【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

晴 菜葉

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王子様の救出

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 夢だ。
 これは夢だ。
 アリアは呆然となる。


 目の前にいたのは、アリアの王子様。


 アリアの王子様は、いつもの垂れ目がこめかみにつくくらい吊り上げ、顔を真っ赤にさせながら、ずんずんと大股で部屋に入って来た。
「てめえ! よくも! 」
 怒鳴りつけるなり、セディの首根っこを掴み上げる。
 そのまま引っ張り、床に叩きつけた。
 地鳴りかと思うほど唸らせ、セディの体は板間に横倒しになる。
「よくも、アリアに! 」
 目を血走らせてセディに馬乗りになるや、その頬に重みのある拳を入れる。骨の軋む鈍い音が室内中に響き渡った。
「生きて帰れると思うな! 」
 いつもの飄々と温厚なケイムおじさまではない。
 そこにいたのは、敵をひたすら傷めつけ、逃さない野獣だ。
 体格差があり、相手は鍛え抜かれた精鋭。
 セディは敵うはずもなく、ただ闇雲に殴られる。
 何度目かの骨が軋んだ後、唖然と状況を見守っていたルミナスが、ハッと我に返った。
「おい! ジョナサン! やめたまえ! 」
 慌ててケイムを真後ろから羽交締めにして止める。
 このままでは冗談ではなく友人が犯罪者になってしまう。
「怒りはもっともだが。落ち着け」
「離せ! まだ殴りたりねえんだよ! 」
 激昂するケイムの力は凄まじい。
 唾を飛ばして、邪魔をするルミナスを怒鳴りつける。
「ジョナサン! やめろ! 」
 ルミナスは額にびっしりと汗の粒が拭き、殺人鬼になりかねない友人を必死に食い止める。
 しかし、頭に血が昇っているケイムを、最早、止める手立てはない。
 いよいよ、セディの意識が遠退き始めていた。


 王子様が来てくれた。
 アリアだけの王子様が。
 彼女は感激して、ぶるぶると打ち震える。
 恐怖はいっぺんに吹き飛んでいた。
 王子様は激怒して、ケダモノを退治してくれている。
「ああ! 私の王子様! 」
 あんまりうれしくて、アリアはケイムの脇腹に飛びかかってしまった。
 不意打ちで、アリアを受け止めきれず、そればかりか真横に跳ね飛ばされるケイム。
 ようやく、セディへの攻撃が止んだ。
 セディは頬を腫らし、鼻血を垂れ、ぐったりと力を失っている。目はうつろで、いきなり侵入した男に無茶苦茶に殴られて、状況を把握出来ていないらしい。
「アリア! 」
 すぐさま身を起こしたケイムは、真正面からアリアを抱きしめる。
 鼻先をくすぐる、葉巻の匂い。仄かなジャスミンの香水。
 間違いなくケイムだ。
 これは夢ではない。
 アリアは彼の背中に手を回す。
 筋肉質な背中。頬に触れた温かさ。鼓膜を揺らす、やや速めの鼓動。
 一つ一つ確かめながら、アリアは安堵の息を吐いた。
 彼にキスしたくて堪らない。
 アリアは唇を半開きにして見上げれば、相手も同じことを考えていたのか、うっとりした眼差しを向けてきた。



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