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仮面舞踏会
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「久々ね、アリア」
三ヶ月ぶりの夜会は気乗りしなかったが、エマリーヌの様子が気になって参加した。
今回は仮面舞踏会。
皆んなが仮面をつけ、誰だかわからない。
ある意味、無礼講だ。
今回の夜会は、それが目的でもあるようだ。
顔がわからない。それなら、ケイムに会ったとしても、お互い気づかないはず。
しかし、エマリーヌは恩人にすぐに気づいた。
今夜のアリアは、一際輝いている。
深い海を想わせるドレスは首元が締まり、代わりに背中が広く開いている。金色の髪を丁寧に編み込み、宝石が散りばめられていた。耳朶で揺れるサファイアのイヤリング。
今までの愛らしさは潜み、妖艶な美しさが露出している。
仮面で目元を隠しているから、尚更、彼女を蠱惑的にさせていた。
「もう大丈夫なの? 」
「エマリーヌこそ」
アリアも、エマリーヌの柿色の髪で誰だか気づいた。
「セディ様、今は遠縁の屋敷に監禁されているみたい」
早速とエマリーヌは掴んだ情報を流す。
「今回のことは、警察沙汰になるのは控えられたけど。もう二度と王都に戻ることはないらしいわ」
アークライト家とジョナサン家の両家から厳しく抗議され、しばらくはラム邸で絞られていたセディのその後は不明だった。何やら箝口令が敷かれているのか、噂にすらならない。
エマリーヌの家はなんて情報通だろうか。
「確か管理不足で、ラム家は爵位返上ですって。内緒だけど、この件には侯爵夫人が絡んでいるとか」
「まあ、どうして? 」
「セディ様、他の女性もなかなか傷めつけていたらしいわ。その中に、侯爵夫人の親類も含まれていたそうよ」
侯爵夫人は母イザベラの後見人である。平民の母は、夫人に大いに助けられている。
夫人のニコニコと屈託ない皺くちゃの笑顔は、いかにも「気の好いお婆ちゃん」らしい。
「上位貴族を敵に回したんだもの。仕方ないわ」
あの侯爵夫人と、ラム家への制裁が結びつかない。気の好い人ほど怒らせたら怖いと言うことか。
「あら、素敵な紳士ね」
エマリーヌの関心はもう別の方に向いていた。
視線の先にいたのは、姿勢の良い背の高い紳士だ。ボサボサの髪は後ろに撫で付け、無精髭もない。仮面をつけてはいるが、誰だかアリアには一目でわかった。
「ジョナサン卿よ」
「相変わらず、おモテになるのね。あの女性、ミス・メラニーよ。外国の出版社の社長令嬢」
「詳しいのね」
「今、注目されているから。もしかしたら、ジョナサン卿の未来の奥方かしらって」
彼の隣には、当然のように派手で気の強そうな女性が陣取っている。
アリアの胸がズキリと痛んだ。
本来なら、そこには自分がいたのに。
まるで恋人同士であるかのように、ミス・メラニーは彼の腕に自分の腕を絡ませて、しなだれかかっていた。他人の目も気にせず。はしたないが、外国では無礼でも何でもないのだろうか。
ケイムも咎めるどころか、苦笑いするだけ。
「何だか唯ならぬ関係みたいね」
まるでスキャンダルを好む暇なご婦人のように、楽しそうに声を弾ませるエマリーヌ。
「あなたの初恋も、そろそろ諦めるときね」
「そんなもの、とっくに終わってるわ」
自分から幕を引いてしまったのだ。
そこまでエマリーヌに暴露するつもりはないが。
三ヶ月ぶりの夜会は気乗りしなかったが、エマリーヌの様子が気になって参加した。
今回は仮面舞踏会。
皆んなが仮面をつけ、誰だかわからない。
ある意味、無礼講だ。
今回の夜会は、それが目的でもあるようだ。
顔がわからない。それなら、ケイムに会ったとしても、お互い気づかないはず。
しかし、エマリーヌは恩人にすぐに気づいた。
今夜のアリアは、一際輝いている。
深い海を想わせるドレスは首元が締まり、代わりに背中が広く開いている。金色の髪を丁寧に編み込み、宝石が散りばめられていた。耳朶で揺れるサファイアのイヤリング。
今までの愛らしさは潜み、妖艶な美しさが露出している。
仮面で目元を隠しているから、尚更、彼女を蠱惑的にさせていた。
「もう大丈夫なの? 」
「エマリーヌこそ」
アリアも、エマリーヌの柿色の髪で誰だか気づいた。
「セディ様、今は遠縁の屋敷に監禁されているみたい」
早速とエマリーヌは掴んだ情報を流す。
「今回のことは、警察沙汰になるのは控えられたけど。もう二度と王都に戻ることはないらしいわ」
アークライト家とジョナサン家の両家から厳しく抗議され、しばらくはラム邸で絞られていたセディのその後は不明だった。何やら箝口令が敷かれているのか、噂にすらならない。
エマリーヌの家はなんて情報通だろうか。
「確か管理不足で、ラム家は爵位返上ですって。内緒だけど、この件には侯爵夫人が絡んでいるとか」
「まあ、どうして? 」
「セディ様、他の女性もなかなか傷めつけていたらしいわ。その中に、侯爵夫人の親類も含まれていたそうよ」
侯爵夫人は母イザベラの後見人である。平民の母は、夫人に大いに助けられている。
夫人のニコニコと屈託ない皺くちゃの笑顔は、いかにも「気の好いお婆ちゃん」らしい。
「上位貴族を敵に回したんだもの。仕方ないわ」
あの侯爵夫人と、ラム家への制裁が結びつかない。気の好い人ほど怒らせたら怖いと言うことか。
「あら、素敵な紳士ね」
エマリーヌの関心はもう別の方に向いていた。
視線の先にいたのは、姿勢の良い背の高い紳士だ。ボサボサの髪は後ろに撫で付け、無精髭もない。仮面をつけてはいるが、誰だかアリアには一目でわかった。
「ジョナサン卿よ」
「相変わらず、おモテになるのね。あの女性、ミス・メラニーよ。外国の出版社の社長令嬢」
「詳しいのね」
「今、注目されているから。もしかしたら、ジョナサン卿の未来の奥方かしらって」
彼の隣には、当然のように派手で気の強そうな女性が陣取っている。
アリアの胸がズキリと痛んだ。
本来なら、そこには自分がいたのに。
まるで恋人同士であるかのように、ミス・メラニーは彼の腕に自分の腕を絡ませて、しなだれかかっていた。他人の目も気にせず。はしたないが、外国では無礼でも何でもないのだろうか。
ケイムも咎めるどころか、苦笑いするだけ。
「何だか唯ならぬ関係みたいね」
まるでスキャンダルを好む暇なご婦人のように、楽しそうに声を弾ませるエマリーヌ。
「あなたの初恋も、そろそろ諦めるときね」
「そんなもの、とっくに終わってるわ」
自分から幕を引いてしまったのだ。
そこまでエマリーヌに暴露するつもりはないが。
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