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悪役令嬢は女忍者3
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「殿下はお先にお帰りください」
アリーシアはシリウスにきっぱり告げた。彼女の体は男らの去った方を向いている。
シリウスの顔色が変わった。
「おい。どこに行くつもりだ? 」
「あの男らを締め上げに。彼らは小悪党のようですわ。雇い主を引っ張り出さなければ」
たかだか元平民の公爵令嬢が太刀打ち出来る相手ではない。ましてや、一日中屋敷に篭り、刺繍だのワルツだのしか習っていない小娘になど。
しかも傭兵崩れを小悪党などと。
「危ない。深入りするな」
何が彼女を自信満々にさせているのかわからないシリウスは、引き止めて当然。
「そうでなければ、殿下か私の命がこの先も狙われましてよ。今、断たなければ」
女忍者として覚醒したアイリーン。前世はもっと厄介な者らを相手にしていた。修行によってかなりの術は身につけている。里の下忍らを負かせることも多かった。
そのようなことを、シリウスは知るはずがない。
アイリーンのあまりの変わりように目を白黒させる。
アイリーンはシリウスを放って男らを追った。
幾ら元傭兵といえど、所詮は考えなしの、腕力しか自慢出来ない輩ばかり。知恵を働かせれば、容易い。
それまではシリウスの身を守らなければならないと気を張っていたから、あまり動けなかったが。
シリウスから追っ手の目が背けられた今がチャンスだ。
アイリーンはすぐさま男らを追いかけた。
戦いに卑怯も何もない。
騎士道精神など、所詮はお遊びの延長でしかない。
殺るか、殺られるか。
その選択しかない現状では、いかに己が優位に立つかが重要だ。
足音も立てずに彼の背後に忍び寄ったアイリーンは、一番最後を走るやや小太りの男の背に回った。腕力には自信はありそうだが、脚力に関しては他の者より劣っている。
アイリーンは素早くその延髄に手刀を入れた。
一瞬の衝撃で意識を手放した男は、どすん、と倒れ込む。
アイリーンはすぐさま脇の雑草に身を隠した。
「おい、何やってる! こんなところで転ぶなよ! 」
小太りのすぐ前を走っていた兄貴分らしき男は、彼が石にでもつまづいて前のめりに転んだと思っているようだ。
振り返って怒鳴っても、気絶しているのだから反応はしない。
なかなか起き上がろうとしない弟分にいらいらしながら、彼はくるりと身を翻し、巨体を起こしてやるため腕を引いた。
その背を、アイリーンは取った。
男がぞくり、と背筋に震えを走らせたときには、すでに頭がくらくらして、目の前が暗転していたのだ。
それは一瞬の隙を突かれた失態だった。
またもやアイリーンは、男の首にやや強めに手刀を放った。
彼女の目の前で、地響きが起こり、二人目も呆気なく意識を失った。
「は、速い! 」
追いかけたシリウスは、彼女の姿がようやく見てとれた場所で、信じがたい光景を目にして呆然と立ち尽くした。
王宮の騎士とは比べ物にならないほどの動きだ。
無駄がまるでない。
戦争を知らない世代であるため、闘うのは年に一度の武術大会のときのみ。それもルールに則った品行方正なもの。
実戦とは、まさにこのこと。そんな戦い方を目の当たりにし、しかもそれが脆弱な婚約者が繰り出したことに、かなりのショックを受けている。
シリウスはむしろ、ひ弱いアイリーンを見下していた節がある。遠乗りの際、ついて来ることに難儀しているのをわかっていながらアイリーンにまるで配慮のないことが証だ。
そのアイリーンの秘められた力に、酷くプライドが傷つけられてしまったらしい。
「あっと言う間に、確実に急所を」
それだけ言うのがやっとのように、声が掠れている。
「殺したのか? 」
「気を失っているだけですわ。殿下、その服のロープで、この者達の手足を縛り付けていただけますか? 」
てきぱきと指示を出す。
アイリーンは服の切れ端のロープを適度な長さに切り落として持参していた。手足を縛り上げるには充分だ。
シリウスは命じられるまま、黙々と屈強な男を縛った。
「よくも、やってくれたな! 」
不意に野太い声が振動した。
主格の男が仁王立ちでハアハアと肩を上下させていた。
仲間二人がなかなか追いついて来ないので、引き返してきたようだ。
男は縛り上げられた仲間達を見るなり憤怒し、ギロリとアイリーンを睨みつけた。
シリウスではなく、アイリーンを。
元傭兵のこの男は、大層、腕が立つのだろう。
アイリーンの殺気を見事に読んだ。
「よくも! 小娘の分際で! 」
男は刃渡二十センチはあるナイフの刃先をアイリーンに向ける。その目は血走り、追い込まれた獣のごとく唸り声を上げた。
「アイリーン! 」
その異様な空気を察知し、思わずシリウスが名を呼んだ。
だが、アイリーンはそれには一切反応せず、男を見据えた。
アイリーンは剣を携えてはいない。
しかし、相手を素手で倒せる算段はあった。
さすが戦場を経験しているだけあって、物凄い覇気だ。しかし、それだけだ。男の動きには無駄が多い。力でそれを誤魔化している。
男もそこのところは理解はしている。
そして、アリーシアの秘められた力にも。
「く、くそ! 自白を強要する気か! 」
男は悔し紛れに怒鳴った。
「こうなったら、自白を阻止する薬を! 」
男の声に、気絶していた二人がハッと目を覚ます。
「ぐう! 」
「うあ! 」
「ごほ! 」
いきなり三人同時に血を吐いた。
三人はたちまち白目を剥き、その場に倒れ伏す。
「ま、まあ! 」
アリーシアは唐突な出来事に目を見開き、まさか、と主格の男に近寄った。
血液が口いっぱいに溜まっている。
アリーシアはそれに鼻を寄せて匂いを確かめた。ぷん、と血生臭さに混じって薬の匂いがする。
「この者達が口を割らないよう、予め奥歯の詰め物に毒を仕込ませたのでしょう。自白を強要されたときの拒絶薬とか何とか騙して」
アリーシアは冷静に分析した。
この男らを雇った人物は、最初から口封じをするつもりだったようだ。奥歯の詰め物はいづれ時間が経てば溶け出していただろう。シリウスの首を取ろうが取るまいが。
忍びなら良くある話だ。
所詮は使い捨て。利用価値がないと判断すれば、いつ、手の平を返されるかわからない。
それを承知で忍びは多額の報酬を得る。
雇う者と雇われる者。互いにあるのは、そんな冷ややかなものだ。
「何と卑劣なことを! 」
シリウスは端正な顔をこの上なく歪め、憤怒した。
騎士道精神で剣を持つ彼には、考えられない話だ。
アリーシアはシリウスにきっぱり告げた。彼女の体は男らの去った方を向いている。
シリウスの顔色が変わった。
「おい。どこに行くつもりだ? 」
「あの男らを締め上げに。彼らは小悪党のようですわ。雇い主を引っ張り出さなければ」
たかだか元平民の公爵令嬢が太刀打ち出来る相手ではない。ましてや、一日中屋敷に篭り、刺繍だのワルツだのしか習っていない小娘になど。
しかも傭兵崩れを小悪党などと。
「危ない。深入りするな」
何が彼女を自信満々にさせているのかわからないシリウスは、引き止めて当然。
「そうでなければ、殿下か私の命がこの先も狙われましてよ。今、断たなければ」
女忍者として覚醒したアイリーン。前世はもっと厄介な者らを相手にしていた。修行によってかなりの術は身につけている。里の下忍らを負かせることも多かった。
そのようなことを、シリウスは知るはずがない。
アイリーンのあまりの変わりように目を白黒させる。
アイリーンはシリウスを放って男らを追った。
幾ら元傭兵といえど、所詮は考えなしの、腕力しか自慢出来ない輩ばかり。知恵を働かせれば、容易い。
それまではシリウスの身を守らなければならないと気を張っていたから、あまり動けなかったが。
シリウスから追っ手の目が背けられた今がチャンスだ。
アイリーンはすぐさま男らを追いかけた。
戦いに卑怯も何もない。
騎士道精神など、所詮はお遊びの延長でしかない。
殺るか、殺られるか。
その選択しかない現状では、いかに己が優位に立つかが重要だ。
足音も立てずに彼の背後に忍び寄ったアイリーンは、一番最後を走るやや小太りの男の背に回った。腕力には自信はありそうだが、脚力に関しては他の者より劣っている。
アイリーンは素早くその延髄に手刀を入れた。
一瞬の衝撃で意識を手放した男は、どすん、と倒れ込む。
アイリーンはすぐさま脇の雑草に身を隠した。
「おい、何やってる! こんなところで転ぶなよ! 」
小太りのすぐ前を走っていた兄貴分らしき男は、彼が石にでもつまづいて前のめりに転んだと思っているようだ。
振り返って怒鳴っても、気絶しているのだから反応はしない。
なかなか起き上がろうとしない弟分にいらいらしながら、彼はくるりと身を翻し、巨体を起こしてやるため腕を引いた。
その背を、アイリーンは取った。
男がぞくり、と背筋に震えを走らせたときには、すでに頭がくらくらして、目の前が暗転していたのだ。
それは一瞬の隙を突かれた失態だった。
またもやアイリーンは、男の首にやや強めに手刀を放った。
彼女の目の前で、地響きが起こり、二人目も呆気なく意識を失った。
「は、速い! 」
追いかけたシリウスは、彼女の姿がようやく見てとれた場所で、信じがたい光景を目にして呆然と立ち尽くした。
王宮の騎士とは比べ物にならないほどの動きだ。
無駄がまるでない。
戦争を知らない世代であるため、闘うのは年に一度の武術大会のときのみ。それもルールに則った品行方正なもの。
実戦とは、まさにこのこと。そんな戦い方を目の当たりにし、しかもそれが脆弱な婚約者が繰り出したことに、かなりのショックを受けている。
シリウスはむしろ、ひ弱いアイリーンを見下していた節がある。遠乗りの際、ついて来ることに難儀しているのをわかっていながらアイリーンにまるで配慮のないことが証だ。
そのアイリーンの秘められた力に、酷くプライドが傷つけられてしまったらしい。
「あっと言う間に、確実に急所を」
それだけ言うのがやっとのように、声が掠れている。
「殺したのか? 」
「気を失っているだけですわ。殿下、その服のロープで、この者達の手足を縛り付けていただけますか? 」
てきぱきと指示を出す。
アイリーンは服の切れ端のロープを適度な長さに切り落として持参していた。手足を縛り上げるには充分だ。
シリウスは命じられるまま、黙々と屈強な男を縛った。
「よくも、やってくれたな! 」
不意に野太い声が振動した。
主格の男が仁王立ちでハアハアと肩を上下させていた。
仲間二人がなかなか追いついて来ないので、引き返してきたようだ。
男は縛り上げられた仲間達を見るなり憤怒し、ギロリとアイリーンを睨みつけた。
シリウスではなく、アイリーンを。
元傭兵のこの男は、大層、腕が立つのだろう。
アイリーンの殺気を見事に読んだ。
「よくも! 小娘の分際で! 」
男は刃渡二十センチはあるナイフの刃先をアイリーンに向ける。その目は血走り、追い込まれた獣のごとく唸り声を上げた。
「アイリーン! 」
その異様な空気を察知し、思わずシリウスが名を呼んだ。
だが、アイリーンはそれには一切反応せず、男を見据えた。
アイリーンは剣を携えてはいない。
しかし、相手を素手で倒せる算段はあった。
さすが戦場を経験しているだけあって、物凄い覇気だ。しかし、それだけだ。男の動きには無駄が多い。力でそれを誤魔化している。
男もそこのところは理解はしている。
そして、アリーシアの秘められた力にも。
「く、くそ! 自白を強要する気か! 」
男は悔し紛れに怒鳴った。
「こうなったら、自白を阻止する薬を! 」
男の声に、気絶していた二人がハッと目を覚ます。
「ぐう! 」
「うあ! 」
「ごほ! 」
いきなり三人同時に血を吐いた。
三人はたちまち白目を剥き、その場に倒れ伏す。
「ま、まあ! 」
アリーシアは唐突な出来事に目を見開き、まさか、と主格の男に近寄った。
血液が口いっぱいに溜まっている。
アリーシアはそれに鼻を寄せて匂いを確かめた。ぷん、と血生臭さに混じって薬の匂いがする。
「この者達が口を割らないよう、予め奥歯の詰め物に毒を仕込ませたのでしょう。自白を強要されたときの拒絶薬とか何とか騙して」
アリーシアは冷静に分析した。
この男らを雇った人物は、最初から口封じをするつもりだったようだ。奥歯の詰め物はいづれ時間が経てば溶け出していただろう。シリウスの首を取ろうが取るまいが。
忍びなら良くある話だ。
所詮は使い捨て。利用価値がないと判断すれば、いつ、手の平を返されるかわからない。
それを承知で忍びは多額の報酬を得る。
雇う者と雇われる者。互いにあるのは、そんな冷ややかなものだ。
「何と卑劣なことを! 」
シリウスは端正な顔をこの上なく歪め、憤怒した。
騎士道精神で剣を持つ彼には、考えられない話だ。
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