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隠された愛情
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「これは? 」
連れて来られた一室で、アリアはポカンと口を半開きにした。
そこは、赤ん坊の用品で埋め尽くされていた。
鈴蘭の紋章が入った高級な木材が使われたベビーベッドや揺かご、木馬、様々なサイズのビスクドール、ぬいぐるみに、金が装飾されたネジ巻きオルゴール。男の子用と女の子用のベビードレスが、ずらりとクロークに仕舞い込まれている。
「赤ん坊のためのものです。もううちでは使わないでしょうから、持って行きなさい」
「これ、全て用意してくれたんですか? 」
ドロシーは答えなかっが、どれも真新しく、決して中古ではない。一からこれほどの数を揃えるとなると、なかなか骨の折れる作業だ。
「それから、イザベラも用意はしているでしょうが」
ドロシーはもう一卓のクロークから、ふわりとしたドレスを何枚か引っ張り出す。
「いづれそのドレスもきつくなります。妊婦用のものですよ」
それは、お腹部分にゆとりのあるドレス。アリアがかつて好んだひらひらしたものではなく、現在好んでいる藍色や濃紺のシンプルなデザインばかりだ。
「後は、浮腫にきく漢方薬。クリーム。それから、外国から取り寄せたお茶。妊婦の体に良いそうですよ。それから」
次々とアリアの手のひらに乗せて行く。アリアの手が一杯になると、今度は隣に並んだケイムに用品を預けていく。
「お、お婆様。どうしてこんなに、私に良くしてくださるの? 私は……」
アリアは続く言葉を飲み下す。
言うならば、ドロシーの夫が浮気をして拵えた子供だ。
「ルミナスの娘でしょう、あなたは。あなたの子供は、私にとって曾孫。当然ではありませんか」
不機嫌そうにドロシーは鼻に皺を寄せた。
だが、アリアには何となくわかる。
不快なのではない。
単なる照れ隠しであると。
「……お婆様」
今までは露骨に避けていたが、彼女とまともに対面して、ようやく祖母の人間性がわかった。
このような素晴らしい方だからこそ、母イザベラは、ドロシーに全幅の信頼を置いているのだ。
「幾つかはここに置いて行くわ」
アリアは声を弾ませる。
「子供が生まれたら、遊びに来て良いですか? 」
ドロシーは驚いた表情をチラリと見せたものの、すぐさまそれを消して、素っ気なさを装う。
「ええ。勿論です」
どことなく口元がにやけているのを、アリアは見ない振りをした。
アリアを先に馬車に乗せて、お土産を沢山積み込んでいる最中、ケイムは服の袖を引かれた。
ドロシーが耳元に口を寄せてくる。その目つきは、いつになく険しい。
「私から孫と曾孫の時間を奪ったんですからね。それなりの覚悟はしておくように」
「は、はい! 」
姿勢を正すのは条件反射だ。
「あなたの噂は常々聞いていますからね。万が一、浮気なんてしたら」
「しません! 」
「それなら結構です」
ケイムは自然と浮き出した額の汗を何度も何度も拭うのだった。
連れて来られた一室で、アリアはポカンと口を半開きにした。
そこは、赤ん坊の用品で埋め尽くされていた。
鈴蘭の紋章が入った高級な木材が使われたベビーベッドや揺かご、木馬、様々なサイズのビスクドール、ぬいぐるみに、金が装飾されたネジ巻きオルゴール。男の子用と女の子用のベビードレスが、ずらりとクロークに仕舞い込まれている。
「赤ん坊のためのものです。もううちでは使わないでしょうから、持って行きなさい」
「これ、全て用意してくれたんですか? 」
ドロシーは答えなかっが、どれも真新しく、決して中古ではない。一からこれほどの数を揃えるとなると、なかなか骨の折れる作業だ。
「それから、イザベラも用意はしているでしょうが」
ドロシーはもう一卓のクロークから、ふわりとしたドレスを何枚か引っ張り出す。
「いづれそのドレスもきつくなります。妊婦用のものですよ」
それは、お腹部分にゆとりのあるドレス。アリアがかつて好んだひらひらしたものではなく、現在好んでいる藍色や濃紺のシンプルなデザインばかりだ。
「後は、浮腫にきく漢方薬。クリーム。それから、外国から取り寄せたお茶。妊婦の体に良いそうですよ。それから」
次々とアリアの手のひらに乗せて行く。アリアの手が一杯になると、今度は隣に並んだケイムに用品を預けていく。
「お、お婆様。どうしてこんなに、私に良くしてくださるの? 私は……」
アリアは続く言葉を飲み下す。
言うならば、ドロシーの夫が浮気をして拵えた子供だ。
「ルミナスの娘でしょう、あなたは。あなたの子供は、私にとって曾孫。当然ではありませんか」
不機嫌そうにドロシーは鼻に皺を寄せた。
だが、アリアには何となくわかる。
不快なのではない。
単なる照れ隠しであると。
「……お婆様」
今までは露骨に避けていたが、彼女とまともに対面して、ようやく祖母の人間性がわかった。
このような素晴らしい方だからこそ、母イザベラは、ドロシーに全幅の信頼を置いているのだ。
「幾つかはここに置いて行くわ」
アリアは声を弾ませる。
「子供が生まれたら、遊びに来て良いですか? 」
ドロシーは驚いた表情をチラリと見せたものの、すぐさまそれを消して、素っ気なさを装う。
「ええ。勿論です」
どことなく口元がにやけているのを、アリアは見ない振りをした。
アリアを先に馬車に乗せて、お土産を沢山積み込んでいる最中、ケイムは服の袖を引かれた。
ドロシーが耳元に口を寄せてくる。その目つきは、いつになく険しい。
「私から孫と曾孫の時間を奪ったんですからね。それなりの覚悟はしておくように」
「は、はい! 」
姿勢を正すのは条件反射だ。
「あなたの噂は常々聞いていますからね。万が一、浮気なんてしたら」
「しません! 」
「それなら結構です」
ケイムは自然と浮き出した額の汗を何度も何度も拭うのだった。
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