上 下
75 / 123

隠された愛情

しおりを挟む
「これは? 」
 連れて来られた一室で、アリアはポカンと口を半開きにした。
 そこは、赤ん坊の用品で埋め尽くされていた。
 鈴蘭の紋章が入った高級な木材が使われたベビーベッドや揺かご、木馬、様々なサイズのビスクドール、ぬいぐるみに、金が装飾されたネジ巻きオルゴール。男の子用と女の子用のベビードレスが、ずらりとクロークに仕舞い込まれている。
「赤ん坊のためのものです。もううちでは使わないでしょうから、持って行きなさい」
「これ、全て用意してくれたんですか? 」
 ドロシーは答えなかっが、どれも真新しく、決して中古ではない。一からこれほどの数を揃えるとなると、なかなか骨の折れる作業だ。
「それから、イザベラも用意はしているでしょうが」
 ドロシーはもう一卓のクロークから、ふわりとしたドレスを何枚か引っ張り出す。
「いづれそのドレスもきつくなります。妊婦用のものですよ」
 それは、お腹部分にゆとりのあるドレス。アリアがかつて好んだひらひらしたものではなく、現在好んでいる藍色や濃紺のシンプルなデザインばかりだ。
「後は、浮腫にきく漢方薬。クリーム。それから、外国から取り寄せたお茶。妊婦の体に良いそうですよ。それから」
 次々とアリアの手のひらに乗せて行く。アリアの手が一杯になると、今度は隣に並んだケイムに用品を預けていく。
「お、お婆様。どうしてこんなに、私に良くしてくださるの? 私は……」
 アリアは続く言葉を飲み下す。
 言うならば、ドロシーの夫が浮気をして拵えた子供だ。
「ルミナスの娘でしょう、あなたは。あなたの子供は、私にとって曾孫。当然ではありませんか」
 不機嫌そうにドロシーは鼻に皺を寄せた。
 だが、アリアには何となくわかる。
 不快なのではない。
 単なる照れ隠しであると。
「……お婆様」
 今までは露骨に避けていたが、彼女とまともに対面して、ようやく祖母の人間性がわかった。
 このような素晴らしい方だからこそ、母イザベラは、ドロシーに全幅の信頼を置いているのだ。
「幾つかはここに置いて行くわ」
 アリアは声を弾ませる。
「子供が生まれたら、遊びに来て良いですか? 」
 ドロシーは驚いた表情をチラリと見せたものの、すぐさまそれを消して、素っ気なさを装う。
「ええ。勿論です」
 どことなく口元がにやけているのを、アリアは見ない振りをした。


 アリアを先に馬車に乗せて、お土産を沢山積み込んでいる最中、ケイムは服の袖を引かれた。
 ドロシーが耳元に口を寄せてくる。その目つきは、いつになく険しい。
「私から孫と曾孫の時間を奪ったんですからね。それなりの覚悟はしておくように」
「は、はい! 」
 姿勢を正すのは条件反射だ。
「あなたの噂は常々聞いていますからね。万が一、浮気なんてしたら」
「しません! 」
「それなら結構です」
 ケイムは自然と浮き出した額の汗を何度も何度も拭うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜人王の伴侶

朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語 国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます 作者独自の世界観ですのでご都合主義です 過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください) 40話前後で完結予定です 拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください 4/4にて完結しました ご覧いただきありがとうございました

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、内容が異なります。

薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。 そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。 互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。 彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!? ※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...