【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

晴 菜葉

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夜会の華

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 アリアは美しい。
 まるで地上に降りたった天使そのもの。
 いや、ぐっと大人びた今は、美を司る女神と例えるべきか。
 金色の絹のように艶やかな髪は編み込まれて、宝石のついたリボン飾りが揺れるたびに、ふわりと芳醇な香りを漂わせる。白く透き通る肌に映える濃紺のドレスは、銀糸の刺繍細工が見事で、まるで彼女が本当にこの世に存在しているのかとさえ疑うほどの儚さを演出している。
 蜜に群がる羽蟻のように、彼女はたちまち独身男性に囲われてしまった。
「マーロウ子爵が、アリアを気に入ってくれているようだな」
 遠巻きに、父ルミナスが上機嫌でワインに口をつけながら、ニンマリと笑った。
「あいつは駄目だ。気が弱過ぎる。母親の言いなりだから、結婚すればアリアは苦労する」
 隣に立つケイムは、不機嫌に息を吐くなり、グラスのワインを煽る。
「シュバイツァー氏はどうだ? 劇場のオーナーで、華やかではないか」
「ああ、駄目駄目。あいつの女癖は有名だろうが。確か自分のとこの女優を二人も孕ませたらしいぞ」
「コーンウォール男爵はどうだ。年は五十だが、物腰の良い紳士だろう」
「ああ、あの男爵? 何で未だに独身か考えろよ。嫁き遅れの姉と妹がいて、出張ってるんだよ。あんなとこに嫁いだら、いびり倒されるぞ」
 いちいち突っかかる友人に、さすがにルミナスは不満げに眉を寄せる。
「では、お前は誰が良いと思うんだ? 」
 ケイムは果てしなく考える。
「…………俺とか? 」
「は? 」
「冗談だ」
 そっぽを向けば、こちらをチラチラ窺っているどこぞの令嬢と目が合う。まだ十代の柿色の髪の無垢な乙女だ。興味はないが、礼儀として会釈はしておく。乙女の顔がたちまち華やいだ。
「お前なら、アリアの婿にピッタリだがな。アリアも気に入ってるし」
 呑気にルミナスが評する。
 まさか、友人が自分の娘と越えてはならぬ一線を越えてしまったと知れば、彼の顔はどれほど怒りで歪むだろうか。
 しかも、無垢な乙女とばかり思っていたら、いつの間にか官能小説家に転身しているし。
「だが、昔から知っている娘を娶るなど。お前の趣味を疑われるぞ」
「確かにな」
 ルミナスは自分のことはすっかり棚上げだ。
 まだ幼かったイザベラを自分好みになるよう陰から育てて、一人前のレディになるや、早々に手をつけた。
 友人ながら、その粘着質な性格は、薄気味悪ささえ思う。
 自分は決してそうはならない。
 ケイムはこっそり誓う。
 そもそも子供に興味はない。
 ケイムは、羽蟻のような男共に囲まれているアリアに視線を流した。


 
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