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真夜中の本音 ※R18
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現在、昼ではないことは何となくわかったが、時間はさっぱり見当がつかない。
狭いシーツの上で互いに背を向け、ヒルダとルパートは各々の呼吸を探り合っていた。
「夜明けまで、しばらく時間がかかる。休めるうちに休んでおけ」
夜明け、ということは、やはり今は深夜だ。
「わかりました」
返事をしつつ、ヒルダは休めそうにないことを自覚している。
身じろぎするたびに僅かに触れ合う筋肉の硬い感触が、眠りに入ろうとする脳を張り倒すのだ。
肘や背中に、びりびりとむず痒い痛みが走る。
「寒いか?」
一瞬触れ合う人肌のくすぐったさを、相手はどうやら取り違えたらしい。
「い、いえ」
「そうか」
寝返りを打つ際の、シーツが擦れる音。
「ル、ルパート様!」
ぎょっと目を剥き、首だけ捻って後ろを向いたヒルダに、ルパートはニタリと口元を不気味に吊り上げた。
「さ、寒くないと。私は」
「ああ、そうか」
素っ気なく返すものの、態度は正反対を示している。
脊髄反射で叫んでしまったのは、いきなり背後から腕が回り、ヒルダの胃のあたりに巻き付いたせいだ。横を向いたまま相手の胸元に引き寄せられ、うなじに吐息が吹きかかる。
「どうせ、休めそうにないからな」
吐息混じりの呟きは、ヒルダの鼓膜まで届かない。
たちまち早鐘を打つ心臓の音が、直に耳の器官を揺すぶったからだ。
「頼むから、無茶はやめろ」
うなじに薄い唇が触れる。
命令というには、甘さが含まれている。
むしろ、懇願に近い。
「すぐにお前を見つけられたから、良かったものの。もし、あのまま見つけられなかったら、今頃は……」
途切れた声。
ヒルダの瞼の裏で、己の体に稲妻が落ち、黒焦げになる姿が浮かんだ。
急に大声で泣き出したくなり、ヒルダは気を紛らわせなければならなかった。
「あの荒くれ者はどうなったでしょうね」
「どうせ、雷に打たれている」
「エレナは心配しているでしょうね」
「そうだな」
「……」
「……」
会話が続かない。
ヒルダは早々に根負けし、口を噤む。
「それより、もっと有意義なことを話さないか」
ルパートの提案に、ヒルダは怪訝に眉を寄せた。
有意義なこと、つまり、任務で集めた情報を寄越せと言うことか。
後ろから抱きしめられ、満たされた気分が、潮が引くように失われていく。
屋敷での秘密めいたキスも、あくまで任務の遂行を円滑に進めるため。
ルパートにとって、ヒルダは所詮、駒でしかない。
愛されていると錯覚し、そうではないと思い知らされて、心が冷えること自体が過ちだ。
だが。
「私は本物の妻にはなれませんか?」
独りでに口から言葉が零れ落ちていた。
「何だと?」
問われて、ヒルダは自分が余計なことを口走ってしまったことに気づいた。
本来なら「戯言です」「お忘れ下さい」と、幕引きをはかるべきところ。
しかし、体に巻き付く逞しい二の腕が、失言の後も未だ離れず、むしろ強さが増したようにも思えて、ヒルダは全てを吐き出したい誘惑に勝てなかった。
「……愛しているんです。ルパート様」
自然と舌先に乗る言葉。
ルパートが息を呑んだことが、気配でわかる。
「愚かなことを言っているのは、わかっています」
目頭が熱い。
「申し訳ありません。本来なら、この気持ちは隠し通すべきなのに」
ルパートは何も返さない。
それが、答え。
口が悪くて、態度は威圧的で、氷のように双眸はきついし、いつも緊張感を纏って、わざと近寄りがたい雰囲気を作るし。それでも、根は優しいことは、もうちゃんとわかっている。彼は、優しい。ヒルダを傷つけない言葉を思案しているのだ。
「今夜限りで、この気持ちは封印します」
それが、彼に対する誠意。
堪え切れない涙が、頬を滑っていく。
せめて、最後くらい温もりを味わっても良いだろう。これからは、もう、素肌に触れることはないのだから。
ヒルダはルパートの片腕を両方の手で持ち上げ、涙でぐしゃぐしゃの頬で撫でた。
雨のせいで柑橘の芳香はすっかり消えて、今はただ、男らしい汗ばんだ匂いしかない。
気温が下がっているのに、じっとりと肌が湿っていた。ヒルダも同じだ。
「待て待て待て待て」
いきなり、感傷に浸る雰囲気をぶち壊される。
銅像のように微動だにしないと思った途端、今度は慌てたような焦ったような早口を繰り返した。
「何故、話を終わらせようとするんだ」
言い終わらないうちに、大きな手がヒルダの頬から一旦離れ、剥き出しの豊満な乳房を両脇から同時に鷲掴みにする。
「きゃっ」
突然のことに、ヒルダの喉が高く鳴った。
「有意義なことを話すんだろう」
「で、ですから」
「お前は有意義の意味を知っているのか?」
批難めいた台詞。ますます乳房が潰され、ヒルダは質問するより悲鳴を上げさせられた。
「俺は言ったはずだ。これからは、本物の夫婦になると」
「え、ええ。ですから私は、これから任務に忠実に」
「全く通じていないようだな」
舌打ちで遮り、ルパートはヒルダを仰向けに押し倒す。
真上から見下ろしてくる視線。暗がりに目が慣れてくると、物凄い怒りを孕んでいる。
その凶悪さがあまりにも美しく、ヒルダは生唾を呑んだ。
狭いシーツの上で互いに背を向け、ヒルダとルパートは各々の呼吸を探り合っていた。
「夜明けまで、しばらく時間がかかる。休めるうちに休んでおけ」
夜明け、ということは、やはり今は深夜だ。
「わかりました」
返事をしつつ、ヒルダは休めそうにないことを自覚している。
身じろぎするたびに僅かに触れ合う筋肉の硬い感触が、眠りに入ろうとする脳を張り倒すのだ。
肘や背中に、びりびりとむず痒い痛みが走る。
「寒いか?」
一瞬触れ合う人肌のくすぐったさを、相手はどうやら取り違えたらしい。
「い、いえ」
「そうか」
寝返りを打つ際の、シーツが擦れる音。
「ル、ルパート様!」
ぎょっと目を剥き、首だけ捻って後ろを向いたヒルダに、ルパートはニタリと口元を不気味に吊り上げた。
「さ、寒くないと。私は」
「ああ、そうか」
素っ気なく返すものの、態度は正反対を示している。
脊髄反射で叫んでしまったのは、いきなり背後から腕が回り、ヒルダの胃のあたりに巻き付いたせいだ。横を向いたまま相手の胸元に引き寄せられ、うなじに吐息が吹きかかる。
「どうせ、休めそうにないからな」
吐息混じりの呟きは、ヒルダの鼓膜まで届かない。
たちまち早鐘を打つ心臓の音が、直に耳の器官を揺すぶったからだ。
「頼むから、無茶はやめろ」
うなじに薄い唇が触れる。
命令というには、甘さが含まれている。
むしろ、懇願に近い。
「すぐにお前を見つけられたから、良かったものの。もし、あのまま見つけられなかったら、今頃は……」
途切れた声。
ヒルダの瞼の裏で、己の体に稲妻が落ち、黒焦げになる姿が浮かんだ。
急に大声で泣き出したくなり、ヒルダは気を紛らわせなければならなかった。
「あの荒くれ者はどうなったでしょうね」
「どうせ、雷に打たれている」
「エレナは心配しているでしょうね」
「そうだな」
「……」
「……」
会話が続かない。
ヒルダは早々に根負けし、口を噤む。
「それより、もっと有意義なことを話さないか」
ルパートの提案に、ヒルダは怪訝に眉を寄せた。
有意義なこと、つまり、任務で集めた情報を寄越せと言うことか。
後ろから抱きしめられ、満たされた気分が、潮が引くように失われていく。
屋敷での秘密めいたキスも、あくまで任務の遂行を円滑に進めるため。
ルパートにとって、ヒルダは所詮、駒でしかない。
愛されていると錯覚し、そうではないと思い知らされて、心が冷えること自体が過ちだ。
だが。
「私は本物の妻にはなれませんか?」
独りでに口から言葉が零れ落ちていた。
「何だと?」
問われて、ヒルダは自分が余計なことを口走ってしまったことに気づいた。
本来なら「戯言です」「お忘れ下さい」と、幕引きをはかるべきところ。
しかし、体に巻き付く逞しい二の腕が、失言の後も未だ離れず、むしろ強さが増したようにも思えて、ヒルダは全てを吐き出したい誘惑に勝てなかった。
「……愛しているんです。ルパート様」
自然と舌先に乗る言葉。
ルパートが息を呑んだことが、気配でわかる。
「愚かなことを言っているのは、わかっています」
目頭が熱い。
「申し訳ありません。本来なら、この気持ちは隠し通すべきなのに」
ルパートは何も返さない。
それが、答え。
口が悪くて、態度は威圧的で、氷のように双眸はきついし、いつも緊張感を纏って、わざと近寄りがたい雰囲気を作るし。それでも、根は優しいことは、もうちゃんとわかっている。彼は、優しい。ヒルダを傷つけない言葉を思案しているのだ。
「今夜限りで、この気持ちは封印します」
それが、彼に対する誠意。
堪え切れない涙が、頬を滑っていく。
せめて、最後くらい温もりを味わっても良いだろう。これからは、もう、素肌に触れることはないのだから。
ヒルダはルパートの片腕を両方の手で持ち上げ、涙でぐしゃぐしゃの頬で撫でた。
雨のせいで柑橘の芳香はすっかり消えて、今はただ、男らしい汗ばんだ匂いしかない。
気温が下がっているのに、じっとりと肌が湿っていた。ヒルダも同じだ。
「待て待て待て待て」
いきなり、感傷に浸る雰囲気をぶち壊される。
銅像のように微動だにしないと思った途端、今度は慌てたような焦ったような早口を繰り返した。
「何故、話を終わらせようとするんだ」
言い終わらないうちに、大きな手がヒルダの頬から一旦離れ、剥き出しの豊満な乳房を両脇から同時に鷲掴みにする。
「きゃっ」
突然のことに、ヒルダの喉が高く鳴った。
「有意義なことを話すんだろう」
「で、ですから」
「お前は有意義の意味を知っているのか?」
批難めいた台詞。ますます乳房が潰され、ヒルダは質問するより悲鳴を上げさせられた。
「俺は言ったはずだ。これからは、本物の夫婦になると」
「え、ええ。ですから私は、これから任務に忠実に」
「全く通じていないようだな」
舌打ちで遮り、ルパートはヒルダを仰向けに押し倒す。
真上から見下ろしてくる視線。暗がりに目が慣れてくると、物凄い怒りを孕んでいる。
その凶悪さがあまりにも美しく、ヒルダは生唾を呑んだ。
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