95 / 123
恋愛小説談義
しおりを挟む
ムカムカを抑えるために、アリアはわざとらしく咳払いして、どうにかこうにか気を落ち着かせる。
「それで。小説の感想を伝えるために、わざわざ屋敷にお見えになったの? 」
それでも不満は顔から消えず。
勿論、自分の小説を支援してくれるのはありがたい。
だが、誤解されたままであるのは、不本意だ。
メラニーの言い方は、いかにもアリアがケイムを尻に敷いているようではないか。
当然、メラニーはベッドシーンが実話であることは知らない。単なる感想を述べたに過ぎない。
「それだけじゃないわ」
急にメラニーは立ち上がるや、ツカツカと靴先を響かせてアリアの前で仁王立ちする。
「うちでも書いてほしいのよ」
本題はこれだ。そう言わんばかりの語気。
「きっと、あなたの小説は本国で人気が出るわ。うちの国は今、女性の権威を大々的に訴えてるの。あなたの主人公はきっと風潮にピッタリよ」
「政治的なことに利用されるなら、まっぴらよ」
「違う違う。皆んな、蕩けるようなロマンスを求めてるの」
メラニーは力説する。
「強い女性が一途に男性を愛して、幸せな結末を迎える。最高の恋愛小説じゃない」
「恋愛小説って思ってくれてるの? 本当に? 」
「勿論よ。淫猥なシーンはあくまで恋愛の過程でしょ」
「そう! そうなの! 」
思わず両手でメラニーの右手を握ってしまった。
「ベッドシーンは、あくまで恋愛の段階の一部なの」
「わかる! わかるわ! 」
メラニーも興奮に頬を染めて、アリアの手をもう片方の手で包み込んだ。
「皆んな、セックスばかりに焦点を当てるんだけど」
「見応えあるのは、恋愛して変わっていく主人公の気持ちよね」
「そうなの! 」
「わかるわ! 」
どちらからともなく、浮かれてぴょんぴょんと床を蹴り、跳ね上がる。
二人は同じように目を輝かせ、鼻息荒く、気を昂らせていた。
「ミス・メラニー。あなた、とても素敵な方ね」
「あら? 今頃わかったの? 」
初めて書きたい目的を理解してくれた人物が現れ、感極まってアリアは震えた。
メラニーは得意げにふふんと笑う。
「うちでも書いてくださる? 」
「ええ! 是非! 」
アリアは二つ返事で頷く。
メラニーにすっかり打ち解けていた。
「それならミス・レイチェルに話をつけましょう」
早速、メラニーは算段を始める。
「一刻も早く、あなたの新作を国民に披露したいわ」
メラニーはチャーミングなウィンクを寄越した。
「勿論、『愛と熱情の夜想曲』の続きも楽しみよ」
愛と熱情の夜想曲は、ケイムとの愛の軌跡でもある。
ふと、アリアの眦から大粒の涙が溢れて、みるみるうちに頬を伝っていった。
恋愛小説は、ケイムを想って綴ったものばかり。
彼がいないと成立しない。
「ごめんなさい。何だか張り詰めたものが切れたみたい」
拭えど拭えど、余計に涙が止まらない。
「泣かないで。ジョナサン卿は、きっと見つかるわ」
メラニーはハンカチでアリアの涙を拭うと、辛そうに目を眇めながら励ました。
「それで。小説の感想を伝えるために、わざわざ屋敷にお見えになったの? 」
それでも不満は顔から消えず。
勿論、自分の小説を支援してくれるのはありがたい。
だが、誤解されたままであるのは、不本意だ。
メラニーの言い方は、いかにもアリアがケイムを尻に敷いているようではないか。
当然、メラニーはベッドシーンが実話であることは知らない。単なる感想を述べたに過ぎない。
「それだけじゃないわ」
急にメラニーは立ち上がるや、ツカツカと靴先を響かせてアリアの前で仁王立ちする。
「うちでも書いてほしいのよ」
本題はこれだ。そう言わんばかりの語気。
「きっと、あなたの小説は本国で人気が出るわ。うちの国は今、女性の権威を大々的に訴えてるの。あなたの主人公はきっと風潮にピッタリよ」
「政治的なことに利用されるなら、まっぴらよ」
「違う違う。皆んな、蕩けるようなロマンスを求めてるの」
メラニーは力説する。
「強い女性が一途に男性を愛して、幸せな結末を迎える。最高の恋愛小説じゃない」
「恋愛小説って思ってくれてるの? 本当に? 」
「勿論よ。淫猥なシーンはあくまで恋愛の過程でしょ」
「そう! そうなの! 」
思わず両手でメラニーの右手を握ってしまった。
「ベッドシーンは、あくまで恋愛の段階の一部なの」
「わかる! わかるわ! 」
メラニーも興奮に頬を染めて、アリアの手をもう片方の手で包み込んだ。
「皆んな、セックスばかりに焦点を当てるんだけど」
「見応えあるのは、恋愛して変わっていく主人公の気持ちよね」
「そうなの! 」
「わかるわ! 」
どちらからともなく、浮かれてぴょんぴょんと床を蹴り、跳ね上がる。
二人は同じように目を輝かせ、鼻息荒く、気を昂らせていた。
「ミス・メラニー。あなた、とても素敵な方ね」
「あら? 今頃わかったの? 」
初めて書きたい目的を理解してくれた人物が現れ、感極まってアリアは震えた。
メラニーは得意げにふふんと笑う。
「うちでも書いてくださる? 」
「ええ! 是非! 」
アリアは二つ返事で頷く。
メラニーにすっかり打ち解けていた。
「それならミス・レイチェルに話をつけましょう」
早速、メラニーは算段を始める。
「一刻も早く、あなたの新作を国民に披露したいわ」
メラニーはチャーミングなウィンクを寄越した。
「勿論、『愛と熱情の夜想曲』の続きも楽しみよ」
愛と熱情の夜想曲は、ケイムとの愛の軌跡でもある。
ふと、アリアの眦から大粒の涙が溢れて、みるみるうちに頬を伝っていった。
恋愛小説は、ケイムを想って綴ったものばかり。
彼がいないと成立しない。
「ごめんなさい。何だか張り詰めたものが切れたみたい」
拭えど拭えど、余計に涙が止まらない。
「泣かないで。ジョナサン卿は、きっと見つかるわ」
メラニーはハンカチでアリアの涙を拭うと、辛そうに目を眇めながら励ました。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幼馴染と義弟と元カレ〜誰も私を放してくれない〜
けんゆう
恋愛
彼らの愛は、甘くて、苦しくて、逃げられない。
私は 西原六花《にしはら りっか》。
ただ普通に恋をして、普通に青春を送りたかった――それなのに。
▶ 幼馴染の安原ミチル ――「六花には俺がいれば十分だろ?」
誰かを選べば、誰かが狂う。なら、私はどうすればいいの??
▶ クラスの王子・千田貴翔 ――「君は俺のアクセサリーなんだから、大人しくしててよ。」
▶ 義弟のリオ ――「お姉ちゃん、僕だけを見てくれるよね?」
彼らの愛は歪んでいて、私を束縛し、逃がしてくれない。
でも私は、ただの所有物なんかじゃない――だから、私は自分の未来を選ぶ。
彼らの執着から逃げるのか、それとも愛に変わるのか。
恋愛と執着、束縛と独占欲が交錯する、心理戦×ラブストーリー!
あなたは、どの愛を選びますか?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる