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恋愛小説談義
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ムカムカを抑えるために、アリアはわざとらしく咳払いして、どうにかこうにか気を落ち着かせる。
「それで。小説の感想を伝えるために、わざわざ屋敷にお見えになったの? 」
それでも不満は顔から消えず。
勿論、自分の小説を支援してくれるのはありがたい。
だが、誤解されたままであるのは、不本意だ。
メラニーの言い方は、いかにもアリアがケイムを尻に敷いているようではないか。
当然、メラニーはベッドシーンが実話であることは知らない。単なる感想を述べたに過ぎない。
「それだけじゃないわ」
急にメラニーは立ち上がるや、ツカツカと靴先を響かせてアリアの前で仁王立ちする。
「うちでも書いてほしいのよ」
本題はこれだ。そう言わんばかりの語気。
「きっと、あなたの小説は本国で人気が出るわ。うちの国は今、女性の権威を大々的に訴えてるの。あなたの主人公はきっと風潮にピッタリよ」
「政治的なことに利用されるなら、まっぴらよ」
「違う違う。皆んな、蕩けるようなロマンスを求めてるの」
メラニーは力説する。
「強い女性が一途に男性を愛して、幸せな結末を迎える。最高の恋愛小説じゃない」
「恋愛小説って思ってくれてるの? 本当に? 」
「勿論よ。淫猥なシーンはあくまで恋愛の過程でしょ」
「そう! そうなの! 」
思わず両手でメラニーの右手を握ってしまった。
「ベッドシーンは、あくまで恋愛の段階の一部なの」
「わかる! わかるわ! 」
メラニーも興奮に頬を染めて、アリアの手をもう片方の手で包み込んだ。
「皆んな、セックスばかりに焦点を当てるんだけど」
「見応えあるのは、恋愛して変わっていく主人公の気持ちよね」
「そうなの! 」
「わかるわ! 」
どちらからともなく、浮かれてぴょんぴょんと床を蹴り、跳ね上がる。
二人は同じように目を輝かせ、鼻息荒く、気を昂らせていた。
「ミス・メラニー。あなた、とても素敵な方ね」
「あら? 今頃わかったの? 」
初めて書きたい目的を理解してくれた人物が現れ、感極まってアリアは震えた。
メラニーは得意げにふふんと笑う。
「うちでも書いてくださる? 」
「ええ! 是非! 」
アリアは二つ返事で頷く。
メラニーにすっかり打ち解けていた。
「それならミス・レイチェルに話をつけましょう」
早速、メラニーは算段を始める。
「一刻も早く、あなたの新作を国民に披露したいわ」
メラニーはチャーミングなウィンクを寄越した。
「勿論、『愛と熱情の夜想曲』の続きも楽しみよ」
愛と熱情の夜想曲は、ケイムとの愛の軌跡でもある。
ふと、アリアの眦から大粒の涙が溢れて、みるみるうちに頬を伝っていった。
恋愛小説は、ケイムを想って綴ったものばかり。
彼がいないと成立しない。
「ごめんなさい。何だか張り詰めたものが切れたみたい」
拭えど拭えど、余計に涙が止まらない。
「泣かないで。ジョナサン卿は、きっと見つかるわ」
メラニーはハンカチでアリアの涙を拭うと、辛そうに目を眇めながら励ました。
「それで。小説の感想を伝えるために、わざわざ屋敷にお見えになったの? 」
それでも不満は顔から消えず。
勿論、自分の小説を支援してくれるのはありがたい。
だが、誤解されたままであるのは、不本意だ。
メラニーの言い方は、いかにもアリアがケイムを尻に敷いているようではないか。
当然、メラニーはベッドシーンが実話であることは知らない。単なる感想を述べたに過ぎない。
「それだけじゃないわ」
急にメラニーは立ち上がるや、ツカツカと靴先を響かせてアリアの前で仁王立ちする。
「うちでも書いてほしいのよ」
本題はこれだ。そう言わんばかりの語気。
「きっと、あなたの小説は本国で人気が出るわ。うちの国は今、女性の権威を大々的に訴えてるの。あなたの主人公はきっと風潮にピッタリよ」
「政治的なことに利用されるなら、まっぴらよ」
「違う違う。皆んな、蕩けるようなロマンスを求めてるの」
メラニーは力説する。
「強い女性が一途に男性を愛して、幸せな結末を迎える。最高の恋愛小説じゃない」
「恋愛小説って思ってくれてるの? 本当に? 」
「勿論よ。淫猥なシーンはあくまで恋愛の過程でしょ」
「そう! そうなの! 」
思わず両手でメラニーの右手を握ってしまった。
「ベッドシーンは、あくまで恋愛の段階の一部なの」
「わかる! わかるわ! 」
メラニーも興奮に頬を染めて、アリアの手をもう片方の手で包み込んだ。
「皆んな、セックスばかりに焦点を当てるんだけど」
「見応えあるのは、恋愛して変わっていく主人公の気持ちよね」
「そうなの! 」
「わかるわ! 」
どちらからともなく、浮かれてぴょんぴょんと床を蹴り、跳ね上がる。
二人は同じように目を輝かせ、鼻息荒く、気を昂らせていた。
「ミス・メラニー。あなた、とても素敵な方ね」
「あら? 今頃わかったの? 」
初めて書きたい目的を理解してくれた人物が現れ、感極まってアリアは震えた。
メラニーは得意げにふふんと笑う。
「うちでも書いてくださる? 」
「ええ! 是非! 」
アリアは二つ返事で頷く。
メラニーにすっかり打ち解けていた。
「それならミス・レイチェルに話をつけましょう」
早速、メラニーは算段を始める。
「一刻も早く、あなたの新作を国民に披露したいわ」
メラニーはチャーミングなウィンクを寄越した。
「勿論、『愛と熱情の夜想曲』の続きも楽しみよ」
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ふと、アリアの眦から大粒の涙が溢れて、みるみるうちに頬を伝っていった。
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彼がいないと成立しない。
「ごめんなさい。何だか張り詰めたものが切れたみたい」
拭えど拭えど、余計に涙が止まらない。
「泣かないで。ジョナサン卿は、きっと見つかるわ」
メラニーはハンカチでアリアの涙を拭うと、辛そうに目を眇めながら励ました。
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