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繋がった殺意
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「ふうん。ピストルの持ち主ね」
一通りアリアから話を聞いたエマリーヌは、頬に手を当てて首を傾けた。
やはり、情報通のエマリーヌでも、ピストルの持ち主の行方は知らないようだ。
彼女はうんうん唸りながら、何やら考え込んでいる。
「そういえば、亡くなったお爺様が仰ってたわ」
ふと、アリアを見据える。
「お爺様はギャンブルと娼婦に目がなくて。病気で倒れる間際まで、あらゆる賭場と売春宿に顔を出していたの」
石膏像の収集癖といい、かなり豪快な性格だったようだ。
「酔っ払いの戯言程度の話よ」
エマリーヌは前置きをする。
アリアはゴクリと喉を上下させた。
「確か、エイベルの隠し子がラム家の下働きに入っているとか何とか」
「……! 」
ラム家とは、セディの生家だ。
今は爵位を失い、一家は離散したと聞く。
思い出したくもない出来事が脳裏を巡り、アリアはそのときの怒りを沸々と再び滾らせた。
セディの名は、アリアの心に黒い染みとなっている。
そんなラム家と、エイベルが繋がった。
やはり、エマリーヌは警察とは比べ物にならないくらい情報量が豊富だ。アリアの直感は冴えていた。
「確か名前は、イヴリンとか」
「え? 女性? 」
アリアが素っ頓狂な声を上げる。
ピストルを操るのだから、熟練した腕のたつ男性だとばかり。
先入観のままだったなら、絶対に辿り着くことはなかった。
「ええ。お爺様は、母親に瓜二つで、あれは間違いないと」
「男ではなくて? 」
「ええ。まあ。酔っ払いの年寄りだから、話半分に聞いておいて」
エマリーヌ自身も眉唾らしい。
ピストルの持ち主がイヴリンとか言う女性だとわかっただけでも、大きな収穫だ。
「ラム家は爵位返上で、雇われていた者は今は散り散りらしいわよ」
メラニーが口を挟む。
「もし、そのイヴリンとかいう女がラム家と今でも繋がりを持っていたら」
メラニーの仮定に、アリアは息を呑んだ。
だが、すぐさま首を横に振る。
「だけど、セディ様はラム家を勘当されたのよ。ラム家の関係者との接触は一切禁止されているはずよ。まだメイドと繋がっているとは思えないわ」
アークライト家とジョナサン家、加えてアンドレア侯爵夫人からの猛烈な抗議もあり、セディを預かる遠縁の者はピリピリと神経を張り詰めて、セディの動きをかなり封じているらしい。
「ジョナサン卿に恨みを持つのは、セディ様だけとは限らないわ」
ギラリとエマリーヌの目が鋭く光った。
「どういうこと? 」
その、あまりにも物恐ろしい影に、アリアは怯んだ。心なしか声が上擦る。
「考えてもみなさいな。ラム家が爵位返上しなければならなくなった理由を」
エマリーヌは人差し指を立てて、ゆっくりと目線を指先からアリアへと移していく。
そばかすを上手に隠したエマリーヌの顔が不気味なほど固くなっている。
「もしかして、狙われていたのは……私? 」
その表情から全てを読み取り、アリアの頭からすうっと血の気が引いていく。全身の血が一気に下り、一瞬にして目眩を起こす。
「私を傷つけるために、ケイムを攫ったと言うの? 」
ぐらりと傾いた体を、メラニーが受け止めた。
「あくまで私の推測よ」
エマリーヌは申し訳なさそうに呟く。
別にアリアを脅したわけではない。
「そうよ。あなた、推理小説の読み過ぎよ」
メラニーがエマリーヌを睨みつけた。
「そしそうなら、犯人は、セディ様の兄か両親。もしくは使用人てことになるわよ」
怒りつつ、読書家の彼女は探偵さながらエマリーヌの推測に乗った。
「確かセディ様の兄は、弟に輪をかけたスケコマシだとか」
エマリーヌが眉を寄せて、噂話を記憶から引っ張ってくる。
「没落を機に、奥様の方から離縁なさったそうよ」
「愛人も、あっと言う間に離れたようね」
夜会に何度も足を運ぶメラニーも、耳にはしている。
「相当、恨みは根深いかもね」
エマリーヌの憶測は信憑性がある。
アリアは二人の話を聞いて、いよいよ目の前が回転してまともな姿勢を保てず、ぐったりとソファに身を沈めた。
一通りアリアから話を聞いたエマリーヌは、頬に手を当てて首を傾けた。
やはり、情報通のエマリーヌでも、ピストルの持ち主の行方は知らないようだ。
彼女はうんうん唸りながら、何やら考え込んでいる。
「そういえば、亡くなったお爺様が仰ってたわ」
ふと、アリアを見据える。
「お爺様はギャンブルと娼婦に目がなくて。病気で倒れる間際まで、あらゆる賭場と売春宿に顔を出していたの」
石膏像の収集癖といい、かなり豪快な性格だったようだ。
「酔っ払いの戯言程度の話よ」
エマリーヌは前置きをする。
アリアはゴクリと喉を上下させた。
「確か、エイベルの隠し子がラム家の下働きに入っているとか何とか」
「……! 」
ラム家とは、セディの生家だ。
今は爵位を失い、一家は離散したと聞く。
思い出したくもない出来事が脳裏を巡り、アリアはそのときの怒りを沸々と再び滾らせた。
セディの名は、アリアの心に黒い染みとなっている。
そんなラム家と、エイベルが繋がった。
やはり、エマリーヌは警察とは比べ物にならないくらい情報量が豊富だ。アリアの直感は冴えていた。
「確か名前は、イヴリンとか」
「え? 女性? 」
アリアが素っ頓狂な声を上げる。
ピストルを操るのだから、熟練した腕のたつ男性だとばかり。
先入観のままだったなら、絶対に辿り着くことはなかった。
「ええ。お爺様は、母親に瓜二つで、あれは間違いないと」
「男ではなくて? 」
「ええ。まあ。酔っ払いの年寄りだから、話半分に聞いておいて」
エマリーヌ自身も眉唾らしい。
ピストルの持ち主がイヴリンとか言う女性だとわかっただけでも、大きな収穫だ。
「ラム家は爵位返上で、雇われていた者は今は散り散りらしいわよ」
メラニーが口を挟む。
「もし、そのイヴリンとかいう女がラム家と今でも繋がりを持っていたら」
メラニーの仮定に、アリアは息を呑んだ。
だが、すぐさま首を横に振る。
「だけど、セディ様はラム家を勘当されたのよ。ラム家の関係者との接触は一切禁止されているはずよ。まだメイドと繋がっているとは思えないわ」
アークライト家とジョナサン家、加えてアンドレア侯爵夫人からの猛烈な抗議もあり、セディを預かる遠縁の者はピリピリと神経を張り詰めて、セディの動きをかなり封じているらしい。
「ジョナサン卿に恨みを持つのは、セディ様だけとは限らないわ」
ギラリとエマリーヌの目が鋭く光った。
「どういうこと? 」
その、あまりにも物恐ろしい影に、アリアは怯んだ。心なしか声が上擦る。
「考えてもみなさいな。ラム家が爵位返上しなければならなくなった理由を」
エマリーヌは人差し指を立てて、ゆっくりと目線を指先からアリアへと移していく。
そばかすを上手に隠したエマリーヌの顔が不気味なほど固くなっている。
「もしかして、狙われていたのは……私? 」
その表情から全てを読み取り、アリアの頭からすうっと血の気が引いていく。全身の血が一気に下り、一瞬にして目眩を起こす。
「私を傷つけるために、ケイムを攫ったと言うの? 」
ぐらりと傾いた体を、メラニーが受け止めた。
「あくまで私の推測よ」
エマリーヌは申し訳なさそうに呟く。
別にアリアを脅したわけではない。
「そうよ。あなた、推理小説の読み過ぎよ」
メラニーがエマリーヌを睨みつけた。
「そしそうなら、犯人は、セディ様の兄か両親。もしくは使用人てことになるわよ」
怒りつつ、読書家の彼女は探偵さながらエマリーヌの推測に乗った。
「確かセディ様の兄は、弟に輪をかけたスケコマシだとか」
エマリーヌが眉を寄せて、噂話を記憶から引っ張ってくる。
「没落を機に、奥様の方から離縁なさったそうよ」
「愛人も、あっと言う間に離れたようね」
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「相当、恨みは根深いかもね」
エマリーヌの憶測は信憑性がある。
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