3 / 56
3 ※
しおりを挟む
あ、やばい。
琥珀の澄んだ瞳の中に自分の姿が映っているのを見た俺に、脳はようやく警告音を発した。遅いよ、俺の脳味噌よ。
「あ、あの……待って」
鼻先を橋本の息が掠める。
イケメンは、遠くから鑑賞するだけで充分だから。顔アップなんて、女ならともかく、男の俺には必要ないから。
「何や、今更。怖気づいたんか」
俺の首筋に顔を埋めている橋本が、喉の奥で笑う。いつもの声。いつもの笑い方。
体中から強張りが解けていく。
良かった。いつもの橋本だ。
「ちょっと、重いですって。もう、ふざけんのは終わりですよ」
いつもの調子で俺も唇をわざと可愛らしく尖らせ、ぐぐっと硬い胸板を前に押す。ぐぐっと押す。ぐぐっと。
……おい、びくともしないぞ。どうなってんだ?これでも、握力は同期の中じゃ一番なのに。
「橋本さん。どいて」
「うっさい。小悪魔」
「ちょっと」
良い加減にしろよ、オッサン。
などと、あやうく禁句を口にしかけて、慌てて唇を引き結ぶ。
その唇が柔らかいもので塞がれた。
おい、嘘だろ。
その柔らかいものの正体が橋本の唇だと気づいたときには、引き結びは割られ、舌先が俺の口内へ侵入していた。熱を持った塊は縦横無尽に粘膜を蹂躙し、歯の裏を舐め、舌先を絡ませて、好き勝手振る舞う。
俺のうなじを指が這い、ぞぞっと身を竦ませたら、離さないと言わんばかりに引き寄せられる。繋がりが深くなる。
こんな濃厚なキス、知らない。
「ん…んん……」
息継ぎのタイミングがわからない。
良い加減に苦しくなって、橋本の胸板を拳で叩いたら、ようやく相手は唇を離してくれた。
「下手くそやな」
むかつく批評つきで。
カーッと俺の頭に血が昇ったのは、言うまでもない。
「や、やかましいな。俺のやり方に、どうこう言われる筋合いは」
「今後は俺のやり方に従ってもらうから」
言い終わらないうちに橋本は言葉を被せ、またしても唇が重なる。
「んー!んん!」
またしても、熱い舌に翻弄される。
たっぷり吸われて、このまま魂まで取られるんじゃなかろうかと本気で心配した直後、ようやく解放される。
だから、キスがえげつないんだよ。
もっとスマートに出来ないかな。
って言うか、何でキスするわけ?
言いたいことは色々あるのに、ゼイゼイと呼吸を整えるのが優先で、声は腹の中に溜まるのみ。
口の周りがべたべたする。手の甲で拭うと、粘液が糸を引いた。げっ。もしかして橋本の唾かよ、汚な。
ごしごしとホテルの極上のシーツで拭いていると、頭上からバカにしたようにふんと鼻が鳴る。
「お子様には、刺激が強かったみたいやな」
「うるさい、オッサン」
橋本が俺の禁句を口にしたため、つい俺も禁断の台詞を吐いてしまった。
言ってから、しまったと後悔しても、もう手遅れ。
橋本の垂れ目がこれでもかと吊り上がっている。
「おい、誰がおっさんや」
だから、消防の早着替えをこんなところで披露しなくていいから。カッターシャツを一瞬で脱ぐな。
「俺、まだ枯れてないで」
「わ、わかってますって」
「いいや、わかっとらんな、お前は」
インナーのTシャツも、脱ぐんじゃない。早いな。
現れたのは、綺麗に盛り上がった胸筋。
まるで、外国の拳闘士みたいだ。
その、あまりの見事さに、思わず生唾を飲み下してしまった。
さすが、日浦さんと張り合って片手懸垂の記録出しただけのことはある。
「こうなったら、体に叩きこんだる」
不気味なことを言って、俺が怯んだ隙に、橋本は俺のシャツのボタンを全て外してあった。
だから、こんなところで器用さを見せびらかさなくていいから。
なんて考えてるうちに、橋本の手でベルトを引き抜かれ、スラックスを絨毯に放られ、あっと言うまに下着剥き出し姿にされてしまっていた。そのパンツのゴムを弾かれる。
「ちょっと、そこは」
さすがに駄目だろ。いつもはまん丸の目玉を、このときばかりは吊り上げる。
「何や」
「駄目ですって」
「嘘つけ」
節の張る長い指が下着の中に潜り込んだ。
「ひいっ」
どこから出た声だ、と自分自身に突っ込みを入れながら、橋本の卑猥な指を取り出すために自分も中に手を入れる。これ、完全にゴム伸びたな。あーあ。プロポーズ成功の願掛けに奮発したブランドものだったのに。
「こら。どこに意識飛ばしてるんや。集中しろ」
おい。どさくさ紛れに首に吸い付いてくるなよ。頸動脈をちゅーちゅー吸うな。あんたは吸血鬼か。
なんて平常心を保とうと余計なことを考えても、悲しいかな、硬質になっていく俺の下着の中。
悔しい事この上ないのは、橋本のしてやったりのニヤニヤ笑い。
くっそー。こうなったら、お経でも唱えて平静を保つしかない。ぎゅっと瞼を閉じる。
不意に、橋本の動きが止まった。
俺のものはぱんぱんに腫れ上がり、布地を強く押し上げている。もう間もなく、のところで、絡みついていた指がスッと解けた。
「……え?」
薄目を開ければ、片膝を立て、鬱陶しそうに前髪を掻き上げる橋本の横顔がまず目に入った。
正気を取り戻した?いや、違うな。目は潤んだまま、ほんのりと目元が赤い。これは、抱く寸前の顔だ。
「続けるか、止めるか。決めんのはお前や」
ずるい。俺は歯噛みする。今更、やめられるわけない。アドレナリンは全開で、もう体中の器官があんたを受け入れる態勢に入っているのに。
「つ、続きを」
どうにかこうにか、喉に詰まる声を絞り出す。
さすがに即答過ぎるだろ、これは。どんなに欲求不満だよ、俺。
橋本は垂れ目を大きく開いた。
琥珀の澄んだ瞳の中に自分の姿が映っているのを見た俺に、脳はようやく警告音を発した。遅いよ、俺の脳味噌よ。
「あ、あの……待って」
鼻先を橋本の息が掠める。
イケメンは、遠くから鑑賞するだけで充分だから。顔アップなんて、女ならともかく、男の俺には必要ないから。
「何や、今更。怖気づいたんか」
俺の首筋に顔を埋めている橋本が、喉の奥で笑う。いつもの声。いつもの笑い方。
体中から強張りが解けていく。
良かった。いつもの橋本だ。
「ちょっと、重いですって。もう、ふざけんのは終わりですよ」
いつもの調子で俺も唇をわざと可愛らしく尖らせ、ぐぐっと硬い胸板を前に押す。ぐぐっと押す。ぐぐっと。
……おい、びくともしないぞ。どうなってんだ?これでも、握力は同期の中じゃ一番なのに。
「橋本さん。どいて」
「うっさい。小悪魔」
「ちょっと」
良い加減にしろよ、オッサン。
などと、あやうく禁句を口にしかけて、慌てて唇を引き結ぶ。
その唇が柔らかいもので塞がれた。
おい、嘘だろ。
その柔らかいものの正体が橋本の唇だと気づいたときには、引き結びは割られ、舌先が俺の口内へ侵入していた。熱を持った塊は縦横無尽に粘膜を蹂躙し、歯の裏を舐め、舌先を絡ませて、好き勝手振る舞う。
俺のうなじを指が這い、ぞぞっと身を竦ませたら、離さないと言わんばかりに引き寄せられる。繋がりが深くなる。
こんな濃厚なキス、知らない。
「ん…んん……」
息継ぎのタイミングがわからない。
良い加減に苦しくなって、橋本の胸板を拳で叩いたら、ようやく相手は唇を離してくれた。
「下手くそやな」
むかつく批評つきで。
カーッと俺の頭に血が昇ったのは、言うまでもない。
「や、やかましいな。俺のやり方に、どうこう言われる筋合いは」
「今後は俺のやり方に従ってもらうから」
言い終わらないうちに橋本は言葉を被せ、またしても唇が重なる。
「んー!んん!」
またしても、熱い舌に翻弄される。
たっぷり吸われて、このまま魂まで取られるんじゃなかろうかと本気で心配した直後、ようやく解放される。
だから、キスがえげつないんだよ。
もっとスマートに出来ないかな。
って言うか、何でキスするわけ?
言いたいことは色々あるのに、ゼイゼイと呼吸を整えるのが優先で、声は腹の中に溜まるのみ。
口の周りがべたべたする。手の甲で拭うと、粘液が糸を引いた。げっ。もしかして橋本の唾かよ、汚な。
ごしごしとホテルの極上のシーツで拭いていると、頭上からバカにしたようにふんと鼻が鳴る。
「お子様には、刺激が強かったみたいやな」
「うるさい、オッサン」
橋本が俺の禁句を口にしたため、つい俺も禁断の台詞を吐いてしまった。
言ってから、しまったと後悔しても、もう手遅れ。
橋本の垂れ目がこれでもかと吊り上がっている。
「おい、誰がおっさんや」
だから、消防の早着替えをこんなところで披露しなくていいから。カッターシャツを一瞬で脱ぐな。
「俺、まだ枯れてないで」
「わ、わかってますって」
「いいや、わかっとらんな、お前は」
インナーのTシャツも、脱ぐんじゃない。早いな。
現れたのは、綺麗に盛り上がった胸筋。
まるで、外国の拳闘士みたいだ。
その、あまりの見事さに、思わず生唾を飲み下してしまった。
さすが、日浦さんと張り合って片手懸垂の記録出しただけのことはある。
「こうなったら、体に叩きこんだる」
不気味なことを言って、俺が怯んだ隙に、橋本は俺のシャツのボタンを全て外してあった。
だから、こんなところで器用さを見せびらかさなくていいから。
なんて考えてるうちに、橋本の手でベルトを引き抜かれ、スラックスを絨毯に放られ、あっと言うまに下着剥き出し姿にされてしまっていた。そのパンツのゴムを弾かれる。
「ちょっと、そこは」
さすがに駄目だろ。いつもはまん丸の目玉を、このときばかりは吊り上げる。
「何や」
「駄目ですって」
「嘘つけ」
節の張る長い指が下着の中に潜り込んだ。
「ひいっ」
どこから出た声だ、と自分自身に突っ込みを入れながら、橋本の卑猥な指を取り出すために自分も中に手を入れる。これ、完全にゴム伸びたな。あーあ。プロポーズ成功の願掛けに奮発したブランドものだったのに。
「こら。どこに意識飛ばしてるんや。集中しろ」
おい。どさくさ紛れに首に吸い付いてくるなよ。頸動脈をちゅーちゅー吸うな。あんたは吸血鬼か。
なんて平常心を保とうと余計なことを考えても、悲しいかな、硬質になっていく俺の下着の中。
悔しい事この上ないのは、橋本のしてやったりのニヤニヤ笑い。
くっそー。こうなったら、お経でも唱えて平静を保つしかない。ぎゅっと瞼を閉じる。
不意に、橋本の動きが止まった。
俺のものはぱんぱんに腫れ上がり、布地を強く押し上げている。もう間もなく、のところで、絡みついていた指がスッと解けた。
「……え?」
薄目を開ければ、片膝を立て、鬱陶しそうに前髪を掻き上げる橋本の横顔がまず目に入った。
正気を取り戻した?いや、違うな。目は潤んだまま、ほんのりと目元が赤い。これは、抱く寸前の顔だ。
「続けるか、止めるか。決めんのはお前や」
ずるい。俺は歯噛みする。今更、やめられるわけない。アドレナリンは全開で、もう体中の器官があんたを受け入れる態勢に入っているのに。
「つ、続きを」
どうにかこうにか、喉に詰まる声を絞り出す。
さすがに即答過ぎるだろ、これは。どんなに欲求不満だよ、俺。
橋本は垂れ目を大きく開いた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
恭介&圭吾シリーズ
芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる