【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

晴 菜葉

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雷が落ちる

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 再び、二人の目の中に炎が滾った。
 一度ついた火は、なかなか消えない。
 友人関係だけだったならば歩み寄り、諍いは酒を酌み交わすことで仕舞いとなっていたはずだ。
 だが、アリアを挟んで互いに譲れないものが生まれた。
 立ち上がるや否や、ファイティングポーズを取る。
 若い頃は王都中の賭博場や居酒屋といった柄の悪い連中が集う場で慣らしてきた。
 そこで女を巡っての諍いもあった。
 だが、女の好みが似通っているとしても、共闘はあれど、何故か互いに敵同士となり拳を奮い合うことは一度としてなかった。
「結婚して腑抜けになったお前なんか、すぐにのしてやるよ」
「喧しい。くだらないことを吠えるのも、今のうちだ」
 ケイムの挑発に乗り、ルミナスは腕まくりする。
 社交界では紳士然とした二人だが、今は目を吊り上げ、酷薄な笑みを口元に張り付かせ、凶賊紛いの非道な雰囲気となっている。
「よくもあんな幼い子供に手を出せたものだな! この変態が! 」
「お前こそ、コソコソ十三だかの娘を付け狙ってただろうが! 」
「私は陰ながらイザベラを援助していただけだ! 」
「官能小説を送りつけてたくせに」
「な、何故それを」
「お前が仕入れた本は、ミス・レイチェルのとこから出してただろ」
「あの女狐、よくもバラしたな」
「変態はどっちだ。若い娘にあんなもん送りつけといて」
 軽蔑したケイムが、パンチを繰り出す。見事にルミナスの鳩尾に入った。
「イザベラは私の理想通りに育ったんだ。何が悪い」
 よろめきつつ、すぐさま体勢を立て直したルミナスが、ケイムの顎を拳で突き上げた。ケイムは真後ろに吹っ飛び、尻餅をつく。
「今じゃ熟女じゃねえか」
「失敬な。イザベラはまだ二十代だ。胸は大きいし、尻だってちょうど良い肉づきだ。小児性愛者のお前には、わかるまい」
「ああ? 聞き捨てならねえな。アリアは乳だってでかいし、尻はぷるんと張って、何より名器なんだよ。充分、大人だ」
「よくも、父の私にそのようなことを! 」
 ルミナスはケイムの胸倉を掴むや、頭突きをかます。
「言わせたのは、お前じゃねえか! 」
 ケイムも負けじと、ルミナスの鼻面を殴りつけた。
「イザベラの胸は大きくて弾力がある」
「アリアも負けてねえよ」
「セックスのときだって、一度咥え込んだら私を締め付けて離さないんだ」
「アリアだって、中が畝って最高なんだよ」
「イザベラは」
「アリアは」


「いい加減になさいませ! 」


 キンキンした叫びが室内に響き渡った。
 掴み合いをしていた男二人は、はたと動きを止めた。


「黙って聞いていたら! 好き勝手言って! 」
 真っ赤になって拳を震わせたイザベラが、仁王立ちになっていた。
 閨での秘密を大声で堂々と暴露し合う馬鹿者を、イザベラはとうとう放置してはおけなかった。
「恥を知りなさい! 」
 彼女の後ろでは、アリアが両手で顔を覆い、耳まで赤くなり、縮まっている。
 ベッドでケイムが何を考えているかはおろか、よもや両親の情事まで聞かされるなんて。
 怒り心頭のイザベラと、羞恥に苛まれるアリアの姿に、男二人はようやく頭が冷え、気まずそうに目を逸らした。


「もう少し食堂の片付けは控えて」
 廊下では、レイモンドが冷静に家令に指示を出している。
「ハウスメイドへの今日の手当は弾んでね。いつになく凄惨だから」
 扉の外からでも、椅子の倒れる音や食器の擦れる音が大きく、殴り合いまでしていたから、鼻血が絨毯に散っているはず。
「それから、もう少ししたらお茶を所望するだろうから。用意しておいて」
「畏まりました」
 的確な指示に、家令は恭しく頭を下げた。 
「それから、僕の部屋にアイスクリームを持って来てね。お母様には勿論内緒だよ」
 レイモンドは茶目っけたっぷりにウィンクした。
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