【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

晴 菜葉

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希望の道筋

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 メラニーに送られてアークライト邸まで戻って来た頃には、正午はとっくに回っている。
「絶対に一人では行動しちゃ駄目よ」
 口酸っぱくメラニーは言い置いて、一旦帰って行った。
 最初は派手で勝ち気な夫の元恋人、次は感じの悪そうな女性、そして恋愛小説好きな無邪気さ、今は姉のように頼り甲斐がある存在。ミス・メラニーは、アリアの中でどんどん変化していく。
 彼女がいなければ、きっと今頃はめそめそと部屋に引き篭もり、自暴自棄になっていたはず。
 エマリーヌの存在も大きい。彼女は、ケイムの捜索に道筋を作ってくれた。警察では情報の引き出しに時間を要したはず。
 一晩中駆けずり回っていた父ルミナスは、玄関に置いたソファに脚を投げ出して、肘掛けに頭を置いてぐったりしていた。常日頃、洒落て身なりを整えている父だが、今はケイム捜索で髭も剃らず、髪の毛もボサボサ。目の下の隈が濃い。
「会食を予定していた相手にも尋ねたが、ジョナサンはそれまでに誰と会う約束をしていたのか。見当もつかない」
 その相手は、定かではないが『セディ』だった。偶然だが、得たものは大きい。
 アリアは早速、半日かけて調べたことを父に伝えた。
「よくぞ、そこまで調べたな」
 父は感心して唸るなり、伸び放題の髭を撫でた。
「偶然が重なったのよ。それから、尊い友情ね」
 社長室を管理するアンダーソン。ミス・メラニーとエマリーヌ。誰か一人でも欠けていたら、情報は未だに手中には入って来なかったはず。
「お父様。お願いがあるの」
「駄目だ、アリア」
「まだ何も言ってないわ」
「お前が動くのは、ここまでだ。後は警察に任せよう」
「私もケイムを捜すわ」
「危険だ。もし、お前に何かあれば」
「じっとしていられないわ」
 もしかしたら、ケイムに辿り着くのは、すぐそこまで来ているかも知れないのに。
 希望が体中の血となって巡り、気持ちが前向きとなったためか、朝からいやにセラフィがおとなしい。あれほど、どんどんと内から蹴り上げてきたというのに。
 セラフィが落ち着いているからこそ、アリアは動きが取りやすい。
「あなた。アリアは私にそっくりよ」
 イザベラがルミナスにエールビールを差し出しながら口を挟んだ。
 母親特有の慈しむ瞳。
 そして彼女は、アリアにかつての自分を重ねている。
 イザベラはかつて、彼女の父の策略に嵌り、拉致されたことがあった。夫のルミナスが捕らえられたと見せかけられて、救出に向かったイザベラが、まんまと罠に掛かったのだ。
 血の繋がりはなくても母娘。
 無鉄砲な性格は同じ。
「そうだな。勝手に居なくなられたら困るしな」
 アリアはイザベラと性格が被るところがある。
 ルミナスはハンサムな顔をくしゃくしゃに歪め、不味そうにビールを飲み干した。


 
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