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しおりを挟む亡き父が一念発揮して、築二十年の中古ながら一戸建てを購入したのは、もう二十年も前の話だ。
七福市の臍とも呼ばれる七福市駅から東へ三駅の恵比寿川駅を最寄りに、ごちゃごちゃと新旧入り混じる狭い細道をくねり、一級河川の七福川に掛けられた恵比寿川橋を渡って、一方通行を入り、さらに道幅が狭くなった旗竿地が笠置家所有の土地だ。
今にも崩落の危機に瀕しているブロック塀の前でバイクが停まったときには、すでに太陽は西の空付近。
「悪かったな、色々と」
当番明けで散々引っ張り回したことを少しは反省しているのか、ぼそっと橋本が呟いた。
バイクを降りた俺は、よもや橋本がしおらしく頭を下げるとは思ってもみず、きょとんと目を丸くし、ヘルメットの紐を外していた手を止める。フルフェイスといった装備に守られ、相手の表情はわからない。
返答に困っているうちに、バイクはさっさと走り去ってしまった。残るのは土煙のみ。
がしがしと頭を掻き毟り、その場に蹲った。
「ああーっ、くそっ! 何だってんだよ」
橋本という男が理解出来ない。飄々と揶揄ってくるかと思えば、ネチネチと嫌味は言うわ、かと思えばえらく気が利くわ、かと思えば当然のように体の関係になるわ……そこまで考え、カッーと頬に熱が集中した。
唇は僅かに荒れてかさついていたものの、口内の粘膜は異様なほど熱く、絡んだ舌はねっとりと柔らかかった。抱きしめた感触は固く、日々、鍛えているのが一目瞭然だ。
「わああああ!駄目だ駄目だ」
瞼を閉じれば蘇る、窄まった橋本の唇。
いやらしく口角を舐める濡れた舌。
せっかく何とか鎮まりをつけた下半身がまたもやむずむずする。
俺は首がもげそうになるくらい大きく振って雑念を散らした。
「取り敢えず、髭でも剃ろう」
頭から冷たいシャワーを浴びれば、目が醒めるかも知れない。虚しく期待しながら、玄関の扉を開けた。
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