【完結】失恋した消防士はそのうち陥落する

晴 菜葉

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 ほどなくして、赤い光とサイレンでその存在を知らしめながら警察が到着する。車両から降りたのは、青いジャンパーを身に付けたスキンヘッドだった。武道をたしなんでいるのは一目瞭然の、筋肉質で重量感のある体躯をしている。
「先輩。これは警察の仕事なんですから。無茶はやめてくださいよ」
 強面の刑事はどうやら橋本の知り合いらしい。しかも、かなり頭が上がらないと見える。
「放火犯が誰か判明したんやから、万々歳やろうが」
 腕を組み、不機嫌に鼻息を荒くする橋本。
「すぐに指名手配します」
 大入道が大男にぺこぺこ頭を下げている様は奇妙としか言いようがない。
 二人から離れた場所で、コントでも見ているような気分になった。
「おい。この間、消防の通報があったんや。大橋んとこ。ドアの閉じ込み。結局、悪戯だったんやが。お前ら、何か聞いてへんか?」
「通報?さあ?初耳ですね」
 スキンヘッドが首を捻る。恍けているのを装うのではなく、本当に何も知らないようだ。
 ふと、刑事がおっと目を大きくさせた。
「もしかして、真也君?」
 尋ねるなり、がに股で近づいてきた。
「そうですけど?」
 何故、初対面の相手に名前を知られているのだろうか。
 警戒心剥き出しで小さく頷く。
 警察に知り合いはいない。ましてや、お世話になったことはただの一度もない。
 間近にくると、やけに威圧的だな。
 強面は、不躾なほど顔を覗き込んできたが、やがてニカッとヤニで黄色くなった歯を剥き、笑顔らしきものを見せた。えらく馴れ馴れしいな。
「そうか。懐かしいなあ。何年振りになるかな。あのときは小学生だったよな」
「?」
「今は橋本先輩と同じ消防士かあ。どこまでも、仲い……痛い!」
 橋本の鉄槌が背中に入り、スキンヘッドは言葉を中断せざるを得なかった。
「ごちゃごちゃ余計なこと言わんでええ。行くぞ」
 腕を強引に掴まれ、力任せに引き寄せられる。普段はのほほんと垂れ目のくせに、いつになく橋本の眼差しは鋭く、強面の刑事を一瞬で竦みあがらせてしまうほど。凄いな。
「あっ、ちょっと。聴取がまだ」
 自転車のサドルに跨った橋本を、刑事は慌てて引き止めた。
「なら、ちゃっちゃと済ませろ。ええか。絶対、くだらんこと喋んなよ」
 理由は定かではないが、橋本は俺が後輩と接近することを快く思っていない。何やら橋本は口封じをしている。
 薄々感じてたけど。実はガラ悪いな、この人。
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