう配下から指示された一人の小間使い。専属の小間使いと差し出されたが顔を面で隠されていて表情すら窺えない。一人で何でもこなせるのにも関わらず、着いていくと喚くしつこい従者は面倒だからと撒いてきたので、正直あてがわれた顔の見えない女の小間使いは当たりを引いた方だと思う。招かれた者しか通さないと説明を受けた時、女を連れ込めないなと憂鬱になったが、運に見放されてはいなかった。奴がいない分、少しは遊べるだろうと考えると胸が弾んだ。

参加して気付いたのは誰とも擦れ違わない異常性かな。この場にいるのは催し物の為に屋敷へ招かれた四名の参加者、それぞれの参加者に付けられた四名の小間使い、主を支える五名の配下達、西を司る者である鬼童丸……広い屋敷内、溢れかえるほどいないと分かってはいるが、廊下に出ても誰一人とも擦れ違わない。言い加えるなら気配はするが、人影一つ無いのだ。

(しかし、用件を伝えておけばその時間帯だけ姿を確認できる)

気味が悪いくらい徹底的に管理されている。

「あ、いたいた。見つけたよ」

そんな管理体制を逆に利用し、壁に寄りかかり待ち伏せしていれば、視界の端に目当てのものを見つけた。気配を消して忍び寄るように背後から近付くと、飛び付くように抱き着き己がかいなに閉じ込めた。

「ひゃっ!」
「今日こそ名前教えてよ、狐面♪」
「断固拒否でお願いします!」

突然抱き着かれ身動きができなくなった為、何事かと身を竦めていた狐面であったが、からかわれていると判断したのか纏わり付いてきた人物を瞬時に引き剥がした。
そう、山吹の目当ては既に首探しからかけ離れていた。今の楽しみは自分にあてがわれた専属の小間使い、狐面の彼女に会うことだった。

「おや、洗剤や石鹸のような独特な香りが衣類から漂ってくるからついさっきまで洗い物でもしてたのかな?それとも、微かに甘い匂いも紛れてるから何か菓子でも摘まんだのかな?導き出される可能性の一つなら……もしかして休憩時間だった?」
「──確かに小腹がすいたので皆で菓子パンをつついたあと、紅茶を飲んだ際に使用したティーカップを私が洗いましたが……相変わらず気持ち悪い洞察力ですね」
「それほどでも」
「誉めてません!あ、どさくさに紛れて抱きつこうとしないでください!」

辛口な嫌みを笑って受け流し、彼女の視界に写らないようにと腕を伸ばしたつもりなのだがあっさり叩き落とされてしまった。

「困ります!」
「えー良いじゃん。君みたいな可愛い子と少しでも御近づきになりたいんだよ」
「面をつけているので可愛さなど分からぬと思いますが」
「所作とかと一緒さ。可愛さってのは滲み出るものだよ」

豊満に育った胸元、服越しでもわかるきゅっと絞られた括れ、ムッチリとした腰回り──顔が見えなくとも体つきから良し悪しが大体は分かるものだと考えながら、山吹は狐面の身体を舐め回すように見た。

(それに此処では招かれる客人の出入りも使用人の数や行動が限られているから、多くの女を侍らせることも出来ない。だが、この屋敷内でなら断然彼女が良い)

「退いて下さい。急いでますので」

(だけど、真面目すぎて仕事と割りきってるから多少無理矢理でも意識してもらわないと困るな)

「他の小間使いもいるんだから、彼らに任せればいい──君らの中に優秀な奴がいただろ?それに君は俺の小間使いだと記憶してるけど?」
「……ッ、それでも私にしかできない仕事もあるので……」
「俺を支えるのは君にしか出来ない仕事なんだけど、なっ」
「っ、あっ」

口ごもった時、隙をついて腰を抱き寄せ距離を積めた。相手が驚いて抗う間もない早さで唇を寄せ、言葉の続きを呑み込んだ。

「っ……ん……ん……っ……」
「──ねえ、もっと楽しいことしない?」

そう言いながら、強く唇を押し付ける。呼吸ごと奪い取るような激しさで、皮膚を引き剥がす程の勢いで狂おしい程唇を求めた。

「やぁ……ゃめ」
「素直になろうよ……ね」
「ん、ふぁっ……あ、だ……めっ」
「ほら……ん」

快楽に溺れてしまえばいいものを──無駄な抵抗を続ける狐面の小間使いの腰に回す手に力を込め、角度を変えては隙間がないくらいピッタリと唇を重ね、逃がさないように奥へ引っ込む舌を絡め取り、呼吸を乱し思考を奪い、ゆっくりと時間をかけて山吹は口説いていた。

「もう、探したよ狐面の!この時間は猿渡様の手伝いにいく予定でしょ」

──要らぬ邪魔が入るまでは。

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