106 / 123
繋がった殺意
しおりを挟む
「ふうん。ピストルの持ち主ね」
一通りアリアから話を聞いたエマリーヌは、頬に手を当てて首を傾けた。
やはり、情報通のエマリーヌでも、ピストルの持ち主の行方は知らないようだ。
彼女はうんうん唸りながら、何やら考え込んでいる。
「そういえば、亡くなったお爺様が仰ってたわ」
ふと、アリアを見据える。
「お爺様はギャンブルと娼婦に目がなくて。病気で倒れる間際まで、あらゆる賭場と売春宿に顔を出していたの」
石膏像の収集癖といい、かなり豪快な性格だったようだ。
「酔っ払いの戯言程度の話よ」
エマリーヌは前置きをする。
アリアはゴクリと喉を上下させた。
「確か、エイベルの隠し子がラム家の下働きに入っているとか何とか」
「……! 」
ラム家とは、セディの生家だ。
今は爵位を失い、一家は離散したと聞く。
思い出したくもない出来事が脳裏を巡り、アリアはそのときの怒りを沸々と再び滾らせた。
セディの名は、アリアの心に黒い染みとなっている。
そんなラム家と、エイベルが繋がった。
やはり、エマリーヌは警察とは比べ物にならないくらい情報量が豊富だ。アリアの直感は冴えていた。
「確か名前は、イヴリンとか」
「え? 女性? 」
アリアが素っ頓狂な声を上げる。
ピストルを操るのだから、熟練した腕のたつ男性だとばかり。
先入観のままだったなら、絶対に辿り着くことはなかった。
「ええ。お爺様は、母親に瓜二つで、あれは間違いないと」
「男ではなくて? 」
「ええ。まあ。酔っ払いの年寄りだから、話半分に聞いておいて」
エマリーヌ自身も眉唾らしい。
ピストルの持ち主がイヴリンとか言う女性だとわかっただけでも、大きな収穫だ。
「ラム家は爵位返上で、雇われていた者は今は散り散りらしいわよ」
メラニーが口を挟む。
「もし、そのイヴリンとかいう女がラム家と今でも繋がりを持っていたら」
メラニーの仮定に、アリアは息を呑んだ。
だが、すぐさま首を横に振る。
「だけど、セディ様はラム家を勘当されたのよ。ラム家の関係者との接触は一切禁止されているはずよ。まだメイドと繋がっているとは思えないわ」
アークライト家とジョナサン家、加えてアンドレア侯爵夫人からの猛烈な抗議もあり、セディを預かる遠縁の者はピリピリと神経を張り詰めて、セディの動きをかなり封じているらしい。
「ジョナサン卿に恨みを持つのは、セディ様だけとは限らないわ」
ギラリとエマリーヌの目が鋭く光った。
「どういうこと? 」
その、あまりにも物恐ろしい影に、アリアは怯んだ。心なしか声が上擦る。
「考えてもみなさいな。ラム家が爵位返上しなければならなくなった理由を」
エマリーヌは人差し指を立てて、ゆっくりと目線を指先からアリアへと移していく。
そばかすを上手に隠したエマリーヌの顔が不気味なほど固くなっている。
「もしかして、狙われていたのは……私? 」
その表情から全てを読み取り、アリアの頭からすうっと血の気が引いていく。全身の血が一気に下り、一瞬にして目眩を起こす。
「私を傷つけるために、ケイムを攫ったと言うの? 」
ぐらりと傾いた体を、メラニーが受け止めた。
「あくまで私の推測よ」
エマリーヌは申し訳なさそうに呟く。
別にアリアを脅したわけではない。
「そうよ。あなた、推理小説の読み過ぎよ」
メラニーがエマリーヌを睨みつけた。
「そしそうなら、犯人は、セディ様の兄か両親。もしくは使用人てことになるわよ」
怒りつつ、読書家の彼女は探偵さながらエマリーヌの推測に乗った。
「確かセディ様の兄は、弟に輪をかけたスケコマシだとか」
エマリーヌが眉を寄せて、噂話を記憶から引っ張ってくる。
「没落を機に、奥様の方から離縁なさったそうよ」
「愛人も、あっと言う間に離れたようね」
夜会に何度も足を運ぶメラニーも、耳にはしている。
「相当、恨みは根深いかもね」
エマリーヌの憶測は信憑性がある。
アリアは二人の話を聞いて、いよいよ目の前が回転してまともな姿勢を保てず、ぐったりとソファに身を沈めた。
一通りアリアから話を聞いたエマリーヌは、頬に手を当てて首を傾けた。
やはり、情報通のエマリーヌでも、ピストルの持ち主の行方は知らないようだ。
彼女はうんうん唸りながら、何やら考え込んでいる。
「そういえば、亡くなったお爺様が仰ってたわ」
ふと、アリアを見据える。
「お爺様はギャンブルと娼婦に目がなくて。病気で倒れる間際まで、あらゆる賭場と売春宿に顔を出していたの」
石膏像の収集癖といい、かなり豪快な性格だったようだ。
「酔っ払いの戯言程度の話よ」
エマリーヌは前置きをする。
アリアはゴクリと喉を上下させた。
「確か、エイベルの隠し子がラム家の下働きに入っているとか何とか」
「……! 」
ラム家とは、セディの生家だ。
今は爵位を失い、一家は離散したと聞く。
思い出したくもない出来事が脳裏を巡り、アリアはそのときの怒りを沸々と再び滾らせた。
セディの名は、アリアの心に黒い染みとなっている。
そんなラム家と、エイベルが繋がった。
やはり、エマリーヌは警察とは比べ物にならないくらい情報量が豊富だ。アリアの直感は冴えていた。
「確か名前は、イヴリンとか」
「え? 女性? 」
アリアが素っ頓狂な声を上げる。
ピストルを操るのだから、熟練した腕のたつ男性だとばかり。
先入観のままだったなら、絶対に辿り着くことはなかった。
「ええ。お爺様は、母親に瓜二つで、あれは間違いないと」
「男ではなくて? 」
「ええ。まあ。酔っ払いの年寄りだから、話半分に聞いておいて」
エマリーヌ自身も眉唾らしい。
ピストルの持ち主がイヴリンとか言う女性だとわかっただけでも、大きな収穫だ。
「ラム家は爵位返上で、雇われていた者は今は散り散りらしいわよ」
メラニーが口を挟む。
「もし、そのイヴリンとかいう女がラム家と今でも繋がりを持っていたら」
メラニーの仮定に、アリアは息を呑んだ。
だが、すぐさま首を横に振る。
「だけど、セディ様はラム家を勘当されたのよ。ラム家の関係者との接触は一切禁止されているはずよ。まだメイドと繋がっているとは思えないわ」
アークライト家とジョナサン家、加えてアンドレア侯爵夫人からの猛烈な抗議もあり、セディを預かる遠縁の者はピリピリと神経を張り詰めて、セディの動きをかなり封じているらしい。
「ジョナサン卿に恨みを持つのは、セディ様だけとは限らないわ」
ギラリとエマリーヌの目が鋭く光った。
「どういうこと? 」
その、あまりにも物恐ろしい影に、アリアは怯んだ。心なしか声が上擦る。
「考えてもみなさいな。ラム家が爵位返上しなければならなくなった理由を」
エマリーヌは人差し指を立てて、ゆっくりと目線を指先からアリアへと移していく。
そばかすを上手に隠したエマリーヌの顔が不気味なほど固くなっている。
「もしかして、狙われていたのは……私? 」
その表情から全てを読み取り、アリアの頭からすうっと血の気が引いていく。全身の血が一気に下り、一瞬にして目眩を起こす。
「私を傷つけるために、ケイムを攫ったと言うの? 」
ぐらりと傾いた体を、メラニーが受け止めた。
「あくまで私の推測よ」
エマリーヌは申し訳なさそうに呟く。
別にアリアを脅したわけではない。
「そうよ。あなた、推理小説の読み過ぎよ」
メラニーがエマリーヌを睨みつけた。
「そしそうなら、犯人は、セディ様の兄か両親。もしくは使用人てことになるわよ」
怒りつつ、読書家の彼女は探偵さながらエマリーヌの推測に乗った。
「確かセディ様の兄は、弟に輪をかけたスケコマシだとか」
エマリーヌが眉を寄せて、噂話を記憶から引っ張ってくる。
「没落を機に、奥様の方から離縁なさったそうよ」
「愛人も、あっと言う間に離れたようね」
夜会に何度も足を運ぶメラニーも、耳にはしている。
「相当、恨みは根深いかもね」
エマリーヌの憶測は信憑性がある。
アリアは二人の話を聞いて、いよいよ目の前が回転してまともな姿勢を保てず、ぐったりとソファに身を沈めた。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる