【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

晴 菜葉

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屋敷の捜索

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 何故、エイベルの親類が屋敷に近寄りたがらないか。
 アリアはその理由がわかった気がする。
 大理石のせいで靴音が響き渡る玄関広間を抜け、アリアは螺旋の階段下まで来た。
 階段下には、ずらりと動物の剥製が並んでいた。
 おそらくエイベル家のいつの時代だかの当主が狩猟で仕留めた獲物だ。
 雄鹿、雄羊、狐、トナカイがガラスの目玉でじっと一点を見つめている。
 壁には頭部の標本がずらりと飾られ、天井からは鷲と鷹の剥製が羽を広げてぶら下がっていた。
 シンと静まり返った空間の中、今にも動き出しそうで何だか不気味だ。
 ルミナスの腕にアリアはしがみついた。
「ガラスが散乱しているから、気をつけたまえ」
 ルミナスは剥製には目も呉れず、靴先に注意を促す。
 吹き抜けの天井には明かり取りの窓が設えてあったが、長年の傷みによりガラスが割れて、床に砕けていた。
「お父様。今、後ろで何か音が」
 確かに鼓膜がパキンとガラスの割る音を捉えた。
「どうせ風の音だ。気にするな」
「でも」
「それよりも、早くジョナサンを探そう。私達はニ階の部屋を見て回ろう。後は一階と外回り。離れの使用人部屋、それから厩舎の中もある。見逃さないよう気をつけてくれ」
「お父様? 誰に話しかけているの? 」
 アリアというよりは、誰かに話しかけているような口調だ。
 だが、この場にはアリアしかいない。
 父の視線は変わらず前を向いている。
 まるで見えない何かに操られているのだろうかと、疑いたくなる。
 アリアは気味が悪くなり、僅かに父と距離を取った。
「独り言だ。それよりも、見落としがないように」
「わかってるわ」
 アリアの心の内を知ってか知らずか。
 父は素っ気なく言ったきり、ずんずんと先を急いだ。
 その間も、パキパキと誰かがガラスを踏み締める音が止まない。
 風の音などではない。
「ねえ。やっぱり誰かいるんじゃない? 」
「アリア。気を散らすな」
「怖いわ」
「アリア。余計なことを考えて、ジョナサンの声を聞き漏らすな」
「わかってるわ」
 苛立ちをまともにぶつけられ、アリアは口を尖らせて渋々頷いた。
 恐る恐る振り返っても、誰の姿もない。
 物恐ろしさに拍車をかけているのが、屋敷の主人の趣味のせいだった。
 廊下にも室内にも、剥製が陳列されている。
 ヘラジカ、ヒョウ、トラ、シマウマ、ライオン。玄関に飾られていた動物よりも珍しい種類だ。
 きっと主人はワインでも嗜みながら、うっとりと戦利品を眺めていたのだろう。
 寝室にまで置いてある。
 ギョロリとした目玉で睨まれながら夜を過ごすなんて。不眠になってしまう。
 身震いしながら、アリアは父にがっしり捕まって一つ一つ部屋を確かめていった。
 背中に明らかな誰かの視線を感じつつ。

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