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初夜の微睡※
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結婚証明書が発行され、アリアは晴れて『ジョナサン男爵夫人アリア・ローカー』となった。
今夜から、ジョナサン邸がアリアの家だ。
「挙式のドレスはどうする? 慣例通りに赤か? それとも流行の白か? 」
日付の変わった深夜、アリアの首筋に舌を這わせながら、ケイムは尋ねた。
アリアが彼の寝室に入ったのは初めてだ。
彼の寝室は、フットウェル社の社長室をそっくりそのまま移したような仕様だ。
マホガニー製の大きなデスクと、対になる椅子や、三人掛けの革張りのソファは勿論、壁に飾られた絵画は同じ画家で構図違い、敷かれた絨毯は色違い。カーテンに至ってはベルベットの同じ色。
彼曰く、いつでも仕事に取り掛かることが出来るように、とのことらしい。
違いがあるとすれば、やや端に寄せられたマホガニーのベッドくらい。
そのベッドの上で、二人は今、一糸纏わぬ姿でいる。
「医者の許しが出たら、すぐに式を挙げよう」
まだ体調の安定しないうちは、あまり派手なことはしない方が良いと、医者からの忠告だ。
「女王陛下が白いドレスで挙式したから流行してるのよね」
「らしいな」
ケイムは首筋からアリアの腕へ、それから指先へと舌先を下げていく。薬指の指輪に軽く口づけた。
うっとりとアリアは息を吐き出す。
初夜といえど、妊婦に対して無茶は出来ない。
ケイムはそこのところは心得ており、ずっと唇でアリアを官能の縁に揺らめかせている。
何だかアリアの方が我慢がきかなくなりそうだ。
「ねえ、ケイム」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないじゃない」
「言いたいことくらいわかる」
もう、とアリアは口を尖らせる。
「俺はアリアに無事に子供を産んでほしいんだよ」
「わかってるわ」
おそらく、いや、絶対にケイムは誤解している。
アリアだって、ケイムの血を継ぐ子供を守る使命がある。彼の妻になった時点で、元来の母である義務に、さらなる義務が加わった。次期ジョナサン男爵を生んで育てる義務が。なぜならアリアは貴族だから。
アリアは艶めかしい流し目を送る。
薬指から始まりアリアの他の指を丁寧に舐めていたケイムは、ドキリとして唇を離した。
「だから、私がリードしてあげるわ」
アリアは含み笑いをするなり、ケイムを真後ろに押し倒した。
スプリングのきいたマットレスが、彼の背中を弾ませる。
鍛え抜かれた腹筋に、アリアはキスする。
「お、おい。何を」
「挿入だけが、セックスじゃないわよ」
くすくすとアリアは喉を鳴らした。
日中は編み込んだ髪を今夜は解いて、まるで背中を流れる金色の小川だ。アリアは邪魔な髪を耳にかけ、腰をくねらせながら、肌に触れる唇を下の方へ滑らせていく。
このような技術、ケイムは教えた覚えはない。
「誰の入れ知恵だ? 」
「そんなのミス・レイチェルに決まってるじゃない」
「畜生! あの女! 」
ケイムは歯噛みし、上半身を起こそうとした。
すかさずアリアが胸を押し返す。
「駄目よケイム。ベッドで他の女性のこと考えちゃ」
「言うようになったじゃねえか」
すっかりアリアから子供じみた言動がなくなってしまった。
数年前までは酒太りしていた腹だが、何某かがきっかけで始めたトレーニングは日課となり、割れた腹筋は今でも保たれている。
アリアは臍の窪みを軽く吸った。
彼の興奮は顕著だ。
「あら。もう機能しないんじゃなかった? 」
「お前以外ではな」
すっかり形を変えてしまったものに、アリアは手を添わせた。びくり、と微かにそれが痙攣する。
ケイムはアリアの髪を撫でながら、挑発するように口端を斜めに吊った。
「これも小説のネタにするんだろ? 」
「ご名答」
「なら、しっかり学べよ」
言われなくともそのつもりだ。
アリアは手の中にある脈打つ塊に、尖らせた舌をねっとりと添わせた。ゆっくりと付け根から動かして、先端を軽く突けば、彼の息が上がる。
そこから、どうすれば興奮が増すのか、彼が詳細に手解きをする。アリアは素直に従った。
「で、次の小説の展開は? 」
「秘密よ」
「秘密? 」
「ライバル会社に教えるわけないじゃない」
「読者として知りたいんだ」
言われた通りに喉奥まで咥え込み、しばしその感触を堪能する。口内で質量が増した。
一旦口から出して、唇周りの唾液を拭ってから、アリアは構想を打ち明けた。
「そうね。妊娠中の睦言がテーマよ」
「なら、まさに今だな」
いきなり乳房を揉まれる。
「きゃっ」
妊娠により敏感になった中央の花芯を指先で弄られた。
「俺としては、やられっ放しは癪だな」
ニヤリ、と悪戯じみた目が光る。
「もう。負けず嫌いなんだから」
アリアは苦笑して、ケイムの鼻先を軽く指で弾いた。
「奥さんを悦ばせたいだけだ」
「それなら、とっくになってるわ」
再びアリアは、奥さんを悦ばせるとやらを咥え込んだ。今度はやや力を込めて吸い付いてやる。
ケイムが耐えるように眉を寄せた。
アリアはそんな彼に対して意地悪い気持ちが芽生え、彼女の口内で彼が陥落するまで執拗に責め続けた。
今夜から、ジョナサン邸がアリアの家だ。
「挙式のドレスはどうする? 慣例通りに赤か? それとも流行の白か? 」
日付の変わった深夜、アリアの首筋に舌を這わせながら、ケイムは尋ねた。
アリアが彼の寝室に入ったのは初めてだ。
彼の寝室は、フットウェル社の社長室をそっくりそのまま移したような仕様だ。
マホガニー製の大きなデスクと、対になる椅子や、三人掛けの革張りのソファは勿論、壁に飾られた絵画は同じ画家で構図違い、敷かれた絨毯は色違い。カーテンに至ってはベルベットの同じ色。
彼曰く、いつでも仕事に取り掛かることが出来るように、とのことらしい。
違いがあるとすれば、やや端に寄せられたマホガニーのベッドくらい。
そのベッドの上で、二人は今、一糸纏わぬ姿でいる。
「医者の許しが出たら、すぐに式を挙げよう」
まだ体調の安定しないうちは、あまり派手なことはしない方が良いと、医者からの忠告だ。
「女王陛下が白いドレスで挙式したから流行してるのよね」
「らしいな」
ケイムは首筋からアリアの腕へ、それから指先へと舌先を下げていく。薬指の指輪に軽く口づけた。
うっとりとアリアは息を吐き出す。
初夜といえど、妊婦に対して無茶は出来ない。
ケイムはそこのところは心得ており、ずっと唇でアリアを官能の縁に揺らめかせている。
何だかアリアの方が我慢がきかなくなりそうだ。
「ねえ、ケイム」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないじゃない」
「言いたいことくらいわかる」
もう、とアリアは口を尖らせる。
「俺はアリアに無事に子供を産んでほしいんだよ」
「わかってるわ」
おそらく、いや、絶対にケイムは誤解している。
アリアだって、ケイムの血を継ぐ子供を守る使命がある。彼の妻になった時点で、元来の母である義務に、さらなる義務が加わった。次期ジョナサン男爵を生んで育てる義務が。なぜならアリアは貴族だから。
アリアは艶めかしい流し目を送る。
薬指から始まりアリアの他の指を丁寧に舐めていたケイムは、ドキリとして唇を離した。
「だから、私がリードしてあげるわ」
アリアは含み笑いをするなり、ケイムを真後ろに押し倒した。
スプリングのきいたマットレスが、彼の背中を弾ませる。
鍛え抜かれた腹筋に、アリアはキスする。
「お、おい。何を」
「挿入だけが、セックスじゃないわよ」
くすくすとアリアは喉を鳴らした。
日中は編み込んだ髪を今夜は解いて、まるで背中を流れる金色の小川だ。アリアは邪魔な髪を耳にかけ、腰をくねらせながら、肌に触れる唇を下の方へ滑らせていく。
このような技術、ケイムは教えた覚えはない。
「誰の入れ知恵だ? 」
「そんなのミス・レイチェルに決まってるじゃない」
「畜生! あの女! 」
ケイムは歯噛みし、上半身を起こそうとした。
すかさずアリアが胸を押し返す。
「駄目よケイム。ベッドで他の女性のこと考えちゃ」
「言うようになったじゃねえか」
すっかりアリアから子供じみた言動がなくなってしまった。
数年前までは酒太りしていた腹だが、何某かがきっかけで始めたトレーニングは日課となり、割れた腹筋は今でも保たれている。
アリアは臍の窪みを軽く吸った。
彼の興奮は顕著だ。
「あら。もう機能しないんじゃなかった? 」
「お前以外ではな」
すっかり形を変えてしまったものに、アリアは手を添わせた。びくり、と微かにそれが痙攣する。
ケイムはアリアの髪を撫でながら、挑発するように口端を斜めに吊った。
「これも小説のネタにするんだろ? 」
「ご名答」
「なら、しっかり学べよ」
言われなくともそのつもりだ。
アリアは手の中にある脈打つ塊に、尖らせた舌をねっとりと添わせた。ゆっくりと付け根から動かして、先端を軽く突けば、彼の息が上がる。
そこから、どうすれば興奮が増すのか、彼が詳細に手解きをする。アリアは素直に従った。
「で、次の小説の展開は? 」
「秘密よ」
「秘密? 」
「ライバル会社に教えるわけないじゃない」
「読者として知りたいんだ」
言われた通りに喉奥まで咥え込み、しばしその感触を堪能する。口内で質量が増した。
一旦口から出して、唇周りの唾液を拭ってから、アリアは構想を打ち明けた。
「そうね。妊娠中の睦言がテーマよ」
「なら、まさに今だな」
いきなり乳房を揉まれる。
「きゃっ」
妊娠により敏感になった中央の花芯を指先で弄られた。
「俺としては、やられっ放しは癪だな」
ニヤリ、と悪戯じみた目が光る。
「もう。負けず嫌いなんだから」
アリアは苦笑して、ケイムの鼻先を軽く指で弾いた。
「奥さんを悦ばせたいだけだ」
「それなら、とっくになってるわ」
再びアリアは、奥さんを悦ばせるとやらを咥え込んだ。今度はやや力を込めて吸い付いてやる。
ケイムが耐えるように眉を寄せた。
アリアはそんな彼に対して意地悪い気持ちが芽生え、彼女の口内で彼が陥落するまで執拗に責め続けた。
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