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続いた言葉の先を聞き返すことは不可能だった。
橋本の顔がだんだん近づいてきて、半開きになった唇が、俺の唇を塞いでしまったからだ。生温かい相手の舌で唇を割られたかと思うと、あっと言う間に侵入を許してしまっていた。
「んっ……ふう……」
この間の比ではない。性急な動きが口内を蹂躙する。逃げようと顎を退けば、余計に舌が追ってきて、さらに唇の繋がりが深くなった。ぶつかった歯がカチンと音を立てて、鉄臭い味が見る間に広がった。それすら橋本は舐め取り、淫蕩な目を寄越す。
「は、橋本さん。ふざけるのは、もう」
嫌がらせなら充分だ。
もっと別の方法をとってほしい。
息をするタイミングを見計らってやっとキスから逃れる。勘弁してくれと頼んだ。
「二回もセックスしたのに、まだ俺のもんやないんか」
喉が潰れてしまったような苦しそうな声。
橋本は眉を寄せてぎゅっと目を閉じた。
辛そうに歯を食い縛り、眦からは今にも涙が零れそうになっている。
弱い面を晒すとは思ってもみなかった。
衝撃で声を失い、抵抗するのを忘れてしまった。
俺の筋肉の硬直が解かれた隙をついた橋本によって、シャツを頭から捲り上げられた。おもむろに乳首に吸いつかれる。ぬらぬら赤い舌で胸を濡らされる。くすぐったい感覚に、さらに力が萎えそうだ。
「ちょっと。やめろよ」
「うるさい。この間はよがってたやろうが」
「そ、それは。お互いの同意で」
「今もそうやろうが」
「違います」
明日は仕事だ。任務に差し支える。いつも、当番明けだったじゃないか。
度を越えている。
逃げようとしたら、両手を一括りに、橋本の片方の手によって動きを封じられる。
その間に、橋本は空いた方の手で器用に俺のベルトを外すと、下着ごとズボンを摺り下ろした。
「ちょっ、待っ。ふざけんなよ!」
悪ふざけでは済まされない。
本気でキレた。
こんな無体を働かれて、興奮なんか出来るか。
「どけろよ!」
片足をくの字に曲げ、鳩尾に入れてやるが、びくともしない。
その間にも橋本のねっとりとした舌は唇から首筋を伝い、胸から臍を辿り、柔らかな繁みへと下っていく。
「あっ」
電流が走る。
橋本の口内は火傷しそうに熱くて、すぐさま反応してしまった。
あっと言う間に形を変えてしまった自分が恨めしい。
こいつ、舌遣いは上手いんだ。前回でわかった。
でも、今回は状況が違う。
これは、無理矢理だ。互いの同意なしに、こんなのは駄目だ。
恥の上塗りは御免だ。必死に体を捩って逃れようと試みる。
それなのに、あろうことか、離すどころか含んだ口元を窄めて、さらに吸い付きを強くした。
しかも、わざと聞かせているかのように、吸いついたり舐めたりと、ぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てる。時折、伺うような上目遣いの視線とぶつかった。
「我慢せずに全部吐き出せよ。全部残さず飲んでやるから」
うるさいな、オッサン。羞恥を煽っているとしか思えない淫猥な言い方。
カーッと全身の血液が顔に集中する。
しばらくご無沙汰だから、解放の速度は凄い。すでに爆発寸前であると見透かされていた。
「真也」
先端の割れ目に舌を這わせ、橋本は促してくる。
「ひっ」
喉がひくつく。
あ、やばい。
途端、激しく全身が痙攣した。下腹部の奥からどろどろとした熱い塊が噴出し、爪先が反り返った。
思ってもみなかった早さに戸惑って、恐る恐る相手を伺えば、口の端を舌舐めずりしていた。上下する喉仏。橋本は言葉通りに実行したのだ。
信じられない。
見たくなかった光景が目に焼き付いて、いたたまれない。
俺はぎゅっと目を閉じた。
橋本の顔がだんだん近づいてきて、半開きになった唇が、俺の唇を塞いでしまったからだ。生温かい相手の舌で唇を割られたかと思うと、あっと言う間に侵入を許してしまっていた。
「んっ……ふう……」
この間の比ではない。性急な動きが口内を蹂躙する。逃げようと顎を退けば、余計に舌が追ってきて、さらに唇の繋がりが深くなった。ぶつかった歯がカチンと音を立てて、鉄臭い味が見る間に広がった。それすら橋本は舐め取り、淫蕩な目を寄越す。
「は、橋本さん。ふざけるのは、もう」
嫌がらせなら充分だ。
もっと別の方法をとってほしい。
息をするタイミングを見計らってやっとキスから逃れる。勘弁してくれと頼んだ。
「二回もセックスしたのに、まだ俺のもんやないんか」
喉が潰れてしまったような苦しそうな声。
橋本は眉を寄せてぎゅっと目を閉じた。
辛そうに歯を食い縛り、眦からは今にも涙が零れそうになっている。
弱い面を晒すとは思ってもみなかった。
衝撃で声を失い、抵抗するのを忘れてしまった。
俺の筋肉の硬直が解かれた隙をついた橋本によって、シャツを頭から捲り上げられた。おもむろに乳首に吸いつかれる。ぬらぬら赤い舌で胸を濡らされる。くすぐったい感覚に、さらに力が萎えそうだ。
「ちょっと。やめろよ」
「うるさい。この間はよがってたやろうが」
「そ、それは。お互いの同意で」
「今もそうやろうが」
「違います」
明日は仕事だ。任務に差し支える。いつも、当番明けだったじゃないか。
度を越えている。
逃げようとしたら、両手を一括りに、橋本の片方の手によって動きを封じられる。
その間に、橋本は空いた方の手で器用に俺のベルトを外すと、下着ごとズボンを摺り下ろした。
「ちょっ、待っ。ふざけんなよ!」
悪ふざけでは済まされない。
本気でキレた。
こんな無体を働かれて、興奮なんか出来るか。
「どけろよ!」
片足をくの字に曲げ、鳩尾に入れてやるが、びくともしない。
その間にも橋本のねっとりとした舌は唇から首筋を伝い、胸から臍を辿り、柔らかな繁みへと下っていく。
「あっ」
電流が走る。
橋本の口内は火傷しそうに熱くて、すぐさま反応してしまった。
あっと言う間に形を変えてしまった自分が恨めしい。
こいつ、舌遣いは上手いんだ。前回でわかった。
でも、今回は状況が違う。
これは、無理矢理だ。互いの同意なしに、こんなのは駄目だ。
恥の上塗りは御免だ。必死に体を捩って逃れようと試みる。
それなのに、あろうことか、離すどころか含んだ口元を窄めて、さらに吸い付きを強くした。
しかも、わざと聞かせているかのように、吸いついたり舐めたりと、ぴちゃぴちゃといやらしい水音を立てる。時折、伺うような上目遣いの視線とぶつかった。
「我慢せずに全部吐き出せよ。全部残さず飲んでやるから」
うるさいな、オッサン。羞恥を煽っているとしか思えない淫猥な言い方。
カーッと全身の血液が顔に集中する。
しばらくご無沙汰だから、解放の速度は凄い。すでに爆発寸前であると見透かされていた。
「真也」
先端の割れ目に舌を這わせ、橋本は促してくる。
「ひっ」
喉がひくつく。
あ、やばい。
途端、激しく全身が痙攣した。下腹部の奥からどろどろとした熱い塊が噴出し、爪先が反り返った。
思ってもみなかった早さに戸惑って、恐る恐る相手を伺えば、口の端を舌舐めずりしていた。上下する喉仏。橋本は言葉通りに実行したのだ。
信じられない。
見たくなかった光景が目に焼き付いて、いたたまれない。
俺はぎゅっと目を閉じた。
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