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撹乱

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「何だと! アリアが! 」
 ケイムは声を荒げた。
 元々セディに金で命じられた輩ばかりのため、情報を握るエマリーヌの口を封じることまで頭が回らなかったのか、それともこれ以上の悪事に深入りするのを避けたためか。あっさりと、用無しだと解放されたエマリーヌ。
 彼女は一目散にアークライト邸の門を叩いた。
 メイドからアリアが屋敷を抜け出したと連絡を受けていた父ルミナスと、たまたま投資関連の仕事で同じだったケイムはすぐさま屋敷に戻って来た。
「イザベラ! 」
「ああ! あなた! 私がレイモンドと出掛けたばかりに! 」
「元々、靴屋へ出向く手筈だったんだ。君を責めたりはしない。私も迂闊だった。もっとアリアに目配りしておけば」
 イザベラはしくしくと泣き止まない。そんな妻をルミナスは抱きしめる。
「ああ! 私が愚かなばっかりに! 」
 わああああ! とエマリーヌは化粧が剥げるのも構わず号泣する。
「それで、アリアは? 」
 ケイムは怖い顔のまま、エマリーヌを問い詰めた。
「フェリシティ……クラブに……うっ、ひっく……」
 嗚咽を漏らしながらも、エマリーヌはこれだけはと懸命に伝える。
「会員制の賭博場だな」
 遊びを嗜むケイムはすぐに場所を把握した。
「が、学者のマイケルが……誰かに……誰かに、依頼されて……うええん……」
「くそっ! その学者は今頃雲隠れしているはずだ! 」
 悪態をついたのは、ルミナスだ。彼は娘の一大事でかなり冷静さを欠いている。
「落ち着け、アークライト」
 鼻息荒く、今にもラム家へ乗り込まんとするルミナスの肩を、ケイムは努めて平静を装って引き止める。
「そいつは命じられたんだろ。黒幕がいるだろ」
 いつもの彼の垂れた目が尖っている。内心では怒りで煮えくり返っていた。
「まだ、どこにいるかわかっただけ、良いじゃねえか」
 それはまるで自身に言い聞かせるかのごとく。
「フェリシティ・クラブのオーナーなら、ミス・レイチェルのだ。アリアを救える」 
 ケイムは、いらいらと肩を揺するルミナスの背中をぽんと叩いた。
「各界の大物と太いパイプを持つ彼女なら、多少の無茶でも相手を承知させることは可能だ」
 だからこそ、彼女の怒りを買えば、根回しされて株は大暴落もあり得る。
「賭博場の名簿を出させよう。黒幕は、おそらくそこの常連だ」
 客の目星をつける算段だ。賭博場に呼び出したとなると、おそらく常連でしかも部屋を用意されたVIPだろう。名簿の記載は必須。
「あ、あの……うっ、ひっく……でも……どこかへ連れ出すと……うう……」
 嗚咽しながらも、おずおずとエマリーヌが口を挟んだ。
「何? 」
「目隠しを……されている最中に……き、聞いたのです……ひっく……うう……ば、馬車を……手配しておけ……と……」
「連れ去られたというのか? 」
「そ、それに……賭博場には……ひっく、ふっく……入って……うえっ……いません」
「どういうことだ? 」
「賭博場の裏口に……呼び出されて……拉致……拉致されたのです……うええん……アリア……」
 ケイムは息を呑んだ。
「中には入らなかったのか? 」
「はい……はい……拉致した者は……ひっく……会員でない……みたいで……」
「会員でなければ、賭博のオーナーに名簿を借りても無駄だな。くそっ」
 一縷の望みも絶たれた。
 一体、アリアは誰に攫われてしまったのか。
 ケイムは、よもやあの気弱そうなセディが噛んでいるとは思ってもいない。
 苛立ちはルミナス以上となり、行き先のない怒りに堪えきれずに、ケイムは壁を殴りつけた。
 
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