57 / 123
王子様の救出
しおりを挟む
夢だ。
これは夢だ。
アリアは呆然となる。
目の前にいたのは、アリアの王子様。
アリアの王子様は、いつもの垂れ目がこめかみにつくくらい吊り上げ、顔を真っ赤にさせながら、ずんずんと大股で部屋に入って来た。
「てめえ! よくも! 」
怒鳴りつけるなり、セディの首根っこを掴み上げる。
そのまま引っ張り、床に叩きつけた。
地鳴りかと思うほど唸らせ、セディの体は板間に横倒しになる。
「よくも、アリアに! 」
目を血走らせてセディに馬乗りになるや、その頬に重みのある拳を入れる。骨の軋む鈍い音が室内中に響き渡った。
「生きて帰れると思うな! 」
いつもの飄々と温厚なケイムおじさまではない。
そこにいたのは、敵をひたすら傷めつけ、逃さない野獣だ。
体格差があり、相手は鍛え抜かれた精鋭。
セディは敵うはずもなく、ただ闇雲に殴られる。
何度目かの骨が軋んだ後、唖然と状況を見守っていたルミナスが、ハッと我に返った。
「おい! ジョナサン! やめたまえ! 」
慌ててケイムを真後ろから羽交締めにして止める。
このままでは冗談ではなく友人が犯罪者になってしまう。
「怒りはもっともだが。落ち着け」
「離せ! まだ殴りたりねえんだよ! 」
激昂するケイムの力は凄まじい。
唾を飛ばして、邪魔をするルミナスを怒鳴りつける。
「ジョナサン! やめろ! 」
ルミナスは額にびっしりと汗の粒が拭き、殺人鬼になりかねない友人を必死に食い止める。
しかし、頭に血が昇っているケイムを、最早、止める手立てはない。
いよいよ、セディの意識が遠退き始めていた。
王子様が来てくれた。
アリアだけの王子様が。
彼女は感激して、ぶるぶると打ち震える。
恐怖はいっぺんに吹き飛んでいた。
王子様は激怒して、ケダモノを退治してくれている。
「ああ! 私の王子様! 」
あんまりうれしくて、アリアはケイムの脇腹に飛びかかってしまった。
不意打ちで、アリアを受け止めきれず、そればかりか真横に跳ね飛ばされるケイム。
ようやく、セディへの攻撃が止んだ。
セディは頬を腫らし、鼻血を垂れ、ぐったりと力を失っている。目は虚で、いきなり侵入した男に無茶苦茶に殴られて、状況を把握出来ていないらしい。
「アリア! 」
すぐさま身を起こしたケイムは、真正面からアリアを抱きしめる。
鼻先をくすぐる、葉巻の匂い。仄かなジャスミンの香水。
間違いなくケイムだ。
これは夢ではない。
アリアは彼の背中に手を回す。
筋肉質な背中。頬に触れた温かさ。鼓膜を揺らす、やや速めの鼓動。
一つ一つ確かめながら、アリアは安堵の息を吐いた。
彼にキスしたくて堪らない。
アリアは唇を半開きにして見上げれば、相手も同じことを考えていたのか、うっとりした眼差しを向けてきた。
これは夢だ。
アリアは呆然となる。
目の前にいたのは、アリアの王子様。
アリアの王子様は、いつもの垂れ目がこめかみにつくくらい吊り上げ、顔を真っ赤にさせながら、ずんずんと大股で部屋に入って来た。
「てめえ! よくも! 」
怒鳴りつけるなり、セディの首根っこを掴み上げる。
そのまま引っ張り、床に叩きつけた。
地鳴りかと思うほど唸らせ、セディの体は板間に横倒しになる。
「よくも、アリアに! 」
目を血走らせてセディに馬乗りになるや、その頬に重みのある拳を入れる。骨の軋む鈍い音が室内中に響き渡った。
「生きて帰れると思うな! 」
いつもの飄々と温厚なケイムおじさまではない。
そこにいたのは、敵をひたすら傷めつけ、逃さない野獣だ。
体格差があり、相手は鍛え抜かれた精鋭。
セディは敵うはずもなく、ただ闇雲に殴られる。
何度目かの骨が軋んだ後、唖然と状況を見守っていたルミナスが、ハッと我に返った。
「おい! ジョナサン! やめたまえ! 」
慌ててケイムを真後ろから羽交締めにして止める。
このままでは冗談ではなく友人が犯罪者になってしまう。
「怒りはもっともだが。落ち着け」
「離せ! まだ殴りたりねえんだよ! 」
激昂するケイムの力は凄まじい。
唾を飛ばして、邪魔をするルミナスを怒鳴りつける。
「ジョナサン! やめろ! 」
ルミナスは額にびっしりと汗の粒が拭き、殺人鬼になりかねない友人を必死に食い止める。
しかし、頭に血が昇っているケイムを、最早、止める手立てはない。
いよいよ、セディの意識が遠退き始めていた。
王子様が来てくれた。
アリアだけの王子様が。
彼女は感激して、ぶるぶると打ち震える。
恐怖はいっぺんに吹き飛んでいた。
王子様は激怒して、ケダモノを退治してくれている。
「ああ! 私の王子様! 」
あんまりうれしくて、アリアはケイムの脇腹に飛びかかってしまった。
不意打ちで、アリアを受け止めきれず、そればかりか真横に跳ね飛ばされるケイム。
ようやく、セディへの攻撃が止んだ。
セディは頬を腫らし、鼻血を垂れ、ぐったりと力を失っている。目は虚で、いきなり侵入した男に無茶苦茶に殴られて、状況を把握出来ていないらしい。
「アリア! 」
すぐさま身を起こしたケイムは、真正面からアリアを抱きしめる。
鼻先をくすぐる、葉巻の匂い。仄かなジャスミンの香水。
間違いなくケイムだ。
これは夢ではない。
アリアは彼の背中に手を回す。
筋肉質な背中。頬に触れた温かさ。鼓膜を揺らす、やや速めの鼓動。
一つ一つ確かめながら、アリアは安堵の息を吐いた。
彼にキスしたくて堪らない。
アリアは唇を半開きにして見上げれば、相手も同じことを考えていたのか、うっとりした眼差しを向けてきた。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる